日本軍はアジアに対する「加害者」である

2018年02月11日 01:00

宇山卓栄さんの記事には、重大な事実誤認がある。日本の植民地経営が赤字だったことはよく知られているが、それは日本が「啓蒙的」な動機で朝鮮や満州を支配したからではない。日本は「大東亜」のブロック経済を構築しようとしたが、投資を回収する前に戦争に負けたのだ。

植民地経営は、ヨーロッパのほとんどの国では赤字だった。大きな黒字だったのはイギリスだが、それが「文明化への使命」だなどというのは、時代錯誤の自民族中心主義だ。アフリカの黒人を1500万人も新大陸に奴隷として連行したことに、どんな啓蒙的な使命があったというのか。

ファーガソンは「大英帝国は世界を文明化した」と主張して論議を呼んだが、それは植民地を啓蒙するためではなく、効果的に搾取するためだった。ただし植民地支配は、1928年の不戦条約までは国際法違反の「侵略」ではなかった。したがって1910年の日韓併合も侵略ではないが、1931年の満州事変以降は国際法違反である。

以上は国際関係の基礎知識だが、いまだにこれを学校でちゃんと教えていないので、共産党のように日本は朝鮮を侵略したという人や、逆に宇山さんのように「日本は朝鮮を啓蒙した」というネトウヨがいる。彼の「植民地支配によって、我が国は多大の損害と苦痛を与えたのではなく、被ったのである」という結論は、とんでもない話だ。

日本は朝鮮と台湾と満州を植民地支配し、中国本土も支配しようとしたが失敗した。日本軍が満州事変と日中戦争で15年間に殺した中国人は、約1000万人と推定される。日本の植民地経営は大損で、戦争も大失敗だったが、それは日本人がヘマだっただけだ。日本軍はアジアに多大の損害と苦痛を与えた「加害者」である。

それをいつまでも言いつのって日本に謝罪を求める韓国はおかしいが、宇山さんのように日本がアジアを「啓蒙」したなどというのは思い上がりもはなはだしい。愚かな戦争を反省することは、左翼でも「自虐史観」でもない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)
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