詐欺カンパニー ~“普通の会社”があなたをだます~
追跡“詐欺カンパニー” だましの新手口
兵庫県の山林に土地を所有している80代の男性です。
被害にあった男性
「この辺が私の土地です。
ぜひ売らしてくださいということで話が進んでいったんです。」
営業マンから高値で売れると持ちかけられ、売却のための土地の調査費など手数料38万円を支払いました。
被害にあった男性
「ニュースを見た時に、逮捕されたということがわかりましたので、ああやられたなと。」
男性の家に営業マンが訪ねてきたのは、去年(2014年)の春。
会社のパンフレットを見て、しっかりとした会社だと感じたといいます。
使いみちのない土地を処分したいと考えていたこの男性。
今、中国の富裕層が日本の山林を買い求めていると説明を受け、手数料を支払いました。
この会社「未来土地コーポレーション」は去年、詐欺などの疑いで摘発されました。
実質的経営者の上岡俊郎被告。
12人から420万円余りをだまし取った疑いで逮捕・起訴されました。
「だますつもりはなかった」と否認しています。
警察によると、この会社は土地の所有者に対して高値で売れると持ちかけ、1件当たり三十数万円の手数料を受け取っていました。
しかし初めから売るつもりはなく、金をだまし取る目的だったと見られています。
顧客には、本当に不動産取り引きを行っている会社だと装っていたといいます。
業界団体に入会金など百数十万円を払って加盟し、不動産取り引きの資格・宅建を取得していた社員もいました。
宅建を持った社員がブログやツイッターを頻繁に更新。
海外でも豊富な取り引き実績があることもPRしていました。
警察は、この会社が全国のおよそ5,000人から13億円余りをだまし取ったと見ています。
取材を進めると、顧客の多くは警察の摘発を知るまでは被害に遭ったことに気付いていなかったことが分かりました。
兵庫県の山林に土地を持ち、売却のための手数料を払ったこの男性。
本当にきちんとした会社なのか確かめたいと、事前に約束することなく営業マンの名刺に書かれた住所を訪ねたことがありました。
被害にあった男性
「ここに“未来土地株式会社”となっていました。
立派な会社やなと思いましたけど。」
男性がオフィスに入ると、受付の女性3人が出迎えました。
紺色のおそろいの制服姿でした。
温かい緑茶をふるまわれたあと営業マンが現れ、すっかり信用したといいます。
被害にあった男性
「事務所がどんなんなっているかと思って半信半疑で来てみたらちゃんとしたオフィスだったので、これやったら大丈夫かなという印象は受けました。」
オフィスを構えるだけでなく、実際に土地を売買しているかのように装う巧妙な仕掛けもありました。
ある被害者のもとに送られてきた、土地の調査報告書です。
現地に行き売却予定の看板を立てたとする写真が載せられていました。
さらに、実在する中国人向けの不動産取り引きの仲介サイトに自分の土地の情報が掲載されていました。
中国では高く売れると、価格は500万円に設定されていました。
被害にあった男性
「(中国人向けサイトは)最寄り駅、土地面積、建ぺい率、そういうものが詳細に、しかも数えきれない多くの物件数が出ていたので、これは大丈夫なんじゃないかと。
詐欺師だったらここまで手の込んだことをするかなと。」
男性を信じ込ませた不動産サイトへの掲載。
不動産業者を訪ね、物件の相場を聞きました。
500万円の価格で掲載された男性の60坪の土地。
坪単価8万円の計算ですが…。
不動産業者
「実際の価値としたら(坪単価)1,000円いくかいかないか、たぶん1,000円以下です。
(掲載価格は)80倍ですね。
(外国人は)物件の査定を非常に厳しくやっています。
このような資産価値のない物件を買う中国人はいないと思います。
実際、二束三文の土地ですから、売れません。
売れないことはわかっていながら出している。」
追跡“詐欺カンパニー” 元社員が語る真相
実際に企業活動を行っているかのように見せかけるための、さまざまな仕掛け。
私たちは、会社の元幹部に話を聞くことができました。
だますためには手間だけでなく費用をかけることも惜しまなかったといいます。
本社の家賃だけで月に70万円支払っていました。
元幹部
「詐欺じゃない、怪しくないということを信じ込ませるためには、きっちりした会社でなければいけない。
先行投資は仕方のないことです。
投資した分のお金は簡単にすぐに取り戻せますので。」
ほとんどの顧客がだまされていると気付かないまま拡大した被害。
実は、現場の社員の多くもそのからくりを知らなかったといいます。
1年間、営業マンとして働いていたという男性です。
男性は、この会社が一般的な求人広告を出しているのを見て応募しました。
海外展開に力を入れているという点にも、魅力を感じたといいます。
元営業マン
「ホームページがすごいしっかりしてた。
海外に売るとか、中国系が買っていく話がバーンと載っているわけですし。」
給料は歩合制で月におよそ60万円。
営業マンは客から手数料を取ることに専念し、実際の土地の取り引きは上層部が担っていると聞かされていました。
元営業マン
「普通に営業だと思っていますからね。
基本的にみんな詐欺とは思ってないですからね。
えぇ!って感じなので、(詐欺だと)聞いてね。」
会社の元幹部は、社員にまで正当なビジネスを行っていると信じ込ませることが重要だったといいます。
元幹部
「自分たちのやってることが、詐欺や詐欺まがいだっていう自覚があると営業マン自身がこの仕事を続けたくないとか、辞めたりしますので、堂々とやるという方針でやっていました。
やっていることは詐欺なんですけど。」
“詐欺カンパニー” だましの新手口
●“カンパニー型詐欺”の特徴、ねらいは?
葛田さん: カンパニー型の詐欺というのは、オフィスも構え、人も集め、現実にそこに人がいることによって警察の摘発を免れやすくなるという特徴があると思います。
そのことによって、大規模かつ長期間にわたって詐欺行為を繰り返し、継続することにより被害が拡大していく、大規模な被害が発生してしまう、そういう特徴があると思います。
(長期間という点、いわゆる振り込め詐欺などとは違う?)
そうですね。
振り込め詐欺などは単発の詐欺、その都度オフィスを借りて電話をかけ被害者をだまし、摘発されそうになると、そのテナントを引き払ってしまうということになると思います。
それに対してこの会社型の詐欺というのは、もう外形上はまっとうな会社が、まっとうな取り引きをしているかのような外観をしますので、被害者としても、自分が詐欺に遭ったのかどうか、そういうことに全く気付かない、そういうことがよくあると思います。
●どうしてここまでだまされてしまう?
野本記者: 従来の詐欺の、こそこそしていて逃げてしまう、そういったイメージの逆を行ってるという点が挙げられると思うんですね。
会社をかたる手口というのは、ここ数年、振り込め詐欺などでも見られていまして、ただ、会社をかたると言っても会社名はでたらめですし、その所在地とされる所にオフィス機能はない。
登記簿謄本上は存在していても会社の実体はない、いわゆるペーパーカンパニー、会社の社員も偽名。
もう何もかも逃げることを前提にしたでたらめってことになりますので、今回のこの新たに出てきている“カンパニー型詐欺”、これは実際にオフィスを立派なものを構えて、社員は正規の方法で募集する。
そして、名刺に書かれた営業マンの名前もこれは本名だと。
「まさかこの会社がだますとは思わない」、そう思わせるのが手口ですね。
(怪しいと思ったり、ちょっとした気付きはない?)
万一、被害者が自覚する、「あっだまされたかもしれない」と思っても、それをその被害救済なり刑事告訴なり、そういった行動に移させないためのからくりもあるんですね。
今回、摘発された大阪の会社のケースを見てみますと、例えば契約額、これは被害額というふうに言い換えてもいいと思いますが、三十数万円です。
この三十数万円という金額、確かに大きい金額ですけども、まあ、警察まで行って、あるいは弁護士に相談して…だったらこれぐらいならいいやってことに、泣き寝入りするぎりぎりのところの金額を設定していたというふうに、関係者は取材に対して答えてるんですね。
ですから、だますだけではなくて、被害を自覚した被害者に行動を起こさせないようにするような、表面化させないようにする手口という意味でも、非常に巧妙だということがいえると思うんです。
●社員すらもある意味だましていく どこにねらいがある?
葛田さん: まずは、まともな商行為を装って社員を募集することによって、社員自体、従業員自体に、自分たちが詐欺をしているということを気付かせないというねらいがあると思います。
詐欺であるということを身内の人が知ってしまうと、そこから情報が流出したり、内部告発をされたりして、自分たち、詐欺をしている側が警察に摘発されるおそれがある。
そういうリスクを回避していると考えています。
●就職も難しく正社員になかなかなれない 応募する側の弱みにもつけ込んでいる?
葛田さん: そうですね。
例えば私が今まで相談を受けた会社というのがですね、ハローワークを通じて、営業マンを募集しているというケースがありました。
それもかなりの高給の条件を提示していました。
●この巧妙なやり方、誰が考えている?
野本記者: こういった事情に詳しい複数の関係者を取材したんですけども、こうしたグループの幹部は、大半がいわゆる暴力団などの闇社会との直接的な接点というのはないということなんですね。
今回、摘発された大阪の会社の幹部についても、警察ではこういった関係はなかったと見ています。
ただその中に、訪問販売などの元営業マンなどもいまして、こういった営業現場での経験をもとに、こういった巧妙な手口を考えたのではないかと警察では見ています。
この会社は実際に朝礼を行って、営業マンに営業目標を掲げさせる。
さらに髪形であったりとか生活態度、そういったことも会社の看板を背負ってるんだということで細かく指導していたということなんですね。
いわば普通の会社でも通用するような営業マン、これを育成することで、顧客を信用させようとしていたというふうに警察では見ています。
こうしたグループですね、いろいろ関係者を取材しますと、どうも水面下で離合集散を繰り返していると。
その中で、手口についての情報交換というものがかなり行われてるようなんですね。
この大阪の会社のケースについて言えば、元社員が辞めて、ほかのグループに移った人の中で情報が拡散していく、手口が移っていく、全国各地で同じような手口が広がっていくっていうようなことも起きているようであります。
警察では、こういった手口、カンパニー型の詐欺、この実態の把握をとにかく急ぐとともに、摘発にさらに重点的に取り組んでいく方針です。
疑惑の“カード事業” 信用させるツール
新しいタイプのクレジットカードという触れ込みで作られたこのカード。
一般のものと同じように16桁の番号が刻まれています。
裏側には、問い合わせに応じるカスタマーセンターの連絡先も。
磁気も入っているように見え、一見すると不審な点はありません。
このカードによる事業への参加を呼びかけられた70代の男性。
支払った300万円の行方が分からなくなっています。
男性は都内の会社が開いたセミナーに参加し、事業によって大きな収益が得られると説明されました。
会場で録音された音声
“日本人3,000万人がクレジットカード持てない。
38兆円の市場、ここがひとつのビジネスチャンスなんです。”
セミナーのあと自宅にカードが届いたため、男性はすっかり信用したといいます。
被害にあった男性
「あっ、カードが来た、これで事業がスタートすると。
ひとつも疑いはしませんでした。」
このカードはどのように作られたのか。
事業を行うとしていた会社を訪ねると、すでに空室になっていました。
取材を進めると、かつて顧客の勧誘をしていた人物に会うことができました。
事業の参加者を信用させるためには、精巧なカードを作る必要があったといいます。
カード事業を行うとした会社の元関係者
「よくわからない方からすると(カードは)ものすごく信用のあるツールで、会員さんをだますのが目的なんで。」
発注先は、インターネットで見つけた大手企業とも取り引きのあるカード製造会社。
初めての注文でしたが、法人名義で発注し相手に怪しまれることはなかったといいます。
カード事業を行うとした会社の元関係者
「まともな会社と思わすことが可能だったから(発注)できたと思います。」
被害者の弁護団によると、カード事業に資金を提供した人は1,000人以上。
およそ9億円が集められましたが、事業の実態はなかったと見られています。
“疑惑のツール” 利用される一般企業
顧客を信用させるために利用される一般の会社。
不審な発注を受けたことがあるという会社に話を聞くことができました。
パンフレットの作成などを手がける、東京都内のデザイン会社です。
一昨年(2013年)、太陽光発電への投資を募るパンフレットの作成を請け負いました。
相手とのやり取りの際に、不自然な点があったといいます。
デザイン会社のメールの内容
“パンフレットに掲載する本社の外観写真は、どのようにいたしましょうか。”
発注元からのメールの内容
“高層ビルでかっこいい感じのビルを、適当に載せてください。”
デザイン会社 社長
「イメージだけですね。
『会社はちょっと大きめのビルを』みたいな、そういった簡単な指示だけですね。
これはもう完全にフリーな素材のビルを勝手に(ネット上から)引っ張ってきて。
写真はみんなそうですね。」
相場よりも高い値段で一括で前払いすると言われ、引き受けました。
しかしその後、発注してきた会社は消費者被害が報告されていることが分かりました。
不審な会社からの注文はその後もたびたびあると言います。
デザイン会社 社長
「怪しい程度であれば、こういうご時世なんで全て受けますね。」
「詐欺とかに使われたらどう思います?」
デザイン会社 社長
「気持ちはよくないですね、正直。
ただ全てを勘ぐってしまうと、どの仕事も受けられなくなってしまう。
その辺はなかなか断るというのはできない。」
顧客を信用させようと、ますます巧妙化する手口。
一般の企業を巻き込みながら身近に忍び寄っている実態が見えてきました。
※新たなカード事業の会社の社長はNHKの取材に対して、だますつもりはなかったとして、集めた金を返金したいと話しています。
“詐欺カンパニー” 利用される一般企業
●巻き込まれてしまう一般企業 断るのは難しい?
葛田さん: そうですね。
犯罪ツールを受注する側の企業としては、他のまともな発注内容と外見上を区別することはとても難しいと思うんですね。
また仮に、なんらかのこれは怪しいという兆候があったとしても、それについて、今、景気の状況から考えると、経営上のことを考えると、もしかしてこれは詐欺に加担していることになるのではないか、そう思ったとしても、受注を断る、これはなかなか難しいことだと思います。
●被害に遭わないために注意すべき点は?
葛田さん: 人というのは、外形や権威、肩書きというものにとても信頼を置いてしまう、そういう性質があります。
だからこそ詐欺をする側は、その心理を巧みについた行動をするわけです。
例えば、株式会社というものは以前は設立手続きがとても難しく、簡単に中小企業などが株式会社化することは難しい、有限会社との区別・住み分けというものがあったわけです。
高齢者の方を中心に、こういう詐欺被害に遭ってしまう方というのは、株式会社というものに対する信頼というものがあるかもしれません。
実際、現在でも株式会社という肩書きを取って、犯罪・詐欺をしている会社はとても多いです。
ただ、実際は実情としては株式会社はベンチャー企業支援の法改正もあってですね、極めて簡単に、安価に、低価格で簡単に株式会社を作ることができる、こういう実情を知っておくべきだと思います。
(一度立ち止まることが大事?)
一度、何か契約を急がされたり、あなただけですというふうに契約・勧誘を受けたときに、一度立ち止まり、身近な人に相談したり、行政・警察などに相談することがとても大事だと思います。