『大田区から世界へ』を掲げて始まった下町ボブスレー計画。「日本の物作りはすごいんだぞ」と示すはずが、平昌五輪を目前にして契約先のジャマイカから「我々のソリではない」と言われてしまう事態に陥っています。
下町ボブスレーも反論
ジャマイカ側からの通告に下町ボブスレー側も反論。公式サイトで交渉の経緯などを明かしています。レギュレーション違反があったことには以下のように回答しました。
レギュレーションチェックを短期間の中で3回にわたり行いました。1回目に受けた指摘はすべて対応済みで、2回目は審判員から「ソリは問題ない」とスムーズに合格しました。合格したレギュレーションの証明証の書類を請求し、揃い次第送ってもらえる手配となっています。3回目は2点の軽微な修正を指導されました。パンバーの厚みがわずかに足らないという指摘にはCFRPシートを貼ればOKといった軽微なもので対応は万全です。
2点の軽微な修正を指導されたのに1点しか説明してないのは気になるところですが、下町側としては本番で失格になるほど重大な違反ではないという認識なのでしょう。
遅いとの声にはドイツ製のソリと比較したデータを持ち出し、「下町ボブスレーはBTCより速く、ワルナーと同等」と評価されたことを持って反論しています。また「11月に行われた北米杯では10号機を使用し銀メダルを獲得しており、レポート内容も良好なもの」だったため、ジャマイカ側の言い分は正確ではないと考えているようです。
下町ボブスレーを支持する声の中には、この「北米杯で銀メダル獲得」を根拠に、マスコミの批判的な報道に流されないでという意見があります。それでは北米杯とはいかなる大会なのか。
- 下町ボブスレーも反論
- 北米杯はトップ選手が出る大会ではない
- 北米杯でもポイントが伸び悩む
- 北米杯2位はW杯14位相当の獲得ポイント
- 下町ボブスレーとラトビア製BTCでの獲得ポイント比較
- まとめというか追記15:15
北米杯はトップ選手が出る大会ではない
IBSF(国際ボブスレー・スケルトン連盟)公式サイトを見てみると、北米杯(ノースアメリカン・カップ)と呼ばれる大会は北米大陸をサーキットして全8戦で行われることが分かります。格付けとしてはワールドカップ(W杯)の下部大会。テニスで言うとATPワールドツアーとチャレンジャーの関係が近いですね。
さらにIBSFの国際競技規則では『すべての国が、最大4チームまで参加し、ポイント獲得できる。各国連盟がワールドカップの参加割り当てをすべて使用していない場合でも、各種目におけるIBSFランキングの上位12位までの男子パイロット及び上位8位までの女子パイロットは、ヨーロッパカップあるいは北アメリカカップに参加できない』とされています
五輪連覇中の女王カイリー・ハンフリーズら有力選手は同時期のW杯へ行っているため、こちらはトップ選手不在の手薄な大会と言えましょう。
北米杯でもポイントが伸び悩む
ところが初戦でジャマイカは5位に終わります。このとき優勝したのは韓国の選手ですが、リザルトを見るとジュニアカテゴリーになっています。続く第2戦が下町側の言う「北米杯で銀メダル獲得」のレースです。
このとき優勝したカナダの選手もジュニアですね。
第2戦では2位に入ったジャズミン・フェンレーター・ヴィクトリアン選手ですが、その後は6位、5位、7位、8位と下部大会でも表彰台に上がれないレースが続きます。米国代表でソチ五輪の出場経験もあるヴィクトリアン選手。一線級不在の大会でも結果が残せないことに焦りはあったでしょう。
北米杯2位はW杯14位相当の獲得ポイント
12月7日の第4戦からW杯に出場し始めたジャマイカ。ここで事態を大きく動かす出来事が起こります。輸送トラブルにより下町ボブスレーが届かず、ラトビア製のソリを使用して出場したのです。
ぶっつけ本番のW杯でヴィクトリアン選手は7位入賞。同じ7位でもW杯と北米杯ではレベルが違いますから、獲得できるドライバーズポイントも2倍です。北米杯2位で獲得できたポイントが110だったのに対して、W杯7位で獲得したポイントは168です。
ラトビア製のソリに乗り換えてからのヴィクトリアン選手は、W杯で7位(168)、11位(136)、18位(80)、13位(120)の成績を残します。()内は獲得ポイント。
W杯は全8戦ありますが五輪出場権は第7戦までのIBSFランキングを基に国別・地域別に割り振られます。
下町ボブスレーとラトビア製BTCでの獲得ポイント比較
ボブスレーの五輪出場権は1月14日に決定しました。W杯での追い上げが間に合ったヴィクトリアン選手は806ポイントでIBSFランキングを16位に上げ、地域割り当てで出場を果たしています。
IBSF publishes Olympic Quota allocation list – NOCs to confirm by 19 January 2018
この806ポイントを使用したソリごとに分類します。なお表記は「順位(獲得ポイント)」とします。
北米杯(下町ボブスレー):5位(92)、2位(110)、6位(88)5位(92)=382
W杯(ラトビア製BTC):7位(168)、11位(136)、13位(120)=424
得点計算はW杯第7戦終了時点を締め切りとして、最もポイント獲得数が多かったレースを抜き出します。抜き出す範囲はW杯の実施競技会数が上限となるため、今回の場合は北米杯とW杯を足して最大7レースまで。
ヴィクトリアン選手は北米杯に6回出場していますが、獲得ポイントが少なかった下位2レースは足切りです。同様にW杯の18位も獲得ポイントに含まれません。
まとめというか追記15:15
長いので結論だけまとめます。
1.北米杯はW杯の下部大会でトップ選手は出てこない
2.北米杯2位が最高成績は少し心もとない
3.ラトビア製のソリ(BTC)に乗り換えてから、よりレベルの高いW杯で安定した成績を残した
4.獲得したポイントではBTCのほうが下町ボブスレーよりも多い
5.ただし、両者を同じ状況でテストしたことはなく、性能に関しては下町とジャマイカで言い分が食い違っている。
こういうのって大抵どちらも自分たちは悪くないように言うので、もう少し落ち着いて情報が出揃ってからじゃないと何とも言えないですね。