うらがみらいぶらり

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そして僕らは、マヒシュマティの民となった。 〜『バーフバリ 王の凱旋』絶叫上映(2/9)レポート〜

 2/9(金)の午後8時。新宿ピカデリーは、この日に限っては「映画館」ではなく、「マヒシュマティ大使館」だった。

 『バーフバリ 王の凱旋』。世界各地でスマッシュヒットを叩き出す、インド史上最強の神話叙事詩――その「絶叫上映」が開催されたのである。

 1月からすっかりバーフバリにメロメロとなり、「サホーレ、バーフバリ…」と熱病のように口ずさむ身になってしまった僕は、予測こそできていたがこの絶叫上映の存在は胸を震わせた。絶叫したい。王を称えたい。そんな思いから、定時退社できる確証もないままチケットを確保した。

 結論を先に記すなら、ただただ、心の底から最高だった。熱狂し、歓喜し、時には涙もする、全てが光のガンジス川のようにキラキラしていた、夢のような時間だった。

 以下は、この素晴らしい時間に対する感謝として、ただただ思いの丈をつづるものである。

 

 

1. マヒシュマティ入国

 まず、この絶叫上映は初開催ではない。3度目。実に3度目の絶叫上映である。

 昨年末に上映開始した映画が、同じ映画館で3回も絶叫上映を執り行うというすさまじさにめまいがした。しかし、後に知ったことだが「絶叫試写会」という耳を疑う大儀式があったらしく、なるほど絶叫の申し子なのだと妙に納得した。

 

 19時40分頃にピカデリーに到着しロビーに上がると、右手にサリーを着た女性、左手には頭がガネーシャの人「☆我が王ターメリックかけて☆」などと書かれたデコうちわを持つ人もおり、なにやら熱気がヤバい。それもそのはずで、これから皆で王を称えるわけなのだから、興奮しない理由がない。ここはマヒシュマティなのだから。

 いちめんの王の凱旋ポスターが出迎えるシアターに入場すると、各所からタンバリンの音が響き渡っていた*1後方を見やれば、企画のV8Japanのボランティアスタッフの一人が赤子(※人形)を掲げており、気がついた観客が近づき、その御足に額を踏んでもらう儀式をしてもらっていた。ヒリヒリと伝わる、マヒシュマティの熱気。視覚からターメリックの香りを感じたのも幻覚ではあるまい。

 此度の絶叫バーフバリは、ピカデリー最大の606席を誇るシアター1にて実施された。その座席が全て埋まったというとすさまじいものを感じるが、王国の総人口はこんなものではないだろうし、なにもおかしいことはない。席さえあるなら1000席でも2000席でも埋まるはずだ。

 上映に向けて、各々がサイリウムやタンバリンを準備している中、ある一人の来場者が「例の石像」ことシヴァリンガを抱え現れた。

 

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↑これ。

 

 ポーズもそのまま、肉襦袢的なものを着ていたのでビジュアルもそのまま。シヴァリンガは壇上に設置され、ここに「リアル伝説誕生」が誕生した。*2

 僕も含め、気がついた来場者は一気に沸き立つ。歓声と拍手でその行脚を賞賛し、早くも「バーフバリ!バーフバリ!」コールが響き渡った。

 まだ上映すら始まっていない中、シアター1の熱気はすでに最高潮に達していた。

 

2. 発声練習〜『伝説誕生』ダイジェスト

 しばらくすると、V8Japanスタッフが登壇し、簡単なあいさつと諸注意が通達された。すでに石像の願掛けが為されている会場にあてられたか、スタッフの方々も熱気がすさまじく、それに釣られて国民もヒートアップ。黄色一色のサイリウムがパトランプのようにきらめき、鈴とタンバリンが歓声を上げる。トーク中に「カッタッパルト」と命名されたアレが101組組めるという話も上がったせいか、熱気はすでに『王の凱旋』終盤のようにも感じられた。

 そして、一通りの諸連絡を終えた後、発声練習に移った。

 まずは、配給を手がけるツイン社と、最大の会場を提供した新宿ピカデリーに向けて「ありがとう!!」とお礼をシャウト。ありったけの感謝が胸いっぱいに広がった後、王を称えるあのフレーズを一斉に唱和した。

 

\Bahubali, Jai Ho!! Bahubali, Jai Ho!! /

 

 これによってテンションは完全にフルスロット。暴れ象じみた熱量を保ったまま、『王の凱旋』上映前ではおなじみ、「よくわかる『伝説誕生』」が流れ始めた。

 

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 名シーンダイジェストゆえ、数秒おきに「ワァァァァアアアッ」と歓声が上がる上がる。バーフバリが現れれば「キャァァァァアアアッ」と黄色い声援が上がった。楽しい。すでにめちゃめちゃ楽しい。これから2時間も本編が控えているのに、後先考えず叫びまくった。あまりに興奮していて、喉より先に血管が逝くんじゃないかと感じるくらいに。

 

3. 『王の凱旋』本編

 そしていよいよ、王を称える時間がやってきた。

 応援上映ではおなじみ、配給会社ロゴ即「ありがとーーー!!」文化は健在。だが、すでに最初に「ありがとーーー!!」しているため、ヤジのオーラは1ミクロン感じられなかったのが快かった。

 そして開幕数分で現れる「あのシーン」。暴れる象。逃げ惑う民。一人歩き続けるシヴァガミ。そして……門をぶち破り現れる、我らが王、バーフバリ。

 瞬間、黄色いサイリウムが一斉に灯り、タンバリンがコーラスのように唱和。自然と口から歓声が吹き出て、劇中さながら、バーフバリを称える民の姿がシアター1に顕現した。最初からクライマックス。そして、本作の名曲『Sahore Bahubali』が流れ始め、僕は思わず歌った。隣の席の人も歌った。王を称える歌を。「サホーレ、バーフバリ!」と!

 楽しい。とてつもなく、楽しかった! もう楽しすぎて、ここから先は全部夢みたいな感じだった。子供の頃に見たエレクトリカル・パレードはいつだってまばゆいが、シアター1は完全にそれだったのだ。

 いたるところで歓声を上げたし、白鳥ハネムーンダンスは完全にライブだったし、アマレンドラの最期は胸を揺さぶられたし、マヘンドラ誕生の瞬間は震撼をおぼえたし、終盤の決戦はマヘンドラの一挙一動に「ワアアアアアア!」と叫んだ。ただただ最後の方はただただ叫びまくって、楽しすぎて狂いそうだった。

 

 そして、2時間の絶叫の嵐となった上映が終わると、どこからかあの声が聞こえた。「バーフバリ……!」と。

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 そして、一つの声は自然と重なり合い、大きな歓声となった。

 

\バーフバリ!バーフバリ!バーフバリ!/

 

 それはまさに、マヒシュマティの民の反応そのままの歓声だった。

 まったく指示されず、ごく自然にバーフバリコールが響いた大団円だった。あの時、僕らはたしかに、マヒシュマティの民になっていたのだ。

 

4. あの夢のような時間をふりかえって

 音と光と熱によって全てがヒートアップして、2時間だというのに2時間とは感じられず、そもそも現実の出来事とは認識できていない。記憶もない。ただただ、「俺はマヒシュマティにいた」という事実しかわからない。

 

 それでも冷静になって思い出すと、この絶叫上映には、圧倒的な統率があった。コールや歓声があがるタイミングは見事に一致し、サイリウムは前述したように見事に黄色一色。しかし場面に応じて適切に切り替わっていた。しかしそれらは打ち合わせたものではなく、自ずと理解できた。初参加の僕も切り替えタイミングと色が自然と察せられた。これは不思議なことではなく、バーフバリは神話であり、頭ではなく体が識っているのだから、当然のことといえる。

 また、「盛り上がるべきところ」を見事に守っているところには純粋に感動した。応援上映は「自由に声を出せる」という性質上、コールやヤジなどが無秩序に飛び交いやすく、「空気を読め」と言わざるを得ない行為もしばしば見られる。バーフバリ絶叫上映は、そうしたものが極度に少ないばかりか、シリアスな場面では見事に黙り、サイリウムもしまわれ、通常の映画上映のように変貌した。「ただ騒ぎたい」のではなく、「王を称えたい」と願う国民が訪れていることは、なぜか我が事のようにうれしかった。

 こうしたこともあってか、上映中はとにかく「映画」というより「ライブ」というで、もっというなら「王の姿を見る」にほかならない時間だった。僕らは21世紀の日本に生まれ、それゆえ「絶対王政の時代に君臨する名君」というものを知らない。だが、バーフバリを観れば自ずと「王」とはなにかを理解できる。慈しみに心を癒され、武勇に心を震わせられる。そうした存在こそが「王」であり、それが君臨することに熱狂し、感謝するのである。これを本能的に理解し、そして体験できるのが、バーフバリ絶叫上映にほかならない。

 そしてなにより、心ゆくまでバーフバリの名を叫べることが素晴らしい。バーフバリを観賞すると、絶対に「バーフバリ!バーフバリ!」と叫びたくなるものだけど、現代社会はマヒシュマティではないので、王を称える機会も場所も少ない。観賞後に一種のフラストレーションすらたまるほどだ。その、たまりにたまった王への歓声を、思う存分に声に出せる、この喜び! ただただそれが素晴らしいのだ。

 

 喉も血管もぶっ壊れるかと思った2時間を終え、両手を合わせながらピカデリーを後にした時には、全身に活力がみなぎっていた。顔は自然と笑顔になり、何事もうまくいきそうに感じ、どこへでも行けるような全能感に包まれていた。

 次回もあったら参加したい。だが、まだ体験していない人がいるなら、ぜひその人に席をゆずりたい気持ちもある。王を称える素晴らしい時間は、多くの人に体験してほしいと思っている。

 このすばらしい時間を企画してくださったV8Japan、最大のシアターを提供してくれた新宿ピカデリー、最高の映画を日本へ配給してくれたツイン、そしてなにより『バーフバリ』という作品そのものに、バーフバリという素晴らしい王に、心の底から感謝の気持ちを伝えたい。本当に最高でした!

 

バーフバリBahubali,万歳Jai Ho!!

 

 

 

■まだ見ていない方、ぜひ観てくれ……!21世紀最高の神話を……!

wasasula.hatenablog.com

*1:今回のレギュレーションは、サイリウム、タンバリン、鈴OK。太鼓、笛、クラッカー、紙吹雪、古代兵器などはNGだった。

*2:会場の仕込みではなく、ガチの来場者の持参物だったとのことであり、V8Japanスタッフも慌てたというツイートが見られた。