中国は唐代の書物に北方の狩猟民族が木のはきものをはいて雪の上に鹿を追う話がある。はきものは盾の形をして、先端が高くなっており底に馬の毛皮が張られていた。坂を下れば、鹿よりも速かったという▲このように短くて幅が広く、裏に毛皮を張ったスキーは「極地型」と呼ばれ、北アジアに広く分布していたそうだ。これに対し毛皮を張らぬ細長い左右1対の板からなる近代のスキーは北欧の南部に発することから「南方型」という▲実はアジアにも同型のスキーがあった。「雪馬(ソルメ)」という名で、朝鮮半島の山岳地で使われていた。「スキーの元祖はわが国」というお得意のお国自慢が出てもあながち的外れではない(福岡孝行(ふくおか・たかゆき)ほか著「スキー発達史」)▲氷雪の中の暮らしから生まれた冬季スポーツの祝祭、平(ピョン)昌(チャン)五輪が開幕した。世界92の国・地域からの約2900人という参加者は過去最多。マレーシア、エクアドル、ナイジェリアなど初出場の国も氷雪と縁の薄そうな地域が目立つ▲振り返れば、前回のソチ五輪は金13を含む33のメダルをとったロシアの組織的ドーピングで台なしにされた。国としての参加を禁じられたロシア選手は個人参加する。どうかドーピングと闘うアスリート個々人の矜(きょう)持(じ)を見せてほしい▲権力ゲームや薬物不正問題でもみくちゃとなった冬季五輪だが、ゲレンデやスケートリンクにはスポーツの神様がちゃんといる。今まで誰も見たことのない雪と氷の奇跡を、私たちはいくつ目にするだろう。