外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

2 中南米地域情勢

(1)政治情勢

2016年は、ジャマイカ、ペルー、ドミニカ共和国、セントルシア、ニカラグア及びハイチで大統領選挙や総選挙が行われた。ジャマイカでは野党ジャマイカ労働党が勝利し、ホルネス党首が首相に就任、ペルーではクチンスキー氏が僅差でケイコ・フジモリ候補を破り当選した。ドミニカ共和国ではメディーナ大統領が再選し、セントルシアでは政権交代が実現し、シャスネ首相が就任した。

2016年の主な出来事(各国・地域別)
2016年の主な出来事(各国・地域別)

また、3月にはオバマ大統領が現職の米国大統領としては88年ぶりにキューバを訪問し、1959年のキューバ革命以来続いた対立の歴史の転換点となった。その一方で、キューバ革命の指導者であったフィデル・カストロ前国家評議会議長が11月に逝去し、首都ハバナで開催された式典には世界約60か国から要人が参加した。8月にはリオデジャネイロ・オリンピック閉会直後のブラジルにおいて、国家予算の不正操作の責任を問われる形でルセーフ大統領の弾劾が成立した。コロンビアにおいては、コロンビア革命軍(FARC)との間で2012年に政府が開始した和平交渉が最終合意に至り、11月に和平合意が国会で承認された。

安倍総理大臣のペルー訪問(11月18日、ペルー 写真提供:内閣広報室)
安倍総理大臣のペルー訪問(11月18日、ペルー 写真提供:内閣広報室)

地域統合機構においては、1月に第4回ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)首脳会合(於:エクアドル)、6月に第7回カリブ諸国連合(ACS)首脳会合(於:キューバ)及び第46回米州機構(OAS)総会(於:ドミニカ共和国)、7月にカリコム首脳会合(於:ガイアナ)が開催された。

(2)経済情勢

2016年の中南米地域全体としての経済成長率(IMF推定値。以下同様)はマイナス0.7%となり、特に近年の一次産品価格の低下や政治腐敗等に伴い、経済を原油や鉱物資源などの一次産品に依存している国では、依然として厳しい経済事情が続いている。その中でも、中南米地域最大の経済規模を誇るブラジルの成長率はマイナス3.5%と停滞が著しい。また、チャベス政権時代からの国家管理型経済を維持するベネズエラの成長率はマイナス10%、インフレ率は約480%と見込まれており、厳しい情勢となっている。

中南米諸国の資源・エネルギー・食料生産量について
中南米諸国の資源・エネルギー・食料生産量について

その一方で、G20の一角であり、日本企業の進出が目覚ましいメキシコの成長率は2.2%と前年に続き堅調な成長が見込まれているほか、ドミニカ共和国が5.9%、パナマが5.2%、ニカラグアが4.5%、コスタリカが4.3%など、中米の国を中心に高成長が見込まれている。

中南米地域は、世界でも有数の食料及び天然資源の供給地である。特に食料についてはコーヒー豆、オレンジ、大豆、サーモン、とうもろこし等、天然資源については銀、銅、亜鉛、鉄鉱石、石油等に加え、需要が増大しているリチウムやモリブデン、レニウムを始めとする希少金属(レアメタル)の主要産地でもある。近年は、シェール・ガスの主要埋蔵地として、アルゼンチン(埋蔵推定量世界第2位)及びメキシコ(同第6位)にも注目が集まっている。また、6月にはパナマ運河が拡張され、液化天然ガス(LNG)船の通行が可能となり、今後の利用増加が見込まれる。

COLUMN
中南米日系社会との交流・連携強化

中南米には約213万人の日系人を擁する世界最大の日系社会があります。日系人とは、日本から海外に本拠地を移し、永住の目的を持って生活されている日本人並びにその子孫の方々を指します。日本人が中南米に移住を開始して100年以上がたちました。この間、日系人の皆さんはあらゆる分野で活躍し、現地社会への貢献やその勤勉・誠実な性格から各国での信頼を獲得しました。この結果、日系人の存在は中南米諸国の日本に対する好意・信頼や高い評価の礎となっています。また、日系人の皆さんは、各国において日本文化の普及にも尽力し、今日まで日本と中南米諸国との橋渡しの役割も担ってきました。

一方で、100年以上の歴史を経て、今日、日系社会の中心は3、4世以降の世代が主体となってきています。このため、昔から日系社会を支えてきた日系団体とのつながりが弱く、日系人としての意識が希薄な新たな世代も出てきています。それと同時に、若い世代の日系人同士が地域や国を越えて、SNSやイベントなどでつながる新しい動きも出ています。こういった新たな世代を含め、日系社会との連携強化は、日本が中南米と関係を強化していく上で、ますますその重要性を高めています。

2016年は日本人によるパラグアイへの移住80周年でした。この機に、眞子内親王殿下は9月7日から14日にかけてパラグアイを訪問され、パラグアイ日本人移住80周年記念式典に御臨席になったほか、首都アスンシオン及び地方の移住地において、高齢者から若者まで幅広い層の日系人の方々と交流の機会を持たれました。

パラグアイ各地で日系社会との交流を深められた眞子内親王殿下(9月9日、パラグアイ 写真提供:パラグアイ日本人会連合会)
パラグアイ各地で日系社会との交流を深められた眞子内親王殿下(9月9日、パラグアイ 写真提供:パラグアイ日本人会連合会)

また、同年11月には、安倍総理大臣はアルゼンチンにおいて中南米日系社会との連携を働きかけるスピーチを行いました。安倍総理大臣は、これまでの日系人の貢献に敬意と感謝を示すとともに、国境を越える日系人の文化やスポーツの活動への支援や向こう5年間で約1,000人の日系人を日本に招待することを表明しました。安倍総理大臣は、「皆様が日本のことを誇りに思っていただけるように、私も全力を尽くしていきます。そして、更に皆様がそれぞれの地域で活躍をしていかれる、そのことを全力で応援をしていきたいと思います。」とスピーチを締めくくり、集まった920人の聴衆から万雷の拍手を受けました。この訪問を通じて、中南米日系社会との連携が更に強化されることが期待されます。

日系人との交流行事で挨拶する安倍総理大臣(11月21日、アルゼンチン 写真提供:内閣広報室)
日系人との交流行事で挨拶する安倍総理大臣(11月21日、アルゼンチン 写真提供:内閣広報室)
COLUMN
下町ボブスレー
~ジャマイカで結実した日本の職人魂と外交魂~

「『世界最速のマシンをつくりたい』30社を超える町工場が、これまで培ってきた、ものづくりの力を結集して、(中略)世界に挑んでいます。」

これは、2013年2月の第183回国会における安倍総理大臣施政方針演説の一節です。東京都大田区には細貝淳一さんを筆頭に、ボブスレーにより世界一を目指して邁進(まいしん)する職人達がいます。

ボブスレー競技は、日本ではまだマイナースポーツで、競技力も高いとは言えませんが、欧州では人気スポーツの1つで、ソリの開発にフェラーリやBMW、マクラーレン等の名だたる大企業が携わっています。その中で、初のMade in Japanのソリの開発を始めたのが大田区の「下町ボブスレーネットワークプロジェクト」です。

このプロジェクトは2011年に開始され、翌年に第1号機を完成させ、2013年3月には、日本産ボブスレーが国際大会にデビューを果たしました。同年6月に下町ボブスレー合同会社を設立し、Japanブランド育成支援事業にも認定されるなど、常に進歩を続けてきました。

しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。2013年11月には、日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟から翌年のソチ冬季五輪における下町ボブスレー不採用の通告と27件もの改良要望が出されました。その後も、指摘された改良要望に応えるべく努力を重ねてきましたが、2015年11月には、平昌(ピョンチャン)冬季五輪においても日本連盟からの不採用を告げられました。大田区の職人達にとって、その衝撃は計り知れないものでした。一方、その中で海外展開を示唆され、外国への売り込みに舵(かじ)を切ることとなりました。その打診先の1つが映画「クール・ランニング」で有名なジャマイカでした。

職人達の熱い雄志は日本の外交官にも受け継がれました。2015年12月、在ジャマイカ日本国大使館小山裕基参事官は、ジャマイカボブスレー連盟の会長が海外出張する前日の午後に家族とカフェで休んでいるところに飛び入り参加し、ボブスレーの話を切り出しました。先方はとても快く応じ、日本製のボブスレーの採用に非常に前向きな姿勢を示しました。このようなことができるのも、日々の信頼関係構築の賜(たまもの)です。先方が好意的な反応を示したことから、在ジャマイカ日本国大使館は日本側の希望とジャマイカ側の関心をマッチさせるべく全身全霊を捧げることとなりました。

職人と外交官の熱意が実り、2016年1月についにジャマイカチームが下町ボブスレーの採用を決定しました。世界一を目指す大和魂を乗せたソリは2018年の平昌冬季五輪を照準に定め今日も前進を続けています。

大田区産業プラザでの記者会見(1月14日 写真提供:下町ボブスレーネットワークプロジェクト)
大田区産業プラザでの記者会見(1月14日 写真提供:下町ボブスレーネットワークプロジェクト)
ストークス会長(中央)、細貝下町ボブスレー合同会社代表(右から3番目)、小山在ジャマイカ日本国大使館参事官(右から2番目)(7月4日 ジャマイカ・スパニッシュタウン・GCフォスター大学)
ストークス会長(中央)、細貝下町ボブスレー合同会社代表(右から3番目)、小山在ジャマイカ日本国大使館参事官(右から2番目)(7月4日 ジャマイカ・スパニッシュタウン・GCフォスター大学)
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