ともかく寒い 平昌は冬季五輪には寒すぎる?
ケイティ・フォルキンガム記者、BBCスポーツ
ゆがむスキー板、人工雪、予想体感温度は零下25度。平昌は冬季五輪の開催地としては寒すぎるのか?
冬季五輪というだけのことはあって、開催地は寒いのが常だ。しかし、9日に始まった2018年の冬季五輪は、あらゆる記録を塗り替えようとしている。
心配する選手たちは、ソーシャルメディアでぶるぶる震えている。零下の気温は、競技や道具、17日間の大会に備える選手やファンたちにとって、実際どんな意味を持つのだろうか。
どれくらい寒くなるのか
韓国気象庁の気象予報の発表によると、開会式の温度は零下2~5度だという。
気象庁によると、これは例年の2月の平均気温の約0度と「同程度」で、夜間は零下約10度まで下がる。これまでの五輪の最低気温は、1994年ノルウェーのリレハンメル冬季五輪で零下11度だった。
平昌は標高約800メートルで、韓国で最も寒い地域の一つとされる。その緯度から地球上で最も寒い場所だ。しかし英国でも7日に一部地域の気温が零下9度まで下がった。なぜそんなに騒ぐのか。
答えは体感温度だ。
3日の開会式予行演習では、身を切るような風で温度が零下23度まで低下した。気象庁は、観客に「覚悟」するように伝え、五輪大会関係者は出席者に「しっかり着込んで寒さに備えるよう」警告している。
天然の雪には寒すぎる? 人工雪を投入
あまりに厳しい寒さのせいで、平昌の積雪量は変わりやすい。また、開催地域ではめったに大吹雪にならない。2017年2月は7日間しか雪が降らず、平均積雪量は6.3センチだった。
大会関係者もこの点を懸念し、440万ポンド(約6億7000万円)かけて人工降雪機を投入した。降雪機は冷却水と圧縮空気を「スノーガン」から発射する。
回転と大回転が開催される龍平アルペン競技場では、3カ所のポンプ場から給水し、降雪機250機が設置された。
カナダ人にも寒すぎる
スケルトンのカナダ代表ケビン・ボイヤー選手は、「風が一番ひどい。五輪村を歩くのが、まるで悪夢だ」と語る。
「笑うしかない。自分たちはカナダ出身なので寒さには慣れているはずなのに、こんな寒さは初めてだ」
最初の難関は9日の開会式だ。出席しない選手たちもいるという。イタリア選手団はすでに健康に問題のあるスタッフに対し、開会式を欠席し、選手には体を常に動かしておくよう繰り返し伝えている。
米国選手団は開会式のために、特製の電熱ヒーター内蔵ジャケットを着用する。フリースタイルスキーのオーストラリア代表リディア・ラシラ選手は競技前の寒さを避けるため、開会式で団旗の旗手を辞退した。
英国選手団は「かなりの」時間をかけて検討を重ね、「機能と暖かさ」両方を重視したユニフォームをデザインした。
競技について言うなら、クロスカントリースキーの規則では、零下20度で競技を延期することになっている。ただし、これは気温の話であって、体感温度は考慮していない。
五輪競技はこれまで何度も、風や大雪、あるいは霧を理由に延期されたことがある。しかし、寒さだけで順延したことは一度もない。
クロスカントリースキーの英国代表アンドリュー・マスグレイブ選手はツイッターで、「零下5度程度だけど、風のせいでバルト海みたいだ。先週みたいに零下20度に下がったらどれくらい寒く感じるのか、考えたくもない」と書いた。
道具や競技は
「コーチの1人が、今日以降はスキー板を使わないと言っていた」
スキーコース技術者クレイグ・ランデル氏は7日、練習を監督しながらこう話した。「どうしようもないけど、寒さで雪がスキー板の裏に接着し、板が曲がる」。
「寒さでスキー板が一瞬でダメになる」
オーストリアのアルペンスキー、マルセル・ヒルシャー選手は、「気温が氷点下20度まで下がると、雪の結晶がすごく鋭くなる。火をつけてスキー板の裏を燃やすようなものだ。雪の結晶がそこまで鋭角になるから」と説明する。
ここまで凍った表面だと、スキー選手やスノーボード選手はターンのためにエッジを立てるのに苦労し、競技が困難になる。とはいっても、氷が滑らかならば、ダウンヒルやスーパー大回転といったスピード系のスキー競技にとっては究極の滑降コースとなる。
ボブスレーおよびスケルトンのコースでは、気温があまりにも下がると氷がくっつきやすくなるため、最終的にはそりのスピードが落ちてしまう。
しかしデイブ・ライディング選手のファンには朗報だ。過去に4度の五輪出場経験を持つチェミー・アルコット氏がBBCラジオ5ライブに出演した際、次のように語った。「人工雪はとてもグリップが効くので、競技しやすい」
「チームでも有望株のデイブ・ライディング選手にぴったりだ」
ではファンは?
開会式および閉会式が行われる、五角形の平昌五輪スタジアムは、時間節約のため屋根なしで建設された。しかし現在の予想気温を考えると、五輪主催者側はこの決定を後悔することになるかもしれない。
総工費5800万ドル(約63億円)のスタジアムはまた、高価すぎることを理由に集中暖房設備を設置しなかった。スタジアムは冬季パラリンピック終了後の3月には解体されてしまうためだ。
報道によると、五輪スタジアムで12月に行われたコンサートを見ていた6人が低体温症で治療を受けた。あまりの寒さのため、トイレでうずくまっていた観客も複数いたという。
そのため、9日の開会式の観客数は4万3000人に上るとみられているが、各自にカイロ、毛布、温熱座布団、ポンチョが配られた。また、暖房付き避難所18カ所、大型ヒーター40基、風よけが設置された。
過去の大会は
前回の冬季五輪は、2014年に亜熱帯の都市ロシアのソチで行われた。気温は20度にまで上がり、史上最も暖かい五輪とされた。2012年のロンドン五輪よりも気温が高い日が数日あったほどだ。
主催者側は、必要な分の雪を蓄えておかなくてはならなかった。そのほとんどが人工雪だった。
平均気温は10度をわずかに下回り、その4年前の2010年バンクーバー冬季五輪の時に作られた記録を塗り替えた。
当時のバンクーバーはかつてないほど暖かく、五輪開会式3日前の2月9日まで31日間も続いた。
2014年のソチ大会と同様、バンクーバー大会の主催者も、トラックの荷台で雪を運ばなくてはならなかった。しかしアルペン・スキーとノルディック・スキーの競技に足りるだけの自然雪があるのは、バンクーバーの北120キロ先にあるウィスラーのスキー場だけだった。
<分析> BBC天気気象予報士サイモン・キング
ソチとバンクーバーは比較的暖かく、積雪量に問題があった。それに対して今回の五輪はずっと寒くなる。
気温にはばらつきがあり、平昌マウンテン・クラスターは特に寒くなるだろう(中でも高い位置にあるフェニックス・スノーパークと旌善アルペン・センターで気温がずっと低くなる予想だ)。一方で、各種競技が行われる江陵コースタル・クラスターでは、そこまでの寒くならないようだ。
平昌では通常、2月は年間で最も乾燥する時期だが、それでも月に12日間ほど降雪があり、平均約5センチの新雪が積もる。
ただしこれは平均だ。今後2週間の天気は、平均よりも寒くなる可能性が非常に高く、温度はほとんどの間、氷点下となる。
風が吹けば、体感する寒さは激しく、特に寒い会場では零下25~30度くらいに感じるだろう。また、五輪期間中は平均より降雪が少ないと予想されており、たまに雪が降っても全体的には乾燥した状態が続くだろう。
英国のスノーボード女子代表エイミー・フラー選手は「夢のスノーボード・スロープスタイル・チーム。すごいな、氷みたいに寒い!!」とツイートした。
(英語記事 Winter Olympics 2018: Will Pyeongchang be too cold for a Winter Games?)