2018年2月9日(金)

<熊谷6人殺害>妻子3人を奪われた男性、参加制度で質問 ついたて外し被告に直接迫る「戦う決意だった」

 熊谷市で2015年9月、小学生姉妹を含む6人が殺害された事件で、強盗殺人罪などの罪に問われたペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(32)の裁判員裁判の第9回公判が9日、さいたま地裁(佐々木直人裁判長)で開かれ、被告人質問が行われた。ナカダ被告は弁護人から日本で人を殺したことがあるかを問われ、「覚えていない」と5回繰り返した。

 「私はあなたに妻と娘2人を殺された。理由は何ですか」。熊谷6人殺害事件の公判で、妻の加藤美和子さん(41)、長女美咲さん(10)、次女春花さん(7)=年齢はいずれも当時=の家族3人の命を奪われた男性(45)が、被害者参加制度を利用してナカダ被告に直接問いかけた。厳しく迫るような表情、強くはっきりとした声。男性は公判後、埼玉新聞の取材に対し、「このために2年半待った。全てぶつけるつもりで臨んだ」と質問に込めた思いを語った。

 男性はこれまで傍聴席から見えないようについたてと壁の間にいたが、この日はついたてが外された。質問の際には、検察官の後ろにある席から証言台の前まで進み、ナカダ被告がよく見える位置に立った。

 最初の問いは「あなたは家族を大事にしていますか」。ナカダ被告が「大事です」と返すと、すかさず「その家族が全員殺されてしまったらどう思うか」と続けた。明確な返答がなく、被告が「私はあなたのことを知らない」と答えると、「私もあなたのことを知らない。でもあなたが今、裁判にかけられているのは私の妻と娘を殺したからだ。分かりますか」と厳しく詰め寄った。

 「私の娘に一体何をしたのか」。迫真の問い掛けに、傍聴席からすすり泣く声も聞こえた。「傍聴席にある遺影を気にしているのではないか」「掲げられているのはあなたに殺された3人ですよ」と問い詰めた際には、ナカダ被告が「もちろん分かっている」と応答。「しっかり質問に答えて」「『はい』か『いいえ』で答えて」「答えになっていない」と迫るシーンもあった。

 男性は閉廷後、「自分が質問するときはついたてを外そうと最初から思っていた。被告にも見えづらいだろうから前に出た」と明かした。夫として、父として正面に立ち、「事件から2年半、いつも被告に聞きたいと思っていた。質問できるのは今日だけ。戦う決意だった」と語った。

 一方、被告に求めていた返答がなく「真実が分かるのを期待していたが、質問の内容が伝わっていなかったのはすごく残念。もう一回やりたいぐらい。怒りも沸いてきた」と振り返る。裁判は判決公判も含めて残り4日になった。男性は「真実を明らかにしたい」と最後まで見届ける思いだ。

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