左から藤川太さん(家計の見直し相談センター)、塚原哲さん(FPI-J 生活経済研究所長野)、横山光昭さん(マイエフピー) 会社員が3000万円の老後資金をためるのは難しいのが現実。ならば資産運用でと考えるかもしれないが、こちらの現実はどうなっているのだろうか。3人の実力派FPに、老後資金と資産運用について語り合ってもらった(前回記事は「お金の劣等生は『コンビニでちょっと買い物』が好き」)。今回は老後資金づくりの運用法について紹介する。
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■老後資金づくりの運用はリスク管理を最優先で
藤川太 投資は、お金がたまる仕組みが整ってからです。もちろん、投機的な投資は駄目ですよ。それに今は少し株式市場に過熱感があるので、少額の積み立てで始めましょうとアドバイスしています。
塚原哲 投資でお金を減らしたくないし住宅ローンを抱えているという人は「親族内ローン」が本当に資産形成に効きますよ。子の住宅購入時に親が子に購入資金を貸すのです。低金利時代でも親は預貯金金利の何十倍もの金利で運用できますし、子は総返済額が大きく減らせる。下手な運用をするくらいなら断然こっちです。
横山光昭 本来は逆だと思うのですが、相談を受けていると若い人ほど「節約志向」で、年齢が高くなるほど老後不安からか、投資に走りがちという気がします。残されている時間が短いという意識があるからかもしれませんが……。
藤川 ベースができていない人の投資や運用は一発逆転狙いが多いですね。一発逆転はほとんどギャンブルですよ。
塚原・横山 同感。
藤川 そういう方は自分の老後が厳しそうだなというのは直感で分かっていらっしゃる。実際、キャッシュフロー(生涯収支)表を作るといずれ赤字に転落します。小手先の努力では赤字になる年齢が65歳から70歳に延びるだけで根本的な解決になりません。支出の見直しでお金がたまる仕組みが整えば老後不安からも解放されます。実際、家計改善をお願いした結果、それなりのお金がためられて、数年後に「これを運用したいのですが」と相談に訪れる方はかなりいます。
塚原・横山 いい話だなぁ。
塚原 ベースが整っているなら投資はした方がいいでしょう。会社員の方なら、まずはDC(確定拠出年金)での積み立て投資です。
横山 私もインデックス投資を勧めます。お金の専門家ということでアクティブ投資を実践している個人投資家の集まりにもよく呼ばれます。その席で「投資不適格な会社も入っているインデックス型投信なんてよく買えなんて言えますね。ROE(自己資本利益率)とか見て個別株を買えばいいじゃないですか」と言われるのですが、そういう方々は専業投資家や投資について相当な手間暇を費やしている方です。ある意味それが本業。ただ、私の相談者の方は「投資が最優先ではない」ことはよく分かっていますので。
塚原 それ、すごく分かる。会社員の場合、本業をおろそかにして運用益を出しても、周りの信頼を失ったら割に合わないですから。
横山 だからといって、投資は一切やらないという乱暴な答えではなく、最低限、これだけはやっておこうねというラインを見つけて、自分も実践しています。
藤川 私も相談者の方に勧めているのはキャッシュフローを原資とした国際分散投資です。将来の資産をシミュレーションする時、個別株運用だと経済ショック時に、どれだけの資産減を覚悟しておけばいいか分かりませんが、インデックス運用ならある程度は分かる。私たちにとって一番重要なのは「将来、お金がなくてやりたいことができなくなる」というリスクの管理です。個別相談の時も運用については「人より儲かりませんが、経済ショックが来ても、これくらいの資産減で済みますよ」という提案ばかりしています(笑)。
横山 経済ショックはいずれ来ますよね。その時はインデックス運用でもお金は減る。
藤川 来ますよ、10年に1回や2回は来ますから。
■老後資金を運用するなら経済ショックの織り込みも
横山 その時に正しく行動できるかも重要です。今でこそ低コストのインデックス投信にスポットライトが当たっていますが、ショック時に金融機関は「インデックスでも減っちゃったでしょ、やっぱりアクティブ投信でなきゃ」とどんどん売ってくるかもしれない。その時、心が揺らいじゃ駄目です。
藤川 本当はそういう時こそ買い場なんですけどね。私のお客さんでも資産の大半を現金にしてしまって「藤川さん、バーゲンセールまだ?」といった具合に大きな調整を待ち望んでいる富裕層が何人もいます。
横山 下がった時に買うという方針なら現金で持っていてもいいんですよね。
塚原 ただ、そのためにはキャッシュフローが安定してないと。暴落時は給料も下がるし雇用不安だって台頭する。住宅ローンなんか抱えていたら、まず攻勢になんて出られませんよ。
横山 相場も見続けていないと分からないですよね。自分はスーパーに行かないからトマトが1個100円といわれても高いか安いか分からない。
塚原 全く同じ(笑)。
横山 突然、バーゲンセールだといわれても、買っていい水準なのかどうかが分からない。
藤川 少額でもいいから相場に居続けることは重要です。リーマン・ショックの後にも積み立て投資をやめたり額を減らしたりする人がたくさんいました。本当は相場に居続けるべき、というより、攻勢に出るべき時期なのですが、皆、消沈してしまって、続けろとは言えませんでした。リーマン・ショックの時に心が耐えられた人が今、プラスになっていますね。
塚原 私の見ている範囲では、リーマン・ショックで運用をやめてしまったのは住宅ローンを抱えていた会社員がほとんどですよ。毎月ローンで7万円返済している人が、評価額が月に30万円前後も動く様子を心穏やかには見ていられませんから。ローンを抱えての資産運用はメンタル面でも厳しいということですね。
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投資をするなら毎月、お金が余るように支出を見直し、負債を解消してから。老後資金を運用するなら増やすことより、経済ショックなどで大きく減らないことを優先で考える。これが実力派FP3人の老後資金づくりアドバイスだ。
(日経マネー 本間健司)
[日経マネー2018年1月号の記事を再構成]

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)
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