504/504
第490話 風竜王
―――狂飆の谷
悔い、か。俺1人が魔王になってしまったのが原因で、随分と色んな奴を巻き込んでしまったみたいだ。皆の協力を得て戦うにしても、やはりクロメルとは俺自身がけりを付けなければならないだろう。そうしなければ、クロメルや舞桜が浮かばれない。何よりも、そんな最高のご馳走を用意してもらって、他の奴に食わせるなんて絶対にさせてはならない。そう俺の本能が言っている。
「……行っちまった」
その後、舞桜は聖鍵を使って消えてしまった。今更ながら、リオンとの関係も聞いておけば良かったと少し後悔。前に聞いた時、リオンは全然知らないようだったし。
「うん、もう解析者達の気配はないかな。選定者の正体には驚かされたねって、ケルヴィン君的には大丈夫だったかな? えっと、その……」
「ああ、そう心配しなくても、思っていたよりもショックはなかったよ。俺自身、メル伝いで聞いた話程度の感覚なんだ。でも、気を遣ってくれてありがとな」
「ご主人様、無理をなさらないでくださいね?」
大丈夫だと説明しているのに、エフィルとアンジェはまだ不安に思っているようだ。俺、そんなに酷い顔をしていたのかな? 一先ず2人の頭を撫でておこう。なでりなでり。
「ギ、ギギギギッ……! ダァアアアーーー! やっと動けたぁーーー! ったく、何なんだよもう! 行き成り現れて封印なんて施しやがって!」
あ、すっかり忘れてしまっていた。風竜王の封印が解けたみたいだ。風竜王は雄だったらしく、若干子供っぽい声で風を撒き散らしながら怒声を上げている。風の刃はこの広間にまで影響を及ぼし、起伏のある床や壁などにズバズバとその爪痕を残していく。俺らはアンジェの能力で丸っきりそれらを無視しているのだが、こいつ全然俺らの事を考慮していないな。
「あとお前らっ! 人の巣に勝手に上がり込んで、何イチャイチャしてんだよっ! 嫌がらせか、この上ないほどの嫌がらせなのかっ!?」
逆か。これ以上ないってくらいに考慮してたな、こりゃ。確かによくよく考えれば、状況的にはそんなニュアンスで大体合ってるけどさ。風竜王としては踏んだり蹴ったりな状況だろう。
「ええっと、風竜王さん?」
「フロム!」
「え?」
「僕の名前だ! 竜王って何か重い感じがするから、呼ぶなら名前で呼んでよね!」
「……フロムさん?」
「な、なんだよぉ……(ぽっ)」
急にフロムが女声になった。うん、たぶんこいつも面倒臭い性格をしてる。風を司る竜なだけに、性格も竜王一自由気ままなんだろうか。ダハク以上に感性豊かで、ムド以上に偏食だったら俺は泣いてしまうぞ。今まで碌な竜王に会った試しがないだけに、不安は募るばかりだ。
「―――という事でさ、是非ともフロムさんにも協力してもらいたいんだ。どうかな?」
俺はこれまでのあらましをフロムに説明して、飛空艇迎撃の協力をお願いした。気分屋のフロムは黙ったまあ聞き入ってくれたようだが、正直どう思ってるのかまでは読み取れない。というか、竜の状態だと表情が分かりにくい。
「それってさ、さっきの爺さんと鎧男に報復できるって事?」
「まあ、間接的にはそうなるけど……」
「ならやる。僕ん家のセキュリティを抜けて、寝込みを襲って来たような奴らには天罰を与えてやらないと!」
あ、谷の風って防犯用のセキュリティだったんだ…… 猛犬注意ならぬ、暴風注意の立て看板くらいは設置しておいてもらいたい。それに寝込みを襲うとか、リオルドが変態であるかのように聞こえるな。フロムを封印したのはリオルドみたいだったし、事実は事実か。いいぞ、もっと言ってやれ。俺が許す。
「そうか、助かるよ。実はもう火竜王、土竜王、光竜王からの了解は得ているんだ。他の竜王達とも交渉中で、それが決まったら追って連絡するよ」
「え? 土の爺ちゃんは兎も角、あの暴れる事しか能のない火と、行方不明な光も了解してるの? 本当に?」
たぶん、君が思い描いている人物はその中に1人もいないと思うな。どうもフロムは、ここ最近に竜王の座が大幅に入れ替わっている事を知らないみたいだ。仕方ないから説明してやる。
「―――という事なんだが、分かってくれたか?」
「へぇ~、総入れ替えかぁ~。僕ずっとここで眠っていたから、全然気付かなかったよ。火のいる火山なんて、比較的近場にあるってのにね! あはははは!」
……ノリが軽い。
「それでだな、実はもう1つフロムさんにお願いがあるんだ」
「何さ? ケルヴィンと僕の仲だろう? 遠慮せずに言っておくれよ」
ほう、俺の知らぬうちにそんな仲になっていたのか。
『ケルヴィン君、この際仲が良いって体で話を進めなよ。さっきみたいに、軽い感じで加護が貰えるかもよ?』
『アンジェさん、それではご主人様の最大欲求が満たされないのでは?』
『あ、そっか。どうする? 流石に挨拶がてらにナイフを投げるとかは、私もどうかと思うんだけれど……』
止めなさいって。甘やかしてくれるのは嬉しいけど、理性的な俺はそんな事はしません! ……たぶん!
「無理なのは重々承知で敢えて言うんだが、フロムの加護を俺にくれないかな、と」
「加護ぉ? 加護って、僕の加護? 風竜王の?」
「その加護だ」
「んんー…… そりゃあケルヴィンと僕の仲だし、加護を与えるのも吝かではないんだけどね」
だから距離を詰めるのが早いって。ノリが軽いって。
「けど、ケルヴィンからは光と土の加護の気配を感じるしなぁ。それ以上加護を持っちゃうと、体が許容できなくなって爆発しちゃうかもだよ?」
「えっ、そうなのか!?」
確かに西大陸に渡る前に、俺はダハクとムドから加護を貰っていた。だけど、加護の数によって許容制限があるなんて初耳だぞ? シルヴィアとかも水と氷の2つの竜王の加護を持ってたし、てっきり貰えるだけ貰えるもんだと思っていたんだが…… あれ、メルの加護まで持ってる俺って、もしかして結構ギリギリ?
「ううん、嘘。その焦り様だと、さっきの竜王を配下に置いてるって話は本当みたいだね。なるほどなるほど」
「………」
やっぱり喧嘩を売るべきだったな。今からでもアンジェから手袋代わりのナイフでも借りようか。
「分かった、加護を与えてあげるよ。これを受け取ったからには、僕の唯一無二の親友としてキチンとお付き合いする事! 必ずだからね!」
「知り合ってからこんな短時間で親友になった経験は、流石になかったなぁ……」
まあ、気軽に竜王と戦える立場だと思えば、寧ろありがたい事なんだけれど。
「それじゃ付与するよー。うわ、初めてだから緊張するなぁ。本当に爆発したらごめんねー」
「なあ、マジで冗談なんだよな? 本当に大丈夫なんだよな?」
俺の体を中心に、健やかな風が辺りを通り抜ける。ハラハラドギマギしながら付与の授与式を迎える俺。どうやら加護の付与は無事に成功したらしく、俺のステータス欄には土、光と並んで風の文字が刻まれていた。
さあ、これで俺の準備は完了した。後は皆の連絡を待つばかりだが―――
「フロム、寝起きみたいだし、まだ本調子じゃないんだろ? 準備運動がてら、少し俺と戦わないか?」
「え、いいの? 流石は親友、気が利くね!」
「結局こうなるんだねぇ」
「結局こうなりますね」
こういう場合、ノリが軽いのは非常に助かる。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全303部分)
- 32980 user
-
最終掲載日:2018/02/03 18:00
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全303部分)
- 26600 user
-
最終掲載日:2016/01/01 00:00
マギクラフト・マイスター
世界でただ一人のマギクラフト・マイスター。その後継者に選ばれた主人公。現代地球から異世界に召喚された主人公が趣味の工作工芸に明け暮れる話、の筈なのですがやはり//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1788部分)
- 21013 user
-
最終掲載日:2018/02/09 12:00
再召喚された勇者は一般人として生きていく?
異世界へと召喚され世界を平和に導いた勇者「ソータ=コノエ」当時中学三年生。
だが魔王を討伐した瞬間彼は送還魔法をかけられ、何もわからず地球へと戻されてしまった//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全406部分)
- 21335 user
-
最終掲載日:2018/02/04 11:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。
あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全824部分)
- 24852 user
-
最終掲載日:2017/12/24 00:00
異世界はスマートフォンとともに。
神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全461部分)
- 20655 user
-
最終掲載日:2018/02/06 21:36
二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む
魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。
彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全134部分)
- 23006 user
-
最終掲載日:2018/01/28 08:43
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全205部分)
- 26810 user
-
最終掲載日:2017/03/25 10:00
奪う者 奪われる者
佐藤 優(サトウ ユウ)12歳
義父に日々、虐待される毎日、ある日
借金返済の為に保険金を掛けられ殺される。
死んだはずなのに気付くとそこは異世界。
これは異//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全241部分)
- 21413 user
-
最終掲載日:2018/01/15 18:00
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全391部分)
- 26491 user
-
最終掲載日:2018/02/05 12:00
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全221部分)
- 23641 user
-
最終掲載日:2017/11/30 20:07
デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )
◆カドカワBOOKSより、書籍版12巻+EX巻、コミカライズ版6巻発売中! アニメ放送は2018年1月11日より放映開始です。【【【アニメ版の感想は活動報告の方//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全565部分)
- 32031 user
-
最終掲載日:2018/02/04 18:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全116部分)
- 22829 user
-
最終掲載日:2018/01/09 00:01
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1637部分)
- 27413 user
-
最終掲載日:2018/02/09 18:00
魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中!
魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする
だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全215部分)
- 22584 user
-
最終掲載日:2018/02/02 18:15
とんでもスキルで異世界放浪メシ
※タイトルが変更になります。
「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全403部分)
- 29178 user
-
最終掲載日:2018/02/06 00:24
境界迷宮と異界の魔術師
主人公テオドールが異母兄弟によって水路に突き落されて目を覚ました時、唐突に前世の記憶が蘇る。しかしその前世の記憶とは日本人、霧島景久の物であり、しかも「テオド//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1378部分)
- 24657 user
-
最終掲載日:2018/02/09 00:00
失格紋の最強賢者 ~世界最強の賢者が更に強くなるために転生しました~
とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。
彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。
そうして導き出された//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全176部分)
- 22809 user
-
最終掲載日:2018/02/07 00:59
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。
弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全179部分)
- 25388 user
-
最終掲載日:2018/02/01 04:25
人狼への転生、魔王の副官
人狼の魔術師に転生した主人公ヴァイトは、魔王軍第三師団の副師団長。辺境の交易都市を占領し、支配と防衛を任されている。
元人間で今は魔物の彼には、人間の気持ちも魔//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全415部分)
- 20002 user
-
最終掲載日:2017/06/30 09:00
賢者の孫
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。
世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全127部分)
- 27362 user
-
最終掲載日:2018/02/03 03:49
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全363部分)
- 24752 user
-
最終掲載日:2018/01/07 20:00
蜘蛛ですが、なにか?
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全537部分)
- 23662 user
-
最終掲載日:2018/02/03 23:34
LV999の村人
この世界には、レベルという概念が存在する。
モンスター討伐を生業としている者達以外、そのほとんどがLV1から5の間程度でしかない。
また、誰もがモンス//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全360部分)
- 21011 user
-
最終掲載日:2018/02/04 13:34
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた
◆書籍⑧巻まで、漫画版連載中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全193部分)
- 20656 user
-
最終掲載日:2018/01/13 21:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全286部分)
- 24307 user
-
最終掲載日:2015/04/03 23:00