急速な高齢化による患者の増加や医療の高度化などへの対応が求められる中、東京都の都立病院が転換期を迎えている。有識者でつくる都立病院経営委員会は今月、都立8病院に関し「地方独立行政法人への移行について検討すべきだ」との提言を盛り込んだ報告書を内藤淳・都病院経営本部長に提出。従来の医療体制の維持に加え、地域医療への貢献が新たな役割として求められる中、経営の効率化と柔軟な人材育成を進める狙いがある。【円谷美晶】
自治体病院を巡り、国は2015年に策定した新公立病院改革ガイドラインの中で、地域医療の中で果たすべき役割を明確にするよう求めている。都立病院は従来の行政的医療(精神科医療、感染症医療、災害医療など)に加え、長年培ってきた技術や専門性の高い人材などを生かして地域医療の充実に貢献することが求められている。
経営委員会の報告書は「現在の都立病院は、自治体特有の手続きや制度による制約が多い」と指摘した。例えば、都立病院の医師が地域の医療レベルを向上させるため民間医療機関に指導に行こうとしても、地方公務員法で兼業が禁止されており難しい。独法化すれば地方公務員法の縛りはなくなり、病院の実情に合わせて職員給与や契約形態を柔軟に設定できるなど、弾力性や経済性の向上が期待できるという。
現在の経営形態のままでは、これ以上の収支改善が難しいという側面もある。行政的医療は採算がとりにくく、都立病院も慢性的な赤字経営が続く。一般会計から毎年約400億円を借り入れている現状に、委員からは「考えられない大金。改革は急務だ」との声が上がった。経営改善に取り組みつつ「地域貢献」という新たな役割を担うためには、独法が最もふさわしいと結論づけた。
全国では自治体病院が独法となる事例が増えつつあり、都病院経営本部によると、893ある自治体病院のうち81病院(16年3月末現在)が独法となった。10年に県立5病院を独法化した神奈川県では、独法化前の09年度は約131億円を一般会計から繰り入れていたが、16年度には約104億円まで減った。県立病院課の担当者は「経営効率化に加え、組織運営や人事でも弾力的な対応ができるようになった」と話す。
ただ、独法化すれば約7000人の職員の身分が公務員でなくなることなどから、労働条件悪化や医療サービスの低下を懸念する声もある。小池百合子知事は定例会見で、独法化について「都民にも意見をもらって改めて検討していきたい」と述べた。
都は18年度から6カ年の中期計画に報告書を反映させ、検討を本格化させる。都民や病院職員らの理解を得るため、丁寧に説明をしていく必要がある。