これは、初めて中性子衝突・合体イベントを重力波とガンマ線によって捉え、鉄より重い元素のいくつかが本当に中性子星の衝突・合体により作られていたことを証明し、史上最大の観測キャンペーンが行なわれた、科学史に残るイベントです。ノーベル賞も期待できます。(これまでガンマ線バースト分野からはノーベル賞受賞者が出ていないので、この分野の貢献者への授与も考えられます。)

こうしてその問題は時代遅れになった

 そしてこのイベントは、日本のセンター試験問題にも微妙な影響を及ぼしました。地学第6問Aの選択肢(2)が、間違いといったらいい過ぎですが、的外れになってしまったのです。

 宇宙空間にただよう鉄より重い元素、46億年前に地球の原料となって、今も地中に埋まる金銀ウランにプラチナは、超新星爆発によって作られたものよりも、中性子星衝突・合体によって合成されたものの方が多いようです。

元素の合成過程を反映した周期表。ただし、計算によって今後変わる可能性がある。(Johnson (2017) に基づいて作成)
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 もしも最新知識を踏まえて(2)の選択肢を修正するならば、以下のようになるでしょう。

修正前:超新星爆発によって、鉄より重い元素がつくられた。
修正後:中性子星衝突・合体や超新星爆発によって、鉄より重い元素がつくられた。
 

 実のところ、10月16日の時点でセンター試験の問題はすでに決まっていて、修正は困難でしょう。また修正すると、受験生の学んだ教科書から逸脱することになって、これまた「問題」が生じるでしょう。

 教訓ですが、科学の進歩は時には急激で、学んだ知識が一瞬で時代遅れになることもあるのです。

(筆者も科学知識を伝える側として、肝に銘じておかねばなりません。)