2011年07月19日

偏差値と学費を比較して「お買い得」な私立医学部!?


私大医学部(医学科)の偏差値は学費と相関関係がある
つまり,「学費が相対的に安い私医の偏差値は高くなりやすい」
という話を聞いた事があり,もっともではあると思っていたのですが,
どの程度真実性のある話なのか,あらためてきちんと計算してみたいと思います.

学費その他の諸経費の計算については,やや繁雑な事もあり,
今回は「医学部受験ドットコム」内のページでまとめられている数字を
引用させて頂く事にしました.
http://www.igakubu.com/archives/53_gakuhi/index.html

※諸注意
今回扱う「学費」の中には,含まれていない
「これ以外の費用」が他にある場合があります.
特に,教科書代や通学経費などはほとんどの場合含まれないと思われます.
また,全ての計算の根拠は
単純に数値で表す事の出来る「学費」及び「偏差値」のみに頼っており,
例えば「医学部入試の難易度が実感レベルでどのようなものか」や
「割安とか割高などと言っても,そもそも高額な私大医学部の学費
 (全29大学の平均は約3373万円)を払える家庭は限られるのではないか」
といった,ごく当然の前提もほとんど考慮に入っていません.
これらの情報については,読者各自で
他の信頼出来る情報源を探して頂くようお願いします.




●計算の方法

「学費」については,上述の医学部受験ドットコム「学納金」ページに記載されている
「6年間の総額」の数字をそのまま利用します.

次に「偏差値」については,三大予備校(河合塾,代々木ゼミナール,駿台予備校)
が公表している数字を,単純平均したものを使う事にします.
尚,駿台模試の偏差値は2種類ありますが,医学部受験者層の動向なども考えて
ここでは「全国模試(ハイレベル)」の数値を採用しました.

そして,学費を変数x,偏差値をyとして,近似直線の式を求めます.
この計算はOpenOfficeがやってくれました.
式が見やすいように,学費は10万円単位としています.

求められた近似直線の式は,

y = -0.0366x + 76.1838

となります.

また,後で使いたいので,逆にxについて解いた形も求めておくと,

x = 2082 - 27.32y

となっています.

※ここで,統計数値の取り扱いに慣れている方などは
違和感を覚えられるかもしれません.
実際,理論的には本来の有効数字はせいぜい3桁であり,
それより下の桁には科学的意味はありません.
しかし,今回の計算で桁落としを精密に取り扱うと,
特に学費の「金額」における計算では膨大な誤差が発生してしまう事,
一方で,偏差値の数値においては,0.1以上の違いでさえも
受験者の立場で「果たしてどの程度の意味があるのか?」といった疑問点も
考えられる,等の事情を考慮して,
今回は「計算結果の数値が直感レベルで見えやすい」事を優先し,
その分だけ科学的正確性を犠牲にする方針を敢えて選択しました.



直線近似が本当に有効なのか?(=他の曲線等で近似した方が良いかもしれない)
と思われる方もいるかと思いますが,実際に数値をグラフにプロットしてみると,
下図のようになります:
igakuhi.png
この状況を見る限り,直線(線型)関係は「無くはない」と考えられる事,
また,他の曲線による近似はあまり良いものが無さそうだと思われる事から,
今回は上述の直線近似式を全面的に採用して,以下の解析を進めます.



●近似式に偏差値を代入して求めた「理想の学費」

早速,求められた数式を使って,
この偏差値なら本来このくらいの学費のはず」という
理想の学費」の金額を求めてみます.
※この「理想」という言葉には,数値計算以外の何らの意味もありません.以下同様.

大学名        理想の学費(万円)
慶應義塾大学      930
東京慈恵会医科大学  1690
順天堂大学      2350
日本医科大学     2350
大阪医科大学     2650
自治医科大学     2760
昭和大学       2760
近畿大学       2840
産業医科大学     3060
関西医科大学     3170
日本大学       3330
東邦大学       3380
東京医科大学     3440
杏林大学       3440
久留米大学      3600
愛知医科大学     3600
藤田保健衛生大学   3600
兵庫医科大学     3710
北里大学       3790
東京女子医科大学   3880
福岡大学       3880
東海大学       3930
岩手医科大学     3990
独協医科大学     4150
埼玉医科大学     4150
金沢医科大学     4260
帝京大学       4290
聖マリアンナ医科大学 4480
川崎医科大学     4480


計算式からも分かる通り,「偏差値が0.1違う毎に学費が約27万3千円変わる
という状況になっています.
偏差値で0.1というとさすがに誤差範囲でしょうが,
例えば「偏差値を1上げる労力(受験勉強)の対価が273万円相当と算出される
と考えてみると,大学(私大医学部)受験生の実感としては,いかがなものでしょうか?



●学費の「お買い得率」

次に,上で求めた「理想の学費」に対して,
実際の学費がどの程度割高または割安であるか,を算出してみます.
現実的な受験における選択の視点で見やすくする為,
偏差値及び実際の学費を併記しておきます.

大学名        得率  偏差値 学費(万円)
聖マリアンナ医科大学 30.2  59.8  3440
自治医科大学     22.1  66.1  2260
東京女子医科大学   18.2  62.0  3284
岩手医科大学     17.4  61.6  3400
東京医科大学     17.0  63.6  2940
順天堂大学      12.4  67.6  2090
久留米大学      11.8  63.0  3220
独協医科大学      9.2  61.0  3800
埼玉医科大学      9.2  61.0  3800
金沢医科大学      7.9  60.6  3950
関西医科大学      6.7  64.6  2970
東邦大学        6.3  63.8  3180
昭和大学        4.2  66.1  2650
福岡大学        2.9  62.0  3771
日本大学        0.6  64.0  3310
産業医科大学      0.4  65.0  3049
東海大学       -0.1  61.8  3932
川崎医科大学     -1.5  59.8  4550
北里大学       -2.6  62.3  3890
兵庫医科大学     -4.4  62.6  3880
愛知医科大学     -5.3  63.0  3800
藤田保健衛生大学   -5.3  63.0  3800
杏林大学       -7.0  63.6  3700
帝京大学       -12.8  60.5  4920
大阪医科大学     -15.6  66.5  3141
日本医科大学     -16.5  67.6  2813
近畿大学       -20.7  65.8  3580
東京慈恵会医科大学  -24.9  70.0  2250
慶應義塾大学     -61.8  72.8  2432



※「例外」の存在
この記事をお読みの方は既に御存知かと思いますが,
自治医科大学及び産業医科大学については,
学費の算出にそもそも「特殊事情」がある
という事を,念の為注記しておきます.
詳細は各大学の公式情報で確認して頂きたいと思いますが,
卒業後に医師としての勤務において一定の条件を満たした場合に,
自治医科大学は上の全額,産業医科大学は約1919万円が免除されます
(在学中は貸与扱い).
この免除を含めて考えると,
自治医科大学の「お買い得率」は理論上無限大(!)
となります.
また,産業医科大学のお買い得率は,上の数字+62.9%となり,
一気にトップに躍り出る事になります.


さて,上の例外2大学を別にして,あらためて表の数字を見ていきます.
私立医学部の6年間学費の平均が「約3373万円」であった事を思い出しつつ
実感レベルで考えてみて下さい.

まず,「お買い得率」が上位にあるのは
聖マリアンナ医大,東京女子医大,岩手医大,東京医大といった各大学ですが,
これらの大学の学費は,上の「平均額」と比べても,別に安くはありません.
では何がメリットなのかと言うと,「学費の割に偏差値(入試難易度)が低い
という点です.
即ち,6年間で3000万円以上の学費(無論,実際には他の諸経費もかかります)を
払えるという前提が成り立っているのなら,
ここでお買い得率が上位となっている各大学を選択すれば,
受験勉強の労力を最小限に抑えられる可能性がある,という事になります.
(「受験勉強」の方法次第では,予備校等のコストを抑えられる可能性もあります.)

また,これまでの数値には表れていない情報として,
昭和大学の医学部では,正規合格した場合に
650万円が免除
になるという制度が設けられています.
これを含めて計算した場合,昭和大学のお買い得率は上の数値+24.5%となり,
トップクラスのお買い得度を得る事になります.
しかもこの場合,6年間学費の総額は2000万円となりますから,
全私大医学部平均よりもかなり安くなります.

さて表に戻って,「平均よりも安くて,かつ偏差値から見てお買い得な大学
という条件から求めていくと,順天堂大学が目につきます.
偏差値からは決して易しくはないのですが,
学費の安さは昭和の正規合格とほぼ同等です
(実際,順天堂はこの学費に値下げしてから偏差値が上昇しました).

他にもこの条件に該当する大学はないものか…と順に見ていきますが,
昭和大学が正規以外でも多少割安なくらいで,他にはそれほど安い大学は見当たりません.
3300万円(平均)を払うのが苦しい受験者層は,おそらく既に相当数が
学費の絶対額が安い大学に流れ,偏差値を押し上げているのではないかと予想されます.


次は逆に,お買い得率が低い,言わば「お買い損」な大学(言い方は悪いですが!)を
見ていく事にします.

真っ先に目につくのは,慶應,慈恵医大,日医の「御三家」が筆頭に挙がっている点です.
この3大学はいずれも学費が平均より安いにもかかわらず,
「お買い損度」がかなり大きな数字となっています.
理由は明らかに,偏差値が高過ぎるからです.
おそらく,学費の安さのみならず,伝統や学閥などといった「ブランド」の力も
少なからず効いているのだろうと思われます.
あるいは逆に,冒頭で紹介した「学費が安い医学部の入試(偏差値)は難しい」という
風評を作り上げてきたのは,これらの大学の歴史であったのかもしれません.

他には,数字上はあまり明確ではありませんが(学費は若干安い程度),
西日本における受験者からの支持状況なども含めて考えると,
大阪医大もこのタイプに該当するのではないかと思われます.

一方で,偏差値が高騰しているというより
そもそも「学費自体が割高」(※あくまで数字上)と思われる大学もあります.
特に,近畿大学と帝京大学あたりが大きく該当します.

そこで,これらの大学に対して,地理的事情も考慮しつつ,
同レベル以下の偏差値帯でより学費が安い,他の私大医学部への「シフト」
を検討
してみますと,
近大は関西医大(差額610万円),帝京は聖マリ医大(差額1480万円)
あたりへのシフトがそれぞれ考えられます.
もっとも,偏差値の差はそれほど大きくないので
実際の受験時にその選択肢を持てる合格者がどれだけいるかは微妙ですし,
単純な学費以外の要素を加味した判断において,
上の「差額」が果たしてどれほど高いのか(あるいは安いのか)という事は,
また全然別の話なのかもしれませんが.



●学費から見た「理想の偏差値」及び実際の偏差値との差

最後に,冒頭の近似式に「実際の学費」を基準として代入し,
理想の偏差値」の数字を求めてみました.
冒頭で御紹介した「偏差値から見た理想の学費」の逆バージョンです.

大学名        理想  実際との差
順天堂大学      68.5   0.9
東京慈恵会医科大学  67.9  -2.1
自治医科大学     67.9   1.8
慶應義塾大学     67.2  -5.6
昭和大学       66.4   0.3
日本医科大学     65.8  -1.8
東京医科大学     65.4   1.8
関西医科大学     65.3   0.7
産業医科大学     65.0   0
大阪医科大学     64.6  -1.9
東邦大学       64.5   0.7
久留米大学      64.3   1.3
東京女子医科大学   64.1   2.1
日本大学       64.0   0
岩手医科大学     63.7   2.1
聖マリアンナ医科大学 63.5   3.7
近畿大学       63.0  -2.8
杏林大学       62.6  -1
福岡大学       62.3   0.3
愛知医科大学     62.2  -0.8
藤田保健衛生大学   62.2  -0.8
独協医科大学     62.2   1.2
埼玉医科大学     62.2   1.2
兵庫医科大学     61.9  -0.7
北里大学       61.9  -0.4
東海大学       61.7  -0.1
金沢医科大学     61.7   1.1
川崎医科大学     59.5  -0.3
帝京大学       58.1  -2.4



ひとまず理想偏差値の数字順に並べましたが,これ自体に大した意味はありません.
興味深いのはむしろ,実際の偏差値とのずれ度合いです.
偏差値から見た「お買い得度」を表していると考える事が出来るからです.

今回の数字でお買い得度が特に高い大学(+2以上)は,上から順に
聖マリアンナ(+3.7),岩手医科(+2.1),東京女子医科(+2.1)となっています.
逆に,偏差値的に「お買い損」な大学(-2以下)は
慶應義塾(-5.6),近畿(-2.8),帝京(-2.4),東京慈恵会医科(-2.1)
という順になっています.
おおよそ,「理想の学費」のところで見たお買い得率の順位と同様の状況ですね.
「お買い得」の意味の解釈についての注意も同様ですので,説明は割愛します.


他に興味深いと思われる数字として,
「学費免除を考慮した場合」の再計算結果を述べておきますと,
自治医科76.2(上の数字+8.3),産業医科72.0(同+7.0),昭和68.9(同+2.5)
となっています.
端的に表現すると,例えば「昭和の正規合格は偏差値2.5分の価値をもつ
といった意味付けが見てとれます.
これは無論,上述の「偏差値が0.1違う毎に27万3千円」にほぼ近い数字です.


また,国立医学部(6年間納入金約350万円)の理想偏差値を同様に計算してみると
74.9となっています.
この数字を,「全国の国公立医学部医学科の平均難易度」と考えれば,
おおむね妥当な数字と言えるのではないでしょうか.

更に,国公立大学を全国区で選んだ場合,自宅外通学となる可能性を織り込んで,
例えば下宿生活費が6年間で1000万円(毎月約13万8千円)として計算してみますと,
この分の金額が偏差値3.7に相当する事になります.
つまり,自宅から通えない国公立医学部であっても,
偏差値が71.2(=74.9-3.7)以下であれば「お買い得」
と考えられます.

とはいえ,慶應医学部の偏差値が72.8,慈恵医大が70.0である事を考えると,
そこまで入学が易しい国公立医学部医学科というのも,なかなか無い気がしますが…

逆に言えば,国公立医学部でAOや推薦などの入試方式が選択出来る場合,
もし合格を勝ち取れれば非常にお買い得度は高くなる
という解釈も出来ます.
決して全ての人が医学部を目指す必要はないと思いますが,
これまでに計算してきた程度の「利益」が見て取れる事を考慮すると
(例えば,国立推薦の難易度が偏差値換算で68程度だった場合,
 自宅外通学でもお買い得度は+3.2ですから,額面では約874万円の得になります),
新たに,またはより一層のモチベーションが出てくる方もあるのではないでしょうか.
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posted by マヤ at 13:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育に関する意見・分析 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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