クラブでのターンテーブルのトラブルは何故、こうもよく起こるのだろう?Gabriel Szatanがこの問題を深く掘り下げ、この技術的な危機を解決する方法を探る。
ターンテーブルのトラブルは何故、こんなにも起こり続けているのだろう?クラブでレコードをプレイすると機材トラブルが起こりやすいという事については、先日のRA podcastに登場した、何十年ものターンテーブル使用歴を持つLisa SmithことNoncompliantがとうとう機材を変えたことで、既に十分すぎる程証明されている。使用機材を変えるのは決して珍しい話ではない。先進的なDJ機材が普及するにつれ、ツアーの際にレコードバッグを自宅に置いてくるDJは増えていった。仮にTechnics SL-1200のことをスタンダードなターンテーブルとして話すのなら、ターンテーブルがDJブースでの支配権を失ってから、もう随分と時間が経っている。しかしそれは、ターンテーブルが時代遅れな品だという意味ではない。個々人がデジタルなDJ機材のクオリティについてどう思っているかはさておき、ターンテーブルというクラシックなアプローチでDJすることを禁じられる理由はないのだ。ヴァイナルでのプレイはもっとストレス無く出来る状態であるべきで、特にDJで生計を立てている人にとっては尚更のことだ。
信頼できる機材と評価されているTechnicsだが、その実、他の機械的なデバイスと同様、非常に複雑な”怪物”だ。壊れる可能性があるものはいつか壊れる、という話である。いざどこかに問題が起こった時も、CDJ-2000のようにスクリーンがフリーズするわけでも、ミキサーのように左チャンネルからしか音が出なくなるわけでもない。トーンアームとピッチスライダーはとても繊細で、ちょっとした汚れがあるだけで自在に動かなくなる。目視では見つけられるレベルではない程度の事が、いつの間にか針が溝から外れるようになったり、ミックス中にレコードがずれたりといった、大きな事態にまで達してしまう。そしてクラブの備品である以上、視界の悪さ、不適切に繋がれたモニター、不安定な置き場所、こぼれた飲み物など、現場で不意に起こりがちな様々な出来事が積み重なることで、ターンテーブルが生来持っている壊れやすさが露呈してくるのだ。
Smithが、過去のレコードプレイ歴の中でよく遭遇した問題は「震えるトーンアーム、トーンアームとカートリッジとの接続部分の接触不良、だめになった針、不安定なピッチスライダー、点かなくなったライト、アイソレーションがうまく出来てない事によるフィードバック、そして音飛びに次ぐ音飛び」だ。そのSmithと同じ位シーンに居るJane Fitzは、確固たる意志でレコードでプレイし続けているが、そんな彼女に「良いギグとは?」と尋ねると「(Smithが挙げていた問題のうち)いくつか起こらないものがある時が良いギグだし、それに、さっきの問題リストには"ぐらついたデッキ”も入れるべき」という実に皮肉な答えが返ってきた。Smithが言う通り「レコードでプレイする時に目指してる事はただ一つ、ダンスなのに、それが一番台無しになりやすい」のだ。
ターンテーブルでプレイする際、常によどみ無く流れるプレイを期待するのは、正直なところ厳しい。Joseph Seaton(Call Super)とTJ Hertz(Objekt)といえば、機材のセットアップへの要求が厳しいことで知られているが、場末のバーの怪しげなSL-1200でプレイしていたことでスキルが磨かれたと語る。Storm名義で知られるドラムンベースのアーティストJayne Connellyもまた、「デッキの前に立ち、機材面の問題を頑張って乗り越えていく姿勢も、ある意味で”アートの一環”だと思われていた」と、同様の事を述べている。しかし現在では、クラブには最低でも標準的な機材がセットアップされていることが殆どだ。Connellyは90年代初期、DJパートナーだったKemistryと共に活動していたが、当時のレイヴでノーブランドのよくわからないデッキが用意されていたことがあったり、また同じ頃に、MC RageがBinatone製の鮮やかな青色の肩掛けタイプのマイクを使わざるを得ない状況になった事も話してくれた(訳者註:Binatoneは電話やラジオなどを中心としたイギリスの通信機器メーカー)。 ConnellyとKemistryはTechnicsとの契約があったため、ノーブランド品のデッキしかない現場ではプレイせずにステージを去ることも可能ではあったが、それでも果敢に自分達の仕事をやってのけたそうだ。
ダンスの場でこうしたドタバタ劇が起こらないようにいくら気を使っていたとしても、全てを防ぎきることは難しい。ウェールズで開催されているフェスティバルFreerotationは、ハイスペックなサウンドと居心地のよい雰囲気で金賞クラスの評価を得ており、毎年多くのDJがレコードでプレイしている。スペアのカートリッジや針が入った応急処置キットが全5ステージに置かれているほか、予備のデッキも6台用意されているが、それに加えてさらに、信頼のおけるレンタル業者から機材を借りられる体勢が整っている。これほどの厳密なプランニングにもかかわらず、同フェスティバルの共同設立者のSteevioは、昨年のアウトドアステージで、機材の磨耗の見落としにより、ちょっとした音飛びがあったことを認めている。また、同フェスティバルをはじめた当初の頃は、インドアステージのサウンドシステムが「地下室のある真上で、吊り上げ式の天井の上」に設置されていて、望ましくない振動が起こっていたそうだ。その問題はIsonoe製のアイソレーターを全てのデッキの下に置くことで解決し、アウトドアステージについてはサポート体制を強化することで、2018年には新たな問題が起こらないように備えている。
どのような音楽イベントであっても、信頼に足りる音を出すためには、こうした先回りしたアプローチが一番大切だと実感する。リスクを最小限にし、トラブルシューティングの必要が減る(通常は恐ろしく多い)ことで、もっと自由が利くようになる。全てがうまくいき、誰もが幸せになるのだ。しかし悲しいことに、それはまだまだ現実味のない話だ。ちょっとした失敗は許容範囲だが、DJのパフォーマンスを酷く損なう程の問題は、全ての人にとってその夜を台無しにしてしまう。「年に一度のフェスティバルであれば、予期せぬことは起こり得るだろう。だけど、クラブではそんな言い訳は通用しない」とSteevioは言う。では、何故そうした問題は起こり続けているのだろうか?
クラブカルチャーのメカニズム自体にも、レコードでプレイするアーティストを適切に支えられない事情がある。実際のところ、多くの人々が毎週末のクラブに求めているのは一級品の音質ではない。とはいえ、音質は最優先しなくていい、という意味にはならないはずだ。世界規模で見れば、このシーンに新たに入ってくる人数は膨大なはずだが、そこに常連として残る人々はどんどん減っている。出入りの比率が合わないおかしな状況だ。この状況にはプロモーター、ブッカー、ヴェニューのオーナー、音響技術者、その他業界に関連する人々を含めた大きな集団としての全体に責任があり、また、改善する義務があるのではないだろうか。
なかでも、経験が浅い、もしくは単に仕事熱心でない人々の責任は大きいだろう。メインストリームではないという自覚があるダンスミュージックとはいえ、クラブカルチャーの初期の頃と比べると、2018年現在は一層、しっかりと手入れされた機材が必要とされている。やる気と意志があるのなら、自分の手持ちのサウンドシステムだろうが、有名な会場であろうが、お金をかけた一夜のパーティー、そして小規模なフェスティバルであれ、同じことだ。だが、それがレコードをプレイするに値する精度に達していないことがあまりにも多い。予算のなかで、追加の音響機材を借りることが軽視されがちだ。
イギリス国内の話をすれば、Fitzはこの問題が悪化していると考えている。「カフェや倉庫、地下空間など、本来パーティーを想定してない場所でのイベントが増えている」と彼女は言う。「そういうイベントは、熱意にあふれていても、適切なセットアップをするための知識や経験が足りてない若い人達が集まって主催していることが多い。主催者側は年長の音響屋を頼りにしてるのに、自分たちをよく見せるのがうまいだけの音響屋もいて、結局、主催者に恥をかかせてる!」。またHertzは、そもそもが不明瞭な部分の多い多目的スペースに、ずさんな設営がされることが原因だと考えている。「サウンドチェックをしに行ったら、ターンテーブル用のテーブルを置く大きなステージ自体が脆弱でぐらついていて、フロアからの振動が内臓にまで響くような状態なのに、そこにサウンドエンジニアが来てスポンジを手渡してきて『はい、これでフィードバックが来なくなるから』なんて言われたことは数え切れないほどあった」。特にワンオフのパーティーでは、不適切な音響業者を雇ってしまうことはよく陥りがちな罠と言えるだろう。
しかしDIY精神や固定した開催地を持たないことは、決して制限にはならない。アメリカのピッツバーグでHumanaut、Honcho、Hot Massといったパーティーを過去15年以上にわたり共同開催してきたAaron Clarkは「お金を払って本職の音響技術者を雇うのは贅沢な夢だ」と言う。彼の解決策は極めてシンプルで、つまるところは熱意と気配りの問題であり、必要なものを貸してくれたり、困った時に助けてくれる人々のネットワークを自分の周りに広げていくことだった。Hot Massのゲスト出演者の少なくとも半数がアフターアワーズでレコードをプレイし、会場が大入りになることも多い。「一番基本的な責任は自分たちにあって、それを皆で分担するんだ。レコードをプレイする人たちは皆、ギグをするのがどれだけワクワクすることなのか、よく分かっているからね」。そうした雰囲気があることで、避けられるトラブルには事前に対処することができるのだ。
あまりにも当然の事すぎて、逆に忘れられがちな対処法にも有効なものがある。スペアの針、カートリッジ、リードを揃えるのはもちろんだが、即座に使える交換用機材を用意する事もより一般的になるべきだろう。アメリカ・シカゴのsmartbarのプロダクションマネージャーであるJose Alberto Lunaは、そこに確固たる信念を持っている。「ちゃんとしたクラブやアンダーグラウンドのイベントであれば、どこも必ずそうしている」と語るその言葉の通り、smartbarには完璧に使える状態のTechnics SL-1200が8台用意してある。必要な分だけを用意し、トラブルが起こらないように願うだけでは、トラブルは回避できない。
今回、この問題についてインタビューした人々の意見では、グレーな運営か、ライセンス完全取得済みかにかかわらず、中~小規模程度のイベントが音響面で信頼できることが多いと語っている。特に、シアトルのSecondnatureやテルアビブのBreakfast Club、ロンドンのPickle Factory、日本のrural festival、そして世界各国で開催されているDekmantelやSecretsundazeのイベントの名前が挙げられた。Hertzはどのギグでも律儀に事前サウンドチェックに時間を割いているが、やはり中~小規模程度のイベントが彼のリクエストに一番忠実に応えてくれると評価している。すでに少なくなってきたヴァイナルDJの一員として、彼は「かつての半数程度になったマイノリティでありながら、音量の小さい7インチを一番大きいヴォリュームでフィードバックがないようにプレイしたり、かと思えば、ラウドなテクノの12インチをプレイしたりと、十分すぎるほど厳しい要求をするのがヴァイナルDJだ。それでもし、ちょっとでもフィードバックが入ったりしたら、もうどうなるかはわかるだろう。だから、ショーの当日に(フィードバック対策として)現地の園芸センターで30kg分の石板を購入し、僕の神経質な気分をなだめてくれたインディペンデントなプロモーター達への感謝は本当に尽きないよ」と語ってくれた。
経験の浅さの問題でなければ、不適切なセットアップとは金銭面の問題であり、つまり予算をかけていないという事だ。「機材をケアする専門の人間を雇っているクラブはまず無い」とSeatonは言う。「実際、中~小規模のクラブではそうすること自体が無理なんだ」。確かにその通りだろう。ごくわずかな誤差程度のトラブルだけで一晩中黒い円盤を何枚も回し続けようと奮闘しても、実際には、自身のDJにはふさわしくない機材でプレイする状況に置かれることが多くなってしまうのだ。
適切なサウンドを届けたいと思っている人ほど、それに失敗した場合は、より厳しい問題に発展するものだ。余分な付属品のほうに手が掛けられていたり、限られた時間に大勢のアクトが詰め込まれていた場合は怒りがさらに燃え上がるだろう。安定したレコードデッキの表面ほど、シンプルそうに見えて簡単に実現できないものはない。
現在のクラビングに対して最もよく聞く不満の声は、ダンスミュージックが持つ「体験するもの」という側面に対して、かつてないほど大胆なセッティングが施されることで、音楽を楽しむという本来の体験が損なわれているという意見だ。たとえ商業的ではないアーティストをブッキングした時でも、そこそこの規模の都市の大~中規模のヴェニューでイベントをやっていると、盛り上げて競争に勝つため、つい大袈裟な方向に演出しがちだ。観客から魅力的に見えるように、より多くの出演者をブッキングする事に予算をかけることが問題になっている。それにより、早い時間に出演するアクトは、誰もいない状態でプレイしたり、その後のヘッドライナーのために技術的な問題を解決するための人柱のような存在になってしまう。背後で40フィートライトに名前を照らされたそのDJの武勇が讃えられることはなく、それでいて、いざ音飛びや音量の変動などがあれば激怒の顔を向けられるのである。
ツアーDJ達のサーキットをサポートするため、より先進的な設備を作り出すことに邁進する一方、必要な音響機材の手入れについては業界全体で後退しているという、アンバランスな様相を呈している。個人的には、国際的なプロモーターが密集していることが、この技術的な盲点の問題を悪化させているのではないかと思っている。その問題がターンテーブルの問題にまで及び、またモニタリングにも問題が多い。そのどちらもが、ヘッドライナー達を急かし、セット前のチェックをほんの数分で終わらせようとすることで犠牲になっている問題だ。特に、カレンダー上のピークタイム、すなわち夏のフェスティバルシーズンには、DJ達が一度のツアーで国境を越えて数多くのブッキングを強行するため、ケアレスミスが増えていくのだ。
先日、Warehouse Projectで開催されたMastermixのイベントで働いていた友人と話したところ、メインルームのセットアップは大量にリンクされたCDJとミキサー、それにターンテーブル2台だったが、ターンテーブルはほぼ置いてあるだけになっていたという。それを聞いても特に意外な気はしなかった。Hunee、Jackmasterら、ヴァイナル好きを公言してその為の技術も兼ね備え、レコードだけで素晴らしいセットをするDJであっても、大勢の観客を一斉にリードし、観客の雰囲気にあった選曲をしながら、動作不安定なことも多いフォーマットを軽々と使いこなしつつ、航空機の音のようなフィードバックの原因を見つけ出したり、汚れた針を取り替えるのは並ならぬストレスのはずだ。わざわざそんなリスクを冒すだろうか?そんなことをしていたら、絶え間なく動き続ける機械のようになってしまう。こうした状況にDJが不安感を覚え、多くの注目が集まる場ではレコードでプレイしようという気がなくなることで、クラブやフェスティバルでもターンテーブルが第一の選択肢から外されていく。そうして機材のサプライヤー側でも備品のバリエーションが狭まり、景色が均一化していくのだ。「どのフォーマットを使うか選べる自由が、ゆっくりと、でも確実に、DJから奪われている」とConnellyは話す。
この問題がシーンの構造に起因しているのであれば、シーンという舞台に立った役者全員が、自分に与えられた役をこなすべきだ。グローバル化したクラブシーン自体はすぐにどうにかできるものではなく、デジタルDJ機器の優位が突然ひっくり返ることもないだろう。今もレコードバッグを持ち歩いている人、システムの中で真面目にオペレーティングをしている人ばかりがトラブルの元凶とされるのだろうか?贅沢なプロモーターがディナーの為に使っている予算を適切なサウンドチェックの為に回したり、ステージへの出入りが激しすぎるフェスティバルでのギグをはっきり断ることで、問題は避けられるのではないだろうか。そうすれば、誰もがもっと本番に備えられるはずだ。
ヴァイナルDJは個人的に、プレイに役立つ秘訣を色々と持っている。Connellyの場合は、ショーの前の数分間にレコードをクリーニングしたり、サウンドチェックの時にはあらゆることをチェックする。Smithは以前はSeratoユーザーで、インスタントダブルスの機能と、ラップトップのインターフェイスでミキシングができることで、最低でも使えるターンテーブルが1台あればどうにかなるという可能性が広がったと話す。SeatonとHertzは、ピッチを上げ下げする、33/45 RPMの切り替えボタンを押す、接点部分からケーブルに至るまで、シグナルチェーンを総点検するなど、ごくシンプルな方法でもトラブルを解決できると話してくれた。
「他の人の失敗を片付けるのが私の仕事じゃない」とFitzは言う。彼女は最終手段としてUSBを持ち歩いているが、結局はバックアップを持っているのだという意味で受け取られることが多いようだ。「私はその場のセットアップが良くないことや、音響技術者やプロモーターがいかに不適切、もしくは無関心かということを、DJはもちろん、お金を払って来ている観客にも伝えたい」。彼女とのeメールでの会話の最後のほうには、こんな抗議の言葉も添えられていた。「正直言うと、音響技術者の人たちも辛いだろうなと感じている。話をしてみると『(音響や機材が)ひどいのはわかってるんですが、オーナーが気にしてないもので、どうしようもないんですよ』という声が返ってくる」
もし、あなたが音響関係の問題への対応に特化して雇われたとしたら、問題が巻き起こった場合の責任は、第一にあなたにあるのだろうか?答えはイエスともノーとも言えない。この世界には役立たずな人、傲慢な人もいる。ほぼ男性が占める専門職だけに、性差別的な考えを持つ人々も残念なほど多く存在する。Nabihah IqbalとThe Black Madonnaは昨年、自身の性別によって、ステージハンド(訳者註:ステージ周りのスタッフ全般を指す)から見下された態度をとられたことについてパブリックコメントを発表している。FitzとConnellyも同様の話をしていたが、この問題については公平なアプローチで冷静に対応したいとしている。
軽蔑ではなく同情というのが、サウンドエンジニアに対する気持ち全体を示す言葉といえるだろう。「一見わかりにくいレベルのターンテーブルの問題に、対処できるだけの経験が足りていないんだと思う」とHerzは言う。「今では殆どのDJがデジタルオンリーで、そういう時代がすでに大方のサウンドエンジニアの平均キャリア年数よりも長く続いているのに、彼らのことを責められるだろうか?」。Seatonもそれに同意している。「僕も常日頃、気性が荒いタイプの人々から寄せられる嫌がらせや疑念には苦労し続けている。音響屋の仕事は厳しい仕事だし、彼らからあれこれ言われるは、ある程度は必要なガス抜きだと思って受け止めている。僕もだんだん、期待値は低めにして、その中でベストを尽くそうという方針になってきた」
それでも何かのトラブルが起こってしまった時、観客として何かやれることはあるだろうか?何か手伝いたいという気持ちは強いだろうが、今回話を聞いた人々は皆「ヒーローになろうとしなくていい」という意見に同意していた。Clarkは「何か手伝えると思うかもしれないけど、まず難しい。前にトラブルがあった時、頼んでないのに観客が4人くらい来て配線をやり直そうとしてくれたけど、そのうち2人が同じケーブルだと気付かずに反対側から引っ張り合ってしまって、映画『Lady And The Tramp(わんわん物語)』のクラブ版みたいになった事がある」
ともあれ、こうしたピンチは起こってはいけないタイプのものだ。究極的には、先にも述べたように、マネージャー、オーナー、プロモーター、ブッカーといった大きな集団としての全体で対処すべき問題であり、適切なサウンドを保証できていない状態で、色々と詰め込みすぎなクラブイベントやフェスティバルを続けてきた人達の問題である。真っ先に求められているのはプロフェッショナルな姿勢だろう。大きなイベントに雇ったのが不十分な音響技術者だったといっても、雇った側のほうの責任は無くならないのだ。業界全体の怠慢の延長上で起こったことだ。
クラブ業界の全体を見たとき、優先させる物事を見誤っている事が多い。クラブを、問題があっても解決可能で、しかも成功した状態に保つためには自然と優先順位が決まるはずなのだが、肝心の財布を握っている人が、最低限必要なレベルの度合いを見誤ることがあまりに多い。それなりのクラブであればどこでも、ドアにお金をかけたり、アルコールを扱うライセンスを更新したりといったことは忘れずにやっているのに、楽しい夜遊びを支える柱となる部分、すなわち音響には、残念なほどお金をかけないことが多い。「皆、音楽を求めてクラブに来る。それをないがしろにしていては、すべてがダメになってしまう」とLunaは言う。
この問題はもちろん、目がくらむような大規模なクラブスペースや、相当の参加者数がいるフェスティバルに限った話ではない。だが、今回話を聞いたObjekt、Storm、Noncompliant、Call Super、そしてJane Fitzのように、高いリスペクトを集め、世界各国でのツアースケジュールがあり、大小さまざまなヴェニューでプレイしているDJ達に対し、音響トラブルが起こりやすく、レスポンスレートが最低でも25%、およそ40~60%、高いところでは75%にもなる野球場でのギグを打診するのは、さすがにどうかしているとしか言えない。ヴェニューの半分がチケットが売れず空いているクラブや、冷蔵庫に何も入っていないクラブの光景が想像できるだろうか?それと同じことで、あまりに馬鹿馬鹿しい。こんな状態でもまだレコードをプレイしているアーティストがいることのほうが、むしろ驚くべき事なのだ。
このあり方を是正するための方法が真に求められている。まず、運営しているものの規模感にかかわらず、DJをパフォーマンスのためにブッキングするのであれば、そのDJ達が一番最良の状態を発揮できるように準備すべきというのが、最低限のラインだろう。例え余計に予算を使うことになったとしても、ターンテーブルがちゃんと使えるように準備をしたり、手持ちの機材をメンテナンスしたり、自分のヴェニューのスタッフが一定の水準に達しているかどうかを気にかけたり、ピンチの時に頼れる、もしくは魅力的な廃工場にサウンドシステムを入れる時に相談できるような人間関係を広げたりなど、こうしたことには時間を費やすだけの価値がある。
もちろん僕も、クラブやプロモーターの名前を挙げて、悪い意味での記録が残るのは避けたいということは理解しているが(今回インタビューした8人全員が、そうした場所や団体の実名を挙げる事を丁重に避けていた)、この問題についてもっと声を上げることがポジティブな変化を生み出す手助けになるだろう。ターンテーブルが今日的なフォーマットであり続ける限り、クラブ業界は再度、ターンテーブルが使えるのが当たり前の状態になるように体制を改善してほしい。夜遊びの世界では、ハイクオリティな音質とハイクオリティな体験は直結するものだという意見は、特に聞き入れてほしいものである。
Smithはこの問題を要約してこう語っている。「もし夜間のエンターテイメント業界自体が行き詰まってしまったら、誰もが困ってしまう。セットアップが適切で、音が適切であれば、誰もが嬉しい」。Steevioはそれをさらに具体的にして話していた。「もし手を抜けば、音響も、機材も、クルーも、何も思うようには動いてくれない。音響と機材のクオリティは神聖不可侵なものだ。もしそれがうまくできないのなら、イベントをオーガナイズしたり、音響技術者として働いたりすべきではない」
究極的には、イベント運営においても、ターンテーブルのシグナルチェーンについて話す時と同じマントラが適用されるだろう。「あなたの強さは、一番脆い接続部と同じ」。
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