カープの強さはまだ続く
だれよりも長く現役選手をやっていたから、勝つチームの条件というのはぼくなりにわかっているつもりだ。それは結果を出す組織の条件にも通じると思う。
例えば昨シーズン、2年連続8回目のリーグ優勝を果たした広島カープ。クライマックスシリーズではDeNAベイスターズの勢いに吞まれたが、レギュラーシーズンは2位の阪神タイガースに10ゲーム差をつける独走だった。ぼくは彼らの強さが、もうしばらく続くと考えている。
では、カープはなぜ強いのか。これは当たり前のことだが、なによりも まず戦力が充実しているからだ。
投打ともに、選手層はリーグ随一といっていい。
投手陣では前年、沢村賞に輝いたジョンソンが故障で大きく出遅れた。だが、岡田明丈、薮田和樹、大瀬良大地が独り立ちして、その穴を埋めて余りある働きを見せた。ブルペン陣もジャクソン、今村猛、一岡竜司、中﨑翔太、中田廉という鉄壁の5人衆がフル回転。ほとんど隙がない。
打撃も相変わらず活発だ。2017年のチーム打率、チーム本塁打はそれぞれ2割7分3厘、152本。どちらもダントツの数字だ。
このようにカープには、しっかりと数字を残している優秀な個人がたくさんいる。加えて年齢的なバランスもとてもいい。
だが、独走の秘訣はこれだけではない。いいバッター、いい投手を並べて勝てるほど、野球は簡単ではないからだ。
フォア・ザ・チームに徹する「一流」たち
カープを取材する中で、ひとつわかった事実がある。それは1番田中広輔、2番菊池涼介、3番丸佳浩、この3人にはほとんどサインが出ていないということだ。
つまり「走りたいときに走りなさい」「エンドランはタイミングが合ったら自由に」ということ。ベンチがいちいちサインを出さなくても、首脳陣の思惑を汲みとってプレーできる打者が揃っているのだ。こういうチームは強い。監督やコーチがいちいち指示しなくても、一人ひとりがチームの勝利のために最善のプレーを選択し、実践することができるからだ。
野球はチームスポーツだが、プロ野球は個人競技の側面も無視できない。選手は個人事業主。チームの勝利も大切だが、個人としていい数字を残さなければいい条件で契約してもらえない。
チームの勝利か、それとも個人の成績か。
優先されるのは、もちろん前者だ。野球はチームスポーツであり、球場に足を運ぶファンが期待するのはチームの勝利に他ならない。
だが勝てないチームになると、このチームと個人のバランスが崩れる。「俺が俺が」という意識が強くなり、チームバッティングが疎かになるからだ。こうなるとチャンスを逃すケースが増え、ベンチのムードも悪くなっていく。
こうした悪循環を防ぐために、ベンチは細かくサインを出し、チームバッティングを指示することになる。だが、指示がなければチームバッティングができないというのは、一流ではないだろう。
カープの習慣
カープでは1、2、3番に限らず、チームバッティングの精神が浸透している。そのいい例がベテランの新井貴浩。無死、または一死2塁という場面で、彼はきっちりと右方向に進塁打を打つ。頭の中では「俺が決めたい」と思っているかもしれないが、きっちりとチームバッティングをする。セカンドゴロを打つと、打率は下がる。それでも当然のように右に打つのだ。
こういうベテランがいると、中堅や若手も自然とチームバッティングを心がけるようになる。サインで縛らなくても、進んで右方向に打つ。こういうことができるチームは、あらゆる場面で勝利から逆算して早めに動けるようになるものだ。
160キロの剛速球を投げたり、難しいボールをヒットにするのは才能だ。努力で伸ばすことはできるが限界もある。だが一方で、勝利のために先回りして動くことは習慣だ。これはだれでも身につけられる。
いい選手は一代。移籍や引退でいなくなれば、チーム力は落ちる。だが、習慣は人が代わっても継続できる。いまのカープは、いい選手たちがいい習慣を身につけ、次世代に伝えようとしている。ぼくがしばらく強いと思うのは、そのためだ。