写真はイメージ=PIXTA シングルマザーのIさん(44)は中学1年生の娘と二人暮らし。これまでずっと気になっているのが娘の教育費です。そのために家計を切り詰めるところまで切り詰めてきました。しかし、Iさんは「教育費はまだ足りない」といい、「自分の収入で娘を、高校はもちろん大学まで進学させたい」と願っています。「まだ削れる支出があるはずなので、教えてほしい」。Iさんは意を決した様子で問いかけてきました。
■「正社員にならないか」 勤務先から打診
Iさんは離婚する前は専業主婦でした。シングルマザーになってから仕事を探し始めましたが、ときには任期付きの臨時職員として働けることがあったものの、ほとんどはパートでした。それでも毎月の手取り収入が24万円前後になるよう、複数の仕事を掛け持ちするなどして頑張ってきました。しかし、収入には波があり、貯蓄できるときとそうでないときの差が大きかったそうです。
現在は再び任期付きの臨時職員として働いており、家計もやりくりして毎月2万6000円の黒字を確保。貯蓄も少しずつ増やして140万円ほどになっています。あと1年もせずに任期終了となりますが、勤務先から「任期終了後は正社員として働かないか」と声をかけられているそうです。年齢的にも職探しが次第に難しくなっていると感じていたIさん。勤務先からの打診を受け、「安定した収入を得られるようになるのだから、その収入の中でもっと効率よく貯蓄する方法が知りたい」とも話します。
■「もっと切り詰めたい」
Iさんの現在の家計をみると、手取りは月23万円ほどで生活費は母子2人で20万円ほどです。月2万6000円の黒字なので貯蓄も毎月できています。家計管理に大きな問題はありませんし、「このままでもよいのではないか」とも思いました。しかし、「もっと切り詰めたい」というIさんの希望もあり、それぞれの費目の支出を徹底的に見直すことにしました。
まず目についたのが月に2万1000円かかっている通信費で、母子2人暮らしとしては高いほうです。ほかの相談者にもいえることですが、Iさんと娘も「格安スマートフォン(スマホ)に関心はあるけど、変更手続きが難しいのではないか」「月額料金は安いとしても、それ以外でお金がかかるのではないか」といった誤解をしていました。そこで格安スマホについて説明をして誤解を解き、大手キャリアのメールアドレスが使えなくなることを理解してもらったうえで、家電量販店で変更手続きをすることにしました。
ただ、Iさんはクレジットカードを持っていません。格安スマホを手掛ける多くの業者は利用料金がクレジットカード払いです。Iさんは「調子に乗って浪費してしまい、家計が乱れるのではないか」とクレジットカードでの後払いに抵抗があるようです。カードによっては年会費がかかることも引っかかっていました。そんなとき、預金口座から都度払いするデビットカードで料金が支払える格安スマホ業者を見つけました。Iさんはデビットカードをつくり、格安スマホへの変更手続きを終えました。それまで月2万1000円だった通信費は1万3000円減の月8000円にまで減りました。
また、有料の衛星放送についても「気が付けば見る機会が減っていた」といい、解約しました。これだけで月5000円近い節約になります。
■自身の小遣いを月1万円に削減
私は「節約はもう十分なのでは」と思いましたが、ここからがIさんの真骨頂でした。
Iさんは月1万5000円の小遣いを5000円減の1万円に減らしました。買い物の仕方を見直すなどして食費や日用品代もカット。日中の不在時にもつけっ放しだった便座の電気は消す、使った食器はつけ置きにして汚れの大部分を落とす、すすぎの際にも水を出しすぎないといった地道な取り組みで水道光熱費も削りました。「シングルマザーだからといって娘に不自由はさせない」といった意地のようなものを感じました。
ただ、節約も頑張りすぎると息苦しくなり、結果的に長続きしないことが多いのです。実際、Iさんは旅行や外食にはほとんどお金を使っていませんでした。このため節約は続ける一方、ためたお金の中から「お楽しみ用の予算」を積み立てていくことにしました。毎月きちんと積み立てれば、近場ではありますが年に1回は旅行に行けそうですし、月に1回は外食もできそうです。
苦労しながら自分を育ててくれている母をずっと見てきた娘はこれまで、そんな「ぜいたく」はぐっと我慢してきました。しかし、支出の見直しで旅行や外食に行けそうだと聞くと、「今から楽しみで仕方がない」と飛び上がって喜んだそうです。
■万一に備え、医療保険と生命保険に加入
一方、節約を意識するあまり、Iさんは生命保険に全く入っていませんでした。少しでも貯蓄に回したい気持ちはわかります。しかし、その貯蓄が十分とはいえない状況で保険に入っていないのは、娘を養っているIさんにとっては非常にリスクがあります。
Iさんは「私は丈夫だから」と保険への加入には後ろ向きでしたが、年齢から考えても、万一のことがあったときに困るのは自分はもちろん、娘です。Iさんが加入してきた年金はこれまで国民年金が中心で厚生年金の加入期間は短いため、Iさんが亡くなった場合に娘が受け取れるのは遺族基礎年金とほぼ同額と思われます。このため最低限必要と思われる医療保険と生命保険に加入しました。
Iさんの家計は保険に加入する一方、支出を減らしたことで、差し引き月2万4000円を削減できました。月2万6000円の余剰金と合わせると毎月5万円を貯蓄でき、1年間では60万円の蓄えができます。今の職場は年間で3カ月分の賞与が出るそうですから、年間100万円以上を貯蓄することも不可能ではありません。
■老後資金はiDeCoで備え
Iさんは少しゆとりができたことでほっとしていましたが、ひとつ忘れていることがあります。Iさん自身の老後資金です。職を転々としていたので、退職金はあまり見込めません。厚生年金に加入していた期間も短く、今後加入したとしても、もらえる年金は老齢基礎年金より少しだけ多い額になると予想されます。
Iさんは自分で老後資金をつくろうと、個人型確定拠出年金(iDeCo)で備えていくことにしました。娘の教育費もかかるので、毎月の掛け金は1万円としました。60歳までの16年間、仮に年利3%ほどで運用できれば60歳までに54万円ほどの運用益が見込めます。
「もう削れる支出はない」と思う家計でも、Iさんのように細部を見直すと削減できる支出は見つかるものです。まずは通信費など固定費を中心に減らしてみましょう。家計を改善して貯蓄の見通しが立ったら、次は自身の老後についても考えてください。老後資金が必要だと気付いたときには「時すでに遅し」のケースも多いのです。特にひとり親の場合は「自分はさておき……」という考え方に陥りがちです。子どもとともに、自分の将来も見通したうえでの資金づくりを目指してください。
(「もうかる家計のつくり方」は隔週水曜更新です)
横山光昭(株)マイエフピー代表、mirai talk株式会社取締役共同代表。顧客が「現在も未来も豊かな生活を送ることができる」ことを一番の目標に、独自の家計再生・貯金プログラムを用いた個別の指導で、これまで10000件以上の赤字家計を再生。著書は累計100万部を超える『年収200万円からの貯金生活宣言』シリーズ、累計65万部の『はじめての人のための3000円投資生活』シリーズがあり、著作合計88冊、累計270万部となる。講演も多数。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。