宇宙からの電磁波で高速明滅する陽子オーロラ
【2018年2月7日 国立極地研究所】
オーロラは、宇宙空間から地球へと運ばれてきた電荷を持った粒子が、高度100km付近の超高層大気と衝突したときに起こる発光現象だ。特にマイナスの電荷を持った電子の衝突によって発光する電子オーロラは、カーテン状や雲状などさまざまな形態があり、中には1秒以下で明滅するタイプもあることがわかってきている。
一方、プラスの電荷を持った陽子の衝突によって陽子オーロラも光ることが知られているが、陽子オーロラは電子オーロラに比べて暗いために観測が難しく、その時間変化等についてはよくわかっていなかった。
金沢大学の尾﨑光紀さんたちは、通常のCCDカメラよりも高速・超高感度を有するEM-CCDカメラとStockwell変換と呼ばれる信号解析法を併用し、暗い陽子オーロラを詳しく調べた。そして、オーロラ・電磁波観測ネットワーク「PWING」の国際拠点の一つであるカナダ・アサバスカ観測点でとらえられたオーロラの高速撮像(1秒間に110枚撮像)のデータと、同点で観測された宇宙空間からやってくる微弱な電磁波のデータから、宇宙からの電磁波の一種である「電磁イオンサイクロトロン波動」と同じ周期で陽子オーロラが明滅していることを世界で初めて明らかにした。
今回の結果は、地球周辺での宇宙空間において電子だけでなく陽子も激しく時間変化していることを示すものである。陽子オーロラの観測は、宇宙空間に存在する通常より高いエネルギーを持つ陽子の時空間変化を地上から知る手がかりとなり、地球周辺の宇宙環境を明らかにする上で重要な知見となる。また、電磁イオンサイクロトロン波動は宇宙の放射線(放射線帯電子)を変調させ、大気に散乱させる効果があることが知られており、こうした宇宙放射線の動態解明に陽子オーロラの観測が貢献すると期待される。
陽子オーロラは一地点の観測範囲を超える数千kmにもわたって発生する場合もあるため、PWINGと日本が中心となって地球周辺の放射線の様相を調べている科学衛星「あらせ」との共同観測が重要となる。地球周辺の宇宙環境のグローバルな時空間変動を理解することは、人工衛星の安全な運用にも役立つだろう。
〈参照〉
- 国立極地研究所:宇宙からの電磁波で高速明滅する陽子オーロラを発見! ~日本とカナダの国際共同観測~
- Geophysical Research Letters:Discovery of 1-Hz range modulation of isolated proton aurora at subauroral latitudes 論文
〈関連リンク〉
- PWING
- ジオスペース探査衛星「あらせ」
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:オーロラ
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