中田ヤスタカ氏が、自身の音楽のルーツとなったゲームを語る! ニューアルバム『Digital Native』は、“ゲーム”がキーワード(2/2)

2018年2月7日にニューアルバム『Digital Native』を発売した中田ヤスタカ氏。自身のルーツにあるというゲーム音楽や、ニューアルバムのことについて語っていただいた。
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ゲームに落とし込まれた世界観や音楽にグッとくる

――最近はどんなゲームを遊んでいますか。

中田ニッチなゲームが好きなので、ダウンロードのゲームのほうが好きだったりしますよ。最近はなかなか遊べる時間がないです。スマホゲームはどんどん課金してしまうので、いまはやらないようにしていますし……。でも、ゲームの情報は追いかけているんですよ(笑)。新作が出たらやる、というゲームもいくつかあります。

――ちなみに、シリーズで追っているタイトルは何ですか?

中田リッジレーサー』と『鉄拳』。あとは『ファイナルファンタジー』と、『龍が如く』です。僕、オープンワールドが好きなんですよ。自由に動ける選択肢があるのがいいですね。『リッジレーサー』でも逆走するのが好きだったりします(笑)。

――やっぱりちょっと目のつけどころが違いますね(笑)。

中田でも、僕の場合は、ゲームがしたくてゲームをしているかどうかもよくわからないんです。やっぱり、ガジェットが好きなんですよね。たまに、使い道がないのに買ったりもします。本当はなくてもいいのかもしれないけれど、あったほうがより興奮すると言いますか。僕にとって、ゲームはその要素の一部なんです。

――中田さんは、どんなゲームだと遊びたくなりますか?

中田映画が好きなので、そういう意味では『ポリスノーツ』とか。『ポリスノーツ』は、ゲームをしているという感じではなくて、映画を観ている感じで楽しんでいました。僕は、ゲームがテレビにつながっていて、そこで映し出される映像を観るのが好きなので。そのままではなくて、自分の好きなジャンルに落とし込まれているからこそ楽しめるという。この感覚は、アニメが好きな人に近い感覚かもしれませんね。

――なんと言うか、本当に幅広く遊んでいるんですね!

中田逆転裁判』も好きですから、僕はけっこうアドベンチャーゲームが好きなのかもしれません。まあ、いちばん好きなアドベンチャーゲームは、『定吉七番(さだきちセブン)』なんですけど(笑)。

――これまたPCエンジンのゲームですね!?

中田原作小説のあるスパイもので、あまりほかにないタイプのギャグアドベンチャーです。僕は子供ながらに大人なゲームが好きだったんですよ(笑)。『定吉七番』はBGMがジャジーだったり、ディスコ調だったりするんです。ゲームの音楽って、日曜の朝のヒーロー戦隊ものを想像させるような、テンションを上げる曲調がけっこう多いと思いますが、『定吉七番』は落ち着いていて、そこが好きなんですよね。

――ギャグものだけど、ハードボイルドな雰囲気。

中田ちょっと落ち着いたチップチューンにグッとくるんですよね。生のジャズを聴くよりも、同じ譜面をゲームのハードで鳴らしているバランスが好きと言いますか。

――さっきのお話と同じで、ゲームのフィルターを通していると魅力が増すんですね。

中田カトちゃんケンちゃん』も、けっこうジャジーなチップチューンじゃないですか。♪チャー チャーラ チャッチャーってやつ(笑)。ウォーキングベースが大人っぽい。

――(笑)。タイトル画面で流れる楽曲ですね!

中田ゴルフ系のゲームも大人っぽいのが多いですよね。……そういえば、『パイロットウイングス』のサントラもけっこう大人っぽくて好きなんです。

――『パイロットウイングス』も名曲ぞろいだと思います。しかし本当に、つぎからつぎへといろいろなタイトルが出てきますね!

中田大人っぽいのが好きだとは言いましたが、「ゲーム音楽で何が好き?」と聞かれて「『ロックマン』!」と答えるような感じも、それはそれで好きなんです。僕はテクノスの熱血っぽいやつも好きですし(笑)。

――『くにおくん』的な(笑)。いいですね。

中田とはいえ、ただ熱いだけよりも、もうちょっと音楽的に「ああ、すごいな」と思うものが好きなんです。『沙羅曼蛇』や『グラディウス』とかの、コナミの一連の横スクロールのシューティングはひたすら三連符で攻めてて一貫しているじゃないですか。ああいう打ち込みはインパクトがありますよね。

――……。あのー、ぜひ今度改めてファミ通でゲーム音楽のお話をお願いします(笑)。

中田(笑)。僕としてはやっぱり、大人っぽいゲームがもっと増えてくれるといいなあと……。いまは本当に少ないと思っています。

ゲームがきっかけになって広がる世界

中田世の中にはクラブミュージックしか聴かない人もいるし、アニソンしか聴かない人もいると思います。いろいろなミュージシャンがいるけれど、自分が好きなアイドルの活動に、どんなミュージシャンが参加してくるかで自分が聴く音楽を選択しているという。「最近おもしろい作曲家がいるぞ」と思うきっかけが、“アイドルの中に入ってきたから”ということがあると思うんですね。同じようにゲームにしか興味のない人もいて、ゲーム音楽に関わったミュージシャンの楽曲が好んで聴かれる状況もあるのだと思います。

――そうですね。

中田僕の場合はゲームが入り口になっていて、ゲームによって新しいジャンルの音楽を聴いたということがけっこうあるんですね。1990年代は、既製の楽曲を使えるようになった時代でもありました。要するに、ハードで音を鳴らさなくなったので、いまある楽曲を集めてゲームで使うということができるようになったんですね。それで僕は『ワイプアウト』がスゴイと思ったんです。

――『ワイプアウト』は当時サントラを買いました!

中田テクノの大御所を集めた、コンピレーションアルバムのような状態でしたよね? ゲームをプレイしているんだけど、知らず知らずのうちにテクノのアルバムを聴いているみたいな感覚になると言いますか。そういう体験は、僕が手に取っていなかったら、感じることができなかったわけです。……僕はテクノ小僧なので、もちろん知っていて手に取ったんですけど(笑)。

――(笑)。

中田ワイプアウト』をプレイしたことで、“デザイナーズ・リパブリック”というグラフィックデザインのスタジオがあることや、“オービタル”というテクノユニットがいることを知った人はたぶんたくさんいると思いますし、そういう導入はいまも続いていることだと思っています。

――その通りだと思います。

中田音楽単体を追いかける人って、じつはあまりいないんですよね。僕自身は、そういう人がもっと増えてほしいと思っているんですが。けっきょく音楽は、映画やアニメ、CMといった要素がきっかけとなって広まっていることがほとんどです。だから、きっかけってすごくいろいろあるなと思っていて……。「映画を観る」と言っても、作品として観るのか、原作が好きだからなのか。出演俳優に恋をしていたら、その人が出ている作品はすべて追いかけますよね? それはみんながきっかけを持ち寄っていると言いますか、総合的なものだと思います。そういうパワーのひとつとして、ゲームはもうちょっといろいろな人を巻き込んでやっているところが多いと僕は思うんです。だから、“ゲーム好きな人のためのゲーム”というよりは、外に広がるし、内側から外側にもつながるようなきっかけがもっとたくさんあると、ゲームはより楽しくなるんじゃないかなと思います。

『DJノブナガ』のサウンド作り

――『戦国パズルゲーム DJノブナガ』が初めてのゲーム音楽作りだと思いますが、どうお感じになりましたか?

中田ゲームは、まずはルールをどうするかというところから考えますよね? たとえば、映画は長くても3時間以内で収めるじゃないですか。映画は音楽の制作と似ていて、1曲は短くて2分、それが10分を超えたら、お客さんは終始聴いているのだからツラいだろうとか、なんとなくそういう限界を考えます。一方で、ゲームは自発的に楽しむものと言いますか、まず楽しむためのルールから考えていくので、とても自由がありますし、作るのが楽しそうですよね。何もないところからいきなり新しいものが作れますし、しかも、自由に動き回れるものが作れることは大きな魅力だと思います。僕としては、新しいゲーム体験を発明した瞬間に立ち会ってみたい、という気持ちがつねにあります。

――新譜には『DJノブナガ』の音楽の方向性に近い楽曲も入っているそうですね。

中田近いところはあると思います。『DJノブナガ』のオファー当初のリクエストとしては、ベタで直球なDJ曲をやりたいというお考えもあったようです。それこそ、わかりやすいEDM(エレクトロニック ダンス ミュージック)調の楽曲を、たっぷりと作ってほしいという……。でも、僕はぜんぜんそうしようとは思わなかったんです(笑)。僕には、「リクエストはあくまでリクエストで、せっかく新しいことをやるのなら、いまそこで流れていてほしい音楽を作りたい」という気持ちがありました。それに、リクエスト通り、職業的に器用に楽曲を作るミュージシャンはほかにたくさんいると思いますしね。それで、当初の予定より少しテンポを上げるよう、変更をお願いしました。ゲームをプレイしながら、知らず知らずのうちにそのテンポ感に馴染んでもらえるといいと思ったんです。

――全身に音楽が沁み渡るような一体感を出したいと思われたんですね。

中田とはいえ、ゲーム音楽はふだん僕がソロでやっている音楽とは作りかたがぜんぜん違います。もちろん、共通する要素はありますが、まずはスピーカーの想定がまるで違いますから。

――ハイレゾ音源を楽しむようなオーディオシステムで聴くか、スマホのスピーカーで聴くかの違いがあります。

中田僕の音楽は、可能な限りいい環境で聴くほど、いい音で再生されることを前提で作っています。もちろん、スマホやタブレットで再生しても「いいな」と思っていただければ幸いですが、上質なヘッドホンなどで聴いたときに、「うわ、こんなにいい音だったんだ!」と思ってもらえる要素を盛り込んでいますので……。『DJノブナガ』はヘッドホンで楽しむことを想定していませんが、そうなったときにガッカリしない音作りを心掛けました。それに、楽曲に効果音が重なることを前提に音の配分も考えていますので、楽曲単体で聴いて楽しむものとも違うものになったと思っています。

――ゲームに精通している中田さんだからこそ、プレイヤーの操作音のことまで考慮されているわけですね。

中田ゲームをプレイしているとき、BGMといっしょに鳴っていた効果音も聴きたい、ということはないですか?

――たしかに。ボタン音も込みでBGMを楽しみたいというときはありますね。

中田サントラを聴くのもいいですが、むしろプレイ動画のような、すべてをそのまま収録したもののほうがいいと思うときがあるんですよね。楽曲にはノイズ成分がないけれど、そこに効果音が加わって初めて満たされるというような瞬間もありますので。ゲームで聴くための音楽と考えた場合、効果音が鳴ったときがちょうどいいという状態は、ひとつの成立したバランスなのかなと思います。

つねに“いまの音楽”を模索し続ける

――今回のニューアルバムは、ゲーム音楽をどのくらい意識して作られているんでしょうか? とくに6曲目の『Digital Native』のイントロは、RPGのテーマ曲のような印象を受けました。

中田アルバムのタイトルを『Digital Native』にしているのもそうですが、このアルバム自体が半ば僕の趣味ですよ、というアピールでもあります(笑)。……ここまでゲームのお話をしてきたのにナンですが、じつはそれほどゲームの要素は重要視していないんです。それに、ゲームだからといってチップチューンをやりたいわけでもありませんし、ゲーム音楽を意識して聴いていただきたいわけでもないんですね。僕は、このアルバムを聴いてもチップチューンだと気づかない層を想定しています。つまり、いまここに収録している音について、どういう音なのかがわからない人たちが聴く時代を前提に作っているんですね。

――ゲームはあくまでキーワードでしかないということですか。

中田そうですね。2018年のいまは、いろいろな音がライブラリー化されていて、単純にひとつの音色として選べる時代です。だから、どっちがリッチで、どっちがチープな音なのかという感覚さえ失われつつあると思っています。そういう感覚のない人たちからすればこれはチップチューンではないし、一種のエッセンスにすぎないのかなと。もちろん、ゲーム音楽的なアプローチが好きな人は、この楽曲に反応するかもしれませんね。

――中田さんの音の捉えかたがわかるようなお話です。

中田たとえば、インストゥルメンタルの楽曲の一部にすごくソウルフルなサンプリングネタが入っていた場合、そこが強烈に印象に残って楽曲全体がソウルフルに思えるということがありますよね? その作用を利用して強引にジャンルを持ってくるという手法を取っていると言いますか。今回のアルバムは、そういう感じなんです。

――なるほど。

中田ほとんどの人にとっては、全体的なバランスの一部なんですが、聴く人によってはニヤッとしてもらえるかなと。逆に、僕があえてやっていることは、皆さんに気づいてもらえないことのほうが多いんですよ(笑)。

――なんだか余計に勘ぐってしまいそうです(笑)。ずばり、“ゲームっぽい楽曲”を狙いたいときに使う音色はありますか?

中田ああ、それは人それぞれなのではないでしょうか。世代によっても違いますし、全部そうだし、全部違うかもしれません。

――でも、いわゆるピコピコ音にしびれる人も多いのではないかと。

中田ね? そう思うじゃないですか。だけど、何がゲームっぽいのかは確実に移り変わっていますから。8bit時代の音に対して、ゲームを意識した要素だと感じることは、いまの時代においてふつうの感覚ではなくなってきていると実感しています。……だから、そこがミソなんです!(笑)

――(笑)。

中田僕自身は、ニンテンドウ64やプレイステーションの音源ぐらいがしっくり来ているタイミングですね。だから8bitはあえてエッセンスで入れているんです。これは、エレクトロブームだった時代に、“とくに1980年代をやりたいわけではないけど、1980年代の要素として使っておく”ということに近いです。僕がやりたいのは、“いまの音楽”です。『Digital Native』は8bitをリバイバルさせたり、チップチューンを流行らせたいと思って作ったものではないんですよ。本当に僕がいまおもしろいと思っている要素は、“もうちょっと後の感覚”です。

――今後は、“もうちょっと後の感覚”を取り入れたものが出てくるんですね。

中田つねにそうですよ。ちょうどいいと思うものって、永遠じゃないんです。

――なるほど。けっきょく、作るころには変わっているかもしれませんから……。

中田そうです、そうです。僕自身の中でも毎年どんどん変わっていきますので。お客さんにとっても、どの時期に何をやっていたかによって、音の聞こえかたがまったく変わってくると思っています。僕の音楽をずっと聴いてきてくださった人が、その流れでこのアルバムを聴くのと、いま中学生の人が、ただの新譜として聴くのとはだいぶ違うと思いますので。本当にいろいろだと思います。

――今回のアルバムにはファーストアルバムと銘打たれていますね。

中田過去にサントラなどは出していますから、厳密に言うとファーストではないんですよ。これまで、自分のアルバムの曲として発売する予定はないけれど、依頼をいただいて作ってきた曲はあって。だからつぎは、“自分のアルバムを出すことを前提に自分の楽曲を作る”ということをやってみようと思ったんです。今回のアルバムには、そう決めてから制作を始めた楽曲が収録されています。

――たしかに、ここ2年ほどに発表されていた楽曲が入っていますね。

中田その中にはNHKの『ニュースチェック11』のために書き下ろしたテーマ曲もありますが、その曲も今回のソロアルバムとは関係ないタイミングでいただいたオファーでしたら、“ニュース番組として成立する自分の音楽”になっていたと思います。僕の性分で、「リリースとは関係ない」と位置づけたくなってしまいますので……。「何が何でも(アルバムを)出すぞ」と決めてから、完成した音楽でアルバムを作ろう、と。

――ふつうのアルバム作りよりも時間がかかったのではないでしょうか?

中田そういう意味ではそうですね。1曲の楽曲にかけた時間は別として、それぞれの楽曲の制作期間が飛び飛びですから。

――では最後に……。ファミ通.comの読者の皆さんに、このアルバムをどんなふうに聴いてもらいたいですか?

中田うーん、そうですね……。いまのゲームって、ゲーム中の楽曲も好きに変えられるものがあるじゃないですか。だから、そんな感じでかけてみてください、かな?(笑) ゲームは本当にどんどん変化してきていて、「この楽曲じゃないといけない」という強制もなくなってきているでしょうから。もし変えられるなら、好きな楽曲で楽しんでください。

 ニューアルバムのリリースがきっかけとなった今回のインタビューでは、中田氏が新しい物事を取り入れる際の入り口として、ゲームを至極身近に置いていることや、世代を超越し、先を見据えた音楽作りに邁進する姿勢がとても印象に残った。また、時間が許されるなら、あふれ出る中田氏のゲームの知識や体験談について、もっと突っ込んで訊いてみたいとも思った。中田氏自身がゲーム音楽やゲーム作りに携わりたいという希望と熱意は、今後も変わらず持ち続けているということなので、遠からずその日が来ることを楽しみにしたい。

CD情報

中田ヤスタカ『Digital Native
2018年2月7日発売

初回限定盤(2CD) 3300円[税抜]
通常盤(CD) 2800円[税抜]

disc1:SOLO
01 White Cube
02 Crazy Crazy (feat. Charli XCX & Kyary Pamyu Pamyu)
03 Love Don’t Lie (Ultra Music Festival Anthem)(feat. ROSII)
04 NANIMONO (feat. 米津玄師)
05 Source of Light
06 Digital Native
07 Jump in Tonight (feat. 眞白桃々)
08 Level Up (feat. banvox)
09 Wire Frame Baby(feat. MAMIKO[chelmico])
10 Give You More

disc2:REMIX(初回限定盤のみ)
01 Zedd & Alessia Cara「Stay - Yasutaka Nakata Remix」
02 Steve Aoki & Moxie「I Love It When You Cry (Moxoki) - Yasutaka Nakata Remix」
03 Madeon「Pay No Mind feat. Passion Pit - Yasutaka Nakata Remix」
04 Kylie Minogue「Into The Blue - Yasutaka Nakata Remix」
05 Kylie Minogue「Get Outta My Way - Yasutaka Nakata Remix」
06 Passion Pit「The Reeling - Yasutaka Nakata Remix」 
07 Sweetbox「EVERYTHING'S GONNA BE ALRIGHT - Yasutaka Nakata Remix」

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