Column | 韓国の音源ストリーミング収益額について by 中央日報
Facebookで複数の韓国人アーティストたちが、とあるニュース記事のリンクを貼っていました。音源ストリーミングにおける収益額の問題提起についてです。今やどの国でも同じことが言えますが、音楽で食べていくことは非常に難しい時代になりました。楽曲制作者だけでなく、演奏家、レコード会社、CD販売店、すべてにおいて言える話です。原因として一番大きく挙げられるのが、インターネットの発達によって蔓延してしまった違法アップロードとダウンロード。それから正規の購入方法といえど、異常に印税が安く設定された音源配信システム。その誘因となっているのが、世界的に主流となったストリーミング配信。
先進国が不況に陥ったのも要因だと考えられます。私自身、ライブを主催してみても感じることですが、まず若い方々にとっての3千円というのがとてつもなく高額になりましたよね。「音楽を聴くことに対する消費者の意識を改革する必要がある」という議論も理解できるのですが、それ以前に、よっぽどの音楽好き・アイドル好き、またはお金に余裕のある人しかCDを買ったりライブに行ったりできなくなってきたように感じます。
結果として、楽曲の作り手にはほとんど収入が入らないという事態になってしまいました。特に韓国ではその傾向が顕著に出ていて、ただでさえ違法ダウンロードが横行している中、たとえ正規にストリーミングサービスを利用してもらったところで、大した収入の足しにはならないという状況です。
記事内に掲載されていた円グラフを下図のとおり日本語に訳しました。2014年9月現在のレートとして10ウォン=1円と見ると、ダウンロード購入の場合の作曲者の収入は、1ダウンロードにつき3円です。ストリーミングサービスの場合は15円と記されていますが、これは100人あたりの金額ですので、1人あたりでは0.15円ということになります。つまり、ストリーミングサービスに楽曲を登録すると、1か月に0.15円しか作曲者に入らないということになります。
右側のストリーミングのグラフの見た目が元画像と少し違いますが、元画像のほうは作詞・作曲者、実演者それぞれ1人あたりの金額をグラフ化しています。それだと合計値である3,000ウォンと整合性が取れなくなるので、私は実数値に基づいてグラフ化しました。なので私が作ったグラフでは、水色、緑、えんじ、赤の4つのデータは100人分の大きさになります。1人あたりの収入は、この100分の1の大きさだと思って見てください。
本文中に「少女時代の場合は1人あたり0.01円」という記載がありますが、単位が小さすぎて逆に分かりづらいくらいですね。0.01円×100=1円なので、100回再生されてやっと1円の収入になるということです。1000回で10円、1万回で100円。1万回が再生されるって、ものすごい成果ですよね。なのに作曲家の印税はたったの100円なんです。
なお、本件に関連する記事を当サイトと私の個人ブログに書いたことがあるので、ご参考までにどうぞ。
Column | 音源販売価格と著作権料
Interview | Huckleberry P – gOld by HIPHOPPLAYA
特にHuckleberry Pのインタビューでは、アーティスト側の視点を知ることができますので、ぜひともご一読いただきたいです。シン・デチョル氏の話題など、本記事とかぶる部分もあります。インタビュー全体は恐ろしく長いですが、この件については前半の一部のみで触れられていますのでご安心を。
それでは、以下にニュース記事の翻訳を記します。
ストリーミングサービス1曲の利用で「少女時代」1人あたりの収入は0.1ウォン (約0.01円)
「2014年の最低時給が5,210ウォン(約521円)。歌手が音源を売ってそれと同じ金額を稼ぐためには、965人がダウンロードしてくれるか、43,416人がストリーミングをしなければならない。こんな程度であるなら、音楽をする理由はあるのか?」
今年4月、ロックグループSinawi(シナウィ)のリーダーであり、韓国を代表するギタリスト、シン・デチョルさん(47)がFacebookに投稿したこの文章が、SNSに乗って広がっていった。シンさんは「あなたの子供が音楽をやると言ったら、止めなければならない」として、創作者に正当な利益が配分されていない音楽業界の実態を批判した。
デジタル音源サービスが、全国民の必須アプリケーションに位置して久しい。バスや地下鉄などの公共交通機関はもちろん、オフィスでもスマートフォンでデジタル音楽を楽しむ。しかし、ミュージシャンにとっての利益が「銭」単位に過ぎないという事実を知っている人は多くない。
その翌日、あるインターネット掲示板に上げられた文章はさらに衝撃的だった。 2002年から2枚のアルバムをリリースしたインディーズバンドのミュージシャンだという匿名の書き込み主は、自身の音源収益の内訳を公開した。
彼は「僕の曲が2曲ダウンロードされましたが、僕には35ウォン(約3.5円)をくれますね。ストリーミング(デジタル再生)の97位で、僕の精算金額は662ウォン(約67円)です」と明らかにした。続いて「創作物をこんなとんでもない流通構造で消費者に普及させたら、一体どのくらいの創作者がこの国で残っていけるのだろうか」とし、「どこから間違ってしまったのか分からないけど、純粋に音楽が好きで一生懸命努力しているミュージシャンに、ふさわしい利益が創出されることができる構造になってほしい」と訴えた。
最初のボタンを掛け違えたデジタル音楽市場
1990年代の初頭と中盤、韓国の音楽市場は最初で最後の全盛期を迎えた。ソテジ、キム・ゴンモ、シン・スンフンといったアーティストたちは、いわゆる「キルボード(※)」と呼ばれる不法に複製されたカセットテープの販売を除いても、100万枚を超えるアルバムを売った。
※キルボード:韓国語の「キル(道)」とアメリカのCDチャート「ビルボード」から造られた造語。90年代当時、韓国の道端で頻繁に売られていた流行曲をコピーしたカセットテープのこと。韓国の音楽だけでなく、日本や欧米のコピーも売られていた
しかし、光が明るいほど闇も深かった。速い速度で消費されるダンスミュージックが流行し、インターネットとデジタル時代を迎え、市場が急激に再編され始めたのだ。音楽媒体は従来のカセットテープやレコード、CDの代わりに、コンピュータとmp3プレーヤーへと一朝にして移行された。
このような傾向は、韓国だけの問題ではなかった。 P2P(peer to peer)方式のデジタル共有技術を利用した違法ダウンロードサイトの「Napster(ナップスター)」が出現し、韓国ではこれを真似して「Soribada(ソリバダ)」が誕生した。もうアルバムを買わなくても音楽を聴くことができる時代が訪れたのだ。
大手レコード会社、芸能プロダクション、CD販売店が持っていた音楽流通の主導権は、デジタル流通基盤を備えたインターネット企業に持って行かれた。 「サイワールド」などのインターネットミニホームページのBGMや、携帯電話の着信音・着メロを競った時代を経て、デジタル音楽プラットフォームはスマートフォンに定着した。
現在、消費者の多くは著作権料を支払わない違法ダウンロードの音楽をスマートフォンに入れて聴いたり(全利用者の半数程度と推定)、ストリーミングサービスを利用する。ストリーミングサービスとは、デジタル音源を直接購入せず、音源サービス会社のサーバーから携帯電話回線や無線LANを通して聴く方法である。韓国の有料音楽市場では、ストリーミングサービスが占める割合は90%を超える。
携帯電話がデジタル音楽の主なプラットフォームとして位置づけられたことにより、通信会社が音楽市場の主導を握った。移動通信と携帯電話産業を国家経済開発モデルにした政府の政策も貢献した。
現在デジタル音楽市場で65%の市場シェアを持っている「Melon」は、SKテレコムのコンテンツ事業から出発した。Melonは他の国に比べて早く根付いた韓国の有線および無線の高速インターネットアクセス網に注目した。
違法ダウンロードがほとんどを占めていた状況で、有料の市場を創出するために手頃な価格で音楽を聴くことができるストリーミングサービスを開発した。いわゆる月額音源レンタルというビジネスモデルが生まれた。無料で音楽を聴くことに慣れ切っていた消費者に訴えかけるには、安価な商品を出すしかなかった。
昨年5月、文化体育観光部は値下げ競争を避けるため、月6,000ウォン(約600円)(実際は各種キャンペーンで半額になる)で無制限にストリーミング音楽を聴くことができる「無制限定額制」を廃止した。それでも創作者(作詞・作曲家、歌手、演奏家)の利益は非現実的なほどに少ない。
2000年代初めにNapsterで大きな困難を経験した米国やヨーロッパでは、他の方法で問題を解決した。 2000年、世界的なロックグループであるメタリカは、Napsterを著作権法違反の疑いで米連邦地裁に提訴した。デビュー以来、数千万枚のレコードを売った「億万長者」のロックグループが、一介のベンチャー企業を相手に訴訟を起こしたことに非難が集中した。しかしこの訴訟は、結果的にデジタル時代の創作物の価値を認めるきっかけとなった。
アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは、iPodでデジタル音楽プレイヤー市場を席巻しながら、デジタル音楽を有料で購入することができるiTunesを定着させた。 iTunesは創作者と流通の収益配分比率を7対3とし、後に登場した競合サービスもこの比率に従った。有線および無線の高速インターネットアクセス網の構築が韓国に比べて遅く、ストリーミングサービスが遅れて登場したのも助けになった。最近はなどのストリーミングサービスが登場しているが、米国ではCD市場とデジタルダウンロード市場が比較的堅調に維持されている。
「生産者」が価格決定に参加できない
創作者の権利問題を水面上に引き上げたシン・デチョルさんは、今年4月から「正しい音源流通協同組合」の設立を推進している。シンさんが投げた問いかけは、「なぜ音楽市場でのみ生産者が価格決定に参加することができないのか?」というものである。
Melonなどの大型音源サイトが代理店手数料の名目で音源収益から持っていく利益比率は、一時期は60%にも達していた。今は40%にまで落ちたが、創作者たちはそれでもまだ高いと主張している。
シンさんは、スペインのプロサッカーチームFCバルセロナ、通信事業者AP通信のような協同組合方式の代替的音源サイトを開発中である。大手音源サイトに比べて少ない流通手数料のみを取得して、残りは創作者に返すというものである。
シンさんは「世界のどの代理店が40%のマージンを引いて商品を売っているか」とし、「より高く売って少ない利益を残しても、消費者に有利であることさえ示せれば、現在の大手音源サイトがどれだけ過剰な利益を得ているかが証明できる」と述べている。
現行の著作権使用料徴収の規定によると、デジタル音源の収益は、発行元が44%、流通社(音源サイト)が40%を持って行くことになっている。作詞・作曲者が各5%、歌手や演奏者などの実演者は各3%を持っていく。
つまり、消費者が600ウォン(約60円)を出して音楽をダウンロードしたら、制作会社と流通会社が504ウォン(約50円)を差し引いて作詞・作曲者は各30ウォン(約3円)、歌手と演奏者は各18ウォン(約1.8円)ずつ受け取ることになる。
市場の大部分を占めるストリーミングサービスにおける創作者の利益は、より悲惨な状態だ。消費者が月3,000ウォン(約300円)を出して100曲を聴いた場合、1曲ごとの作詞・作曲者1人に入る収益はそれぞれ1.5ウォン(約0.15円)、歌手1人が受け取ることのできる収入は0.9ウォン(約0.09円)に過ぎない。バンドやアイドルグループにおいては1グループで1人と数えられるため、9人で構成される少女時代の場合、メンバー1人がストリーミングサービスを介して1ヶ月に受けることができる収入は0.1ウォン(約0.01円)である。
ここにはデジタル音源市場の落とし穴が表れている。月額ストリーミングサービスを提供する流通会社は、創作者個人と1対1で収益を確保しているように見えるが、消費者が月に100曲を聴けば、100人の創作者と1対100に分割するのだ。つまり、月3,000ウォン(約300円)のストリーミングで100曲を聴いた場合、作曲家・歌手など創作者には合計16%の利益が行き渡るように見えるが、実際は100曲で割った0.16%ずつしか支給されないのである。
大衆芸術の権益保護運動をしている芸術家ソーシャルユニオン、キム・サンチョル政策委員は「これまで音源流通は流通社と個人の私人契約でのみ行われてきたが、実際には創作者集団全体と巨大流通者との関係であるべきだ」とし、「個別の著作権契約方式よりも、音楽業界全体のバランスを合わせることができる政策的なアプローチが必要だ」と指摘した。
産業以外の文化の次元で政策を設ける
巨額を投じて音楽を作ってもアルバムは売れず、デジタル音源では収益を出すことができないため、大衆音楽は「念を凝らした」音楽を制作する意欲を出せない。
今年の上半期と下半期を一部、二部に分け、11作目のアルバムをリリースする予定だった歌手イ·スンファンは、下半期のアルバム発売計画を断念した。彼は最近ラジオに出演して「11作目のアルバムの前編は6億5千万ウォン(約6,500万円)をかけて作ったが、4億5千万ウォン(約4,500万円)の損害が出た。果たして我々が勝つことはできるのだろうか」と諦めている様子を見せた。アルバムを出すことが悪手となる異常なゲームのようになってしまった」と話した。
もはやこのままでは創作者が大衆音楽界で創作を続けることができないため、収益を出している流通社でさえも「売り物がない」市場という状態が訪れるとも言える。歪曲された市場構造を改善するためには、政府レベルの政策的アプローチが必要であるとの指摘もある。
イ・ウォンジェ文化連帯文化政策センター所長は、「市場経済で利益を得るには、持続可能な市場がなければならない」とし、「消費者は良い音楽に対して公平な対価を支払うという態度を持たなければならない。政府は韓流のように民間の領域で成功した分野のみ見るのではなく、公平な市場と構造を作ることができる長期的な政策を研究すべきだ」と述べた。
収益配分に関連して、流通社と主務省庁である文化体育観光部は、互いに「我々には権限がない」と責任転嫁するのに必死だ。文化部著作権産業の関係者は「使用料徴収の規定は、利害関係者が合意したことを文化部が承認するだけ」とし、「政府の立場では、創作者と消費者、流通者の立場を考慮せざるを得ない」と述べた。業界1位の流通社であるLOEN Entertainment(Melon)の関係者も「価格の決定権は事業者にあるのではなく、文化部にある」とし、「40%の手数料が高いと言うが、マーケティング費用や支払い手数料などを勘案すると、我々が多くの利益を得ていることはない」と主張した。
国会で音源流通構造改善の議論を提起した新しい政治民主連合チェ・ミンヒ議員は「創作物に対して正当な対価を支払うことができる消費者運動とともに、政府も物価管理や次世代の成長動力の開発など、経済面だけで見ず、文化的なの観点から積極的に介入する必要がある」と述べた。チェ議員は「最初からこじれてしまった市場を一晩で修正することができないのであれば、すぐにクラウドファンディングや創作バウチャー制度などを導入して、創作者たちに短期的な財政支援を行う案も検討すれば良い」と強調した。
根本的な問題は、創作物につけられた価格があまりにも安価なことだという指摘も出ている。ストリーミング中心の市場が固定化され、低価格政策に消費者が飼い慣らされ、その低価格な音源収益のうち10~20%を分け合う多数の創作者が生計を維持できるのかということである。
西京音楽自治会のイ・ジュンサン会長は「独占している流通社が捨て値で競争を主導している状況では、小さな流通社は独占企業のビジネスモデルに従うしかない」とし、「『正しい音源流通協同組合』のような代替流通が定着して競争することができれば、市場の歪みはすぐに是正できる」と述べた。
文章:イ・ドンヒョン
出所:中央日報(2014-09-07)
日本語訳:SAKIKO