学研の科学系ムック「大人の科学マガジン」2017年12月発売号の付録が話題になっていた。それが「小さな活版印刷機」だと発表されるやいなや、SNSなどで大ブレイクし、実際に発売された時点で初回出荷分はほぼ完売。ネット上の通販サイトでは次回発送は2018年2月と告知が出たほどだった。書店に行けば買える場合もあったが、出版元には在庫がすでにないらしいから、ヒットといっても過言ではないだろう。
「印刷モノは、いつかやってみたいと思っていた」と、大人の科学マガジンの編集長を務める、学研プラス・次世代教育創造事業部STEAM事業部の吉野敏弘統括編集長。「企画を考えているときに、ほしおさなえさんの小説『活版印刷三日月堂』を読んで、自分で活字を拾って印刷するという体験をすごくやりたいと考えたのが、今回の企画の始まり」と吉野編集長は話す。
活版印刷とは、文字の部分を凸型に高くした活字に、インキを塗り、紙を押し付けて印刷すること(大人の科学マガジンより)。実は今、毎年東京や大阪で開催される活版印刷のイベントに多くの若い女性が集まるなど、ちょっとしたブームなのだという。
「今はやっている活版印刷は雑貨感覚というか、圧倒的に『かわいい』もの」と吉野編集長は言う。そこで印刷機を女性向きに作ろうと考え、活版印刷機の原型である、名刺やカードの印刷に用いられた手動式の平圧印刷機「手フート印刷機」(通称「テキン」)の武骨なデザインを小さくすることでかわいさが出せるのではと考えた。1つのハンドルの動きでインクを練る作業から印刷するまで、印刷のすべての構造と機構がきちんと組み込まれているテキンを小型化しているのが製品のポイントだったという。
ただ、この「小型化する」のが難しかったそうだ。「素材もサイズも違うから、機構が同じでも同じように動くわけではない。それで試行錯誤が続いて、通常1カ月ほどで試作品が出来上がるのだが、試作品完成まで3カ月かかった。一部分のホリを深くするとか、厚みを出すとか、そういう小さな部分の改良を重ねて仕上げた」と吉野編集長。
そして、実際に発売された「小さな活版印刷機」は、その期待に十分応える仕上がりだった。もちろん、小型化したものであり、3780円で買えてしまうものだから、本格的な印刷機として使うには無理がある。しかし、活版印刷というものがどういうものか、オフセット印刷やパソコンのプリンターとどう違うのか、どこに魅力があるのか、どこにデメリットがあるのか、といったことが十分理解できて、使い方次第で実用にも耐えうる印刷機に仕上がっていた。
「初版の2万部はすぐに売り切れた。店頭分がなくなってしまうので、予約の受け付けをストップし、書店では1人2点までなどと制限をしたほどだった。大人の科学を毎号買ってくれている人たちまで届かなかったというのが実状」と吉野編集長は言う。大人の科学マガジンの歴代売り上げ最高はプラネタリウムの53万部。次は20万部超えたテルミン、17万部くらいの二眼レフカメラだという。小さな活版印刷機も10万部は超える見通しだそうだ。
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