どの席に座るべきか?映画館における座席選択問題について

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「映画自体は面白かったけど、席がちょっと残念だったなあ」といった経験をお持ちの方は少なくないのではないだろうか。その不満の出処は単純に席とスクリーンの位置関係だけの話ではない。前後左右に座っている他の客によっても大きく左右される。

「そんなこと言ったって、隣の奴は選べないでしょうよ」と言われればその通りだが、もし、前に座っていたオバハン二人組が突如として持ち込んだ助六寿司を食べ始め、ペットボトルに入れられた緑茶らしきものを同時に、まったく同じ角度で振りはじめたらどうだろうか。また、上映中ずっと小声で「なるほど……なるほど……っ!」と呟く中肉中背の中年が隣に居たらどうだろうか。さらに、静かなシーンでバカでかい音をさせながら飴の包装紙を破き、ちょっと後ろめたかったのだろうか「飴、食べます?」と見ず知らずの女性に言われたらどうだろうか、そんな席、座りたいですか?

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上記はすべて筆者が体験した実話であり、掲載可能だろうと見越したケースを挙げたが、ここでマナー云々の話をするつもりは毛頭無い。個人的にはこの手の面白い人々は後々ネタになるので逆にありがたい。むしろ映画館で映画を観る体験にはこうしたイレギュラーな楽しみもある。と勢い書いてはみたものの、やっぱりちょっと迷惑だからやめてほしい。

映画館における席選択問題については二つの重要事項があり、それは場所と周りの観客である。さらに「いつ観るか」も外せない項目で、以下、三つの要素を中心に考えつつ、座席選択のあれこれについて論じていきたい。

※ちなみに、本コラムでは「映画館に行ってからギリギリでチケットを取る」場合ではなく、「ネット上でチケットを予約する」ケースを想定している。また、3Dや4DXではなく、2D上映での話とする。

個人的なおすすめは、右斜め後方

最前列、ど真ん中、最後方、映画館でのベストポジションについては、映画好きならば一家言持っているだろうが、ご多分に漏れず筆者も「どの席に座るか」に関して明確な回答を持っている。それは「右斜め後方」であり、最も大きな理由としては、鑑賞中に右手でメモを取るからであるが、メモを取らない方は左斜め後方でも良いだろう。左右どちらかの空間が空いているのは相当なアドバンテージであり、場所さえ間違えなければ音も映像も何ら問題ない。没入感を考えるならば正面には若干劣るが、これとて映画を客観的に観ることができるのでプラスの要素にも成り得る。何よりも満員状態でど真ん中に座ったときの「腹痛くなったらどうしよ」というプレッシャーを回避できるのは大きなメリットである。

ちなみに「映画館にとってポップコーンとは何か、極筆者的ポップコーン論を添えて」でも書いたが、筆者の主戦場はシネコンだと109シネマズ二子玉川、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、新宿バルト9あたりで、小箱だと新宿武蔵野館、シネマカリテ、イメージフォーラム、ユーロスペースなどによく行くが、同じ右斜め後方でも、映画館やスクリーンの大きさによって微妙に違う。

せっかくなので各劇場の席について少し触れると、109シネマズ二子玉川は上記映画館のなかでも座り心地が良く、前後左右の間隔も少々贅沢に取られており、座席のクオリティが高い。TOHOシネマズ六本木ヒルズや新宿バルト9は可もなく不可もなくといったところで、新宿武蔵野館は後述するが個人的なベストポジションがある。シネマカリテもこれと言った特徴はないが、なぜか冒頭で羅列したような狂人を見かける打率が高い。ユーロスペースは座席が独特で唯一無二の雰囲気を醸し出しており、好き嫌いは分かれるかもしれない。

イメージフォーラムはネット予約ができず整理券順なので今回は触れないが、映画を見慣れている人が多いのか、皆座席選択が巧い印象がある。後ろの人のことも考えて被らず完璧に座っていく様は感動的ですらある。

座席選択についてもう少し具体的な例をあげて説明すると、まず左・中央・右と座席の固まりが別れており、ちょうど中黒(・のことです)の位置に通路がある場合は、中央部の右斜め後ろが望ましい。たとえば109シネマズ二子玉川の9番スクリーンならばJ-19が、前がエグゼクティブシートであり席の間隔が広いため余計な物が視界に入ってこないので良い。

かたや、通路が何本もない小さなスクリーンでは一番端に座ることになる。新宿武蔵野館はこのタイプであるが、1番スクリーンの場合、中央やや後ろ、具体的にはG列とH列の間にスペースが空いている箇所があるので、H列の右端、H-1がベストである。この席は最高で、足をいくら伸ばしても余裕がある。ただ、劇場によっては端過ぎて見辛いことがあるので注意が必要だ。

ところで、ネットでチケットを予約する際に出てくる座席表は、実際の現場と照らし合わせてみるとかなり雑であると言わざるを得ず、中央を予約したはずなのに、いざ着席してみると微妙にズレていたり、そこまで遠くはないだろうと最後方の席を取ったら字幕が見え辛かったり、果ては正体不明の空間が描かれていたり、むしろ空間そのものが歪曲されていたりすることが多いので、あまり信用しないほうが吉である。

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「どんな奴が予約してるんだ」と予想するのは結構楽しい

「ネット予約なんだから周りの人なんてわかるわけないだろ」というのはもっともなご意見だが、予約画面を眺めるだけでも色々な情報がわかる。さらに競馬の展開予想のごとく、リザーブされた席の状況から客層を考えるのも面白い。例えば、二席並びで埋まっていたら友人同士やカップルである可能性が高いし、その並びは朝方ならばシニア割引の、夕方過ぎの回ならば学生の、夜ならば社会人の可能性が高まる。

二席並びならまだしも、四席並びや前後ろで二席ずつ予約されている場合は危険度が増す。ダブルデート、もしくは学生四人といったケースが多いからである。念のために書くが、どんな年齢・職業とて騒ぐ奴は騒ぐし、静かな人は静かである。あくまで体感値だけれども、18時くらいからの回を観ると外れが少ない気がする。

また、前方中央の席を巡るチキンレースは趣深く、三列目くらいのど真ん中をいち早く予約し「俺の周りや前には絶対座んなよ」と予約画面の向こう側から無言のプレッシャーをかける人がいたり、その前列の席に堂々と予約を入れる人もいたりする。すると今度は更にその前、最前列に二席並びでカップルらしき予約が飛び込んできたりするから気が抜けない。体験したことがある方なら「自分が一番前だと思っていたのに、開始直前に前の席に人が座った」ときの、あの何とも言えない哀しみをわかっていただけるはずだ。

これら情報を吟味し、展開予想をし、当日映画館に入って「あのカップルは予約してたな」とか、「予約時には一番前だった人、前に座られちゃったなあ」などと答え合わせをするのは当たっても外れても結構楽しい。

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最終手段としては、金と時間で解決する方法もある

ここまでデイタイム、通常料金の席に関しての話をしてきたが、本案件の明確な解決方法としては、やはり金と時間を使うのが一番である。金と時間の解決能力はヤバい。世の中にある大体の問題や悩みはそれで解決してしまうのだから、映画とて例外ではない。

隣の人との距離が近いのは嫌だ、近くにどんな人が座ってくるかわからないから映画館は苦手、むしろ同じ空間に一定数の人間がいることすら無理、という方には少々高い銭を払って上級なシートを予約するか、レイトショー、厳密にはレイト以後の深夜回に足を運ぶのが良いだろう。

席に関して例を挙げるならば、109シネマズ二子玉川が誇るエグゼクティブシートはリクライニング機能付きで専用テーブルが設置されており、臨席との間隔が相当広く、ど真ん中で観ても窮屈さは全く無い。というか、ど真ん中で鑑賞するのがベストだろう。値段は2D上映なら2,500円で、一般と700円の違いしかない。ちなみに、6,000円を支払うことにより更に上のグランド・エグゼクティブシートを購入できるが、こちらは座ったことが無いので評価することができない。

TOHOシネマズ六本木ヒルズも数種類の価格帯で座席を用意しているが、プレミアボックスシートは席が「ラグジュアリーっしょ?」と幻聴がするほどの艶を放つ板により、一席ずつ区切られているので完全なるプライベート空間を確保できる。荷物置きスペースもかなりの容量があるので、冬場など荷物が多いときはとてもありがたい。さながら操縦席や秘密基地のような雰囲気なので、その手のスペースがお好きな方はぜひ。通常の料金にプラス1,000円で鑑賞できる。各種割引と併用すれば数百円程度の出費なので、機会があれば使わない手は無いだろう。

レイトショーは時間が合えばおすすめで、バカでかいスクリーンに一人だけの可能性も無くは無い。というか、ある。その場合移動もし放題であり、別の意味で「どの席に座るか」問題が立ち上がるが、映画館を独占した幸運を噛み締めながら大いに悩みたいところではある。問題があると言えば、まだ暗く電車が走っていない時間に外に放り出されるが、これも飲み屋に行く、タクシーを拾って帰るなど、全て金で解決可能である。

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と、ここまで書いて、結局の結論は「好きなところに座ればいいじゃない」である

色々と持論を垂れ流してきたが、行き着くところは「好きなところに座ればいい」であり、それによって隣の奴から迷惑を被るのも自己責任であるし、字幕が見辛かったら次回は違う場所で観れば良い。映画はそんな経験も面白いし、失敗したならそのネタを酒の肴にでもしてあげればもっと面白い。映画の話になったとき、観てもいない作品を薦められたり、けなされたりするよりも、聞いている方としては余程面白いと思うのだが、どうだろうか。

ともあれ隣客が煩い、座った位置が気に入らないなど、「過去に嫌な思いをしたことがあるので映画館には行きたくない」方が多いのも事実で、実際に良く言われたりする。だが、ベストな席を確保できたときには素晴らしい映画体験ができるものまた事実である。だから、最近足が遠のいている方が本コラムを読んで、ちょっとでも映画を観に行ってみようと思ってくれたならとても嬉しい。そしてもし、劇場に足を運んだとき、上述した映画館の右斜め後ろの席でメモを取りながら映画を観ている痩身の男が居たら、それはおそらく筆者だ。もし見かけたら気軽に話しかけてください。メロンソーダくらい奢るから。

(文:加藤広大)

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    加藤 広大

    加藤 広大

    フリーでグラフィックデザイナーを営む傍ら、音楽や映画のコラムを書いたりもしています。金は稼いでいませんが、文字数を稼ぐのは得意です。

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