シャープ元副社長の佐々木正氏が1月31日、肺炎のため永眠されました。102歳でした。LSI(大規模集積回路)や液晶、そして太陽電池など世界の半導体産業の基礎を作り上げ、戦後日本の発展をけん引した技術者でした。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏や米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が若かりし頃、佐々木氏を頼ったエピソードはあまりにも有名です。
日経ビジネスは2014年11月と16年11月の2回、佐々木氏にインタビューをしています(14年11月のインタビュー記事は「【佐々木正】『東京裁判を免れた。生き延びた恩に報いたい』」をご覧ください)。本編では、16年11月のインタビューを基に、『日経ビジネス』2017年1月9日号特集「2017年紅白予測合戦、あの著名人が占う不透明な未来」に掲載した、100年後の日本について予測いただいた内容を再掲載します。また、2014年11月のインタビュー時にいただいた、日本の未来に向けた直筆の「遺稿」を、合わせて掲載します。
スティーブ・ジョブズ氏も孫正義氏も、この人なくして成功はなかった。世界で初めてIC(集積回路)電卓を開発した、元シャープ副社長の佐々木氏。佐々木氏が仕掛けた電卓戦争でLSI(大規模集積回路)の小型化が加速。液晶などの技術開発も推進し、現在のコンピューター社会の基礎を築いた。1世紀以上生きてきた「電子立国の父」が、100年後の日本に抱くのは希望か、絶望か。いつものように、アイデアを書き留めた小さなメモ帳を手に、衝撃の予測を展開した。
つい先日、夢で「三途の川」を見ましてね。特に病気をしていたわけではなかったのですが、いよいよかなと思いました。石を1つ積んでは誰のため、2つ積んでは誰のためと、ちゃんと数えないと川を渡してやらないという声まで聞こえて。ところが、数えているところで目が覚めました。不思議ですね。もう、あの世を見てきたようなものですから、未来も見える気がします。
私がトランジスタで電卓を作ってから、コンピューターの世界は急速に進歩してきました。最近では、AI(人工知能)が現実のものになっています。
ただ、現在のAIは数字や理屈の世界から出ていません。数字や理屈で表せない世界をどう扱っていくのか。三途の川のような夢の世界もその一つかもしれませんが、コンピューターはいずれ、こうした領域にも入り込んでいくでしょう。
私はそれを、「カンピューター」と呼んでいます。理屈ではない、「勘」の領域にまで進出したコンピューターです。今は、コンピューターが進歩したといっても、人間は物事を判断する時には勘に頼ることが多い。しかし、いずれは「勘とは何か」という問題もコンピューターは解決していく。
人知を超えた世界に向かう
その先は、勘だけではなく全ての人間の判断を模倣できるようになる。私はそれを、判断の「判」を取って「ハンピューター」と呼んでいます。そうなった時、人類の脳とAIの差はよく分からなくなる。つまり、人類はAIと「二人三脚」で歩むようになるはずです。
そんな世界では、思考が他者に瞬時に伝達する「テレパシー」のような技術も、人類は手に入れているかもしれません。例えば、落ち葉に火をつけることを想像してください。1枚の落ち葉に火をつけると、周囲の枯葉に徐々に燃え伝わって、遠くにある落ち葉もやがて燃え始めます。しかし、これがある落ち葉を燃やした途端、瞬時に遠くの落ち葉も燃え始めるような、そんなことが可能になる世の中になる。
落ち葉につく火は、アイデアの火です。ある人が思いついたアイデアが、瞬時に他者の思考と共鳴して、判断を下したり、イノベーションを生み出したり。要するに、私が昔から主張している「共創」は加速する。それに向けて、人類も進化していかなければならない。
そうなるには、どのような技術が必要かですか? それは、三途の川から戻ってきた私なんぞではなく、若い人たちが考えることです。
一つ、アドバイスできることがあるとすれば、もはや、人類もコンピューターも、数字や理屈だけを頼りにしていてはダメだということです。テレパシーや念力といった、これまでは人知を超えた世界だと思われていたような現象も、科学の力で人類の未来にどのように活用していくかという発想が、これからは求められる。そういうことまで考えないと、人類はコンピューターに使われるような世界になってしまいかねない。
人類が高い志を掲げて進化し続ければ、100年後の日本、そして世界は安泰です。
- 夢の世界もコンピューターの領域に入る
- 人類はAIと二人三脚で歩む
- 数字や理屈だけの世界は終了
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