東南アジア配車サービス最大手、グラブ(本社シンガポール)が快走している。慢性的な渋滞と銀行口座を持たない人々。「移動と決済」という新興国の2つの課題を商機に転じ、東南アジア最大のユニコーン企業に成長した。筆頭株主・ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が目指す世界的なライドシェア連合の一翼として、さらなる飛躍を目指す。
■二輪車に相乗り
渋滞時に自動車や二輪車であふれかえるインドネシアの首都ジャカルタ。オフィス家具販売会社に勤めるムルヤントさん(34)はほぼ毎朝夕、移動区間が近いご近所さんを自慢のスポーツバイクに乗せて通勤する。
移動距離は約20キロメートルで30分余り。「月50万~100万ルピア(約4千~8千円)になるからガソリンや外食代の足しにちょうどいい」と満足げだ。
グラブが2016年に始めた相乗りサービス「グラブヒッチ」の二輪車版。あらかじめ移動区間を登録した一般の運転手と乗り手をマッチングする。既に普及しているグラブ専属のバイク乗りを随時拾う「グラブバイク」に比べ、乗車時刻を予約できるうえ数割安い。
二輪車の相乗りは渋滞の多い東南アジアならではのサービス。自動車のライドシェアと並び、各国で人気を集める。
もう一つの特徴は利用者によるコミュニティー形成だ。アプリを通じ利用者が交流サイト(SNS)でつながる機能があり、ムルヤントさんも約160人のコミュニティーを率いる。家族や友人をグラブのオンライン商圏に引き込む仕掛けだ。
米調査会社CBインサイツによると、グラブの企業評価額は60億ドルに上る。東南アジアで3社あるとされるユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)のうち、最大の企業に駆け上がった。
グラブは12年の創業から5年余り。共同創業者のアンソニー・タン最高経営責任者(CEO)とタン・フイリン最高執行責任者(COO)は同郷マレーシア出身。米ハーバード大留学時に、低所得者向けビジネスの講義で知り合った。2人は母国の劣悪なタクシーサービスや運転手の労働環境を問題視。帰国後、マレーシアのタクシー配車で創業した。