今一番楽しみにしているラジオ『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』で、ちょうど2週間前に事件は起きていた。年賀状の何気ない話の中で、朝井リョウさんの口から「妻が」「社会人の妻が」と、「妻」という単語が2回出てきたのだった。私は朝井リョウさんの話すことが好きで、加藤千恵さんと一緒にやられていた『オールナイトニッポン0』の時から毎週聴いているのだけれど、朝井さんの口から「妻」という単語を聞いたのは初めてだった。自分の耳を疑いタイムフリーのradikoを何度か巻き戻して聴いたが、間違いなく「妻」と発音している。そしてそれに何の違和感を示すこともなく高橋さんが乗っかっている。私が情弱で朝井リョウさんの結婚の情報を見逃していたのかもしれないと思い、すぐに「朝井リョウ 妻」で検索をかけてみたけれど、私と同じようにラジオを聴いた人みんなが混乱の渦に巻き込まれていた。
朝井さんが結婚したかもしれない、というショックは、アイドルの時のそれとはまた別のベクトルで衝撃が強く、でもこの人が人生で新しい経験をした時、また絶対面白い観点を私たちに示してくれるんだろうなと思っていた。というのも、朝井リョウさんと言えば、以前からこのラジオで「結婚式嫌い」を散々語っており、友人の結婚式でInstagramのハッシュタグを使って今日の写真を共有しましょうと言われた際、わざわざ新しいInstagramのアカウントを作って、そのハッシュタグに全然関係のない写真をあげていくタグ荒らしをしたエピソードを語っていた。また主役が一番着飾っているけれど、一番頭を下げているのがしっくり来ない、という話もしていて、それは確かに違和感を感じるところではあるけれど、ここまで言葉を尽くして語らなければならない程嫌悪を抱いている人が、結婚をする可能性を何となく私は低く見積もっていたのだった。その予想を裏切られた、という意味でショックを受けていたのだと思う。
先週の放送は恐らくその前週分とまとめて収録していたので、昨日2/4の放送で冒頭から「妻」発言の種明かしが行われた。朝井さんは東野圭吾さんのように、漢字たった一文字で全てが分からなくなるという現象を仕掛けたいがために、意図的に「妻」という単語を入れ込んだのだそうだ。まんまとそれに踊らされたのが我々である。けれどもあんなに「結婚式嫌い」を語っていた朝井リョウさんが、1週分を尽くして結婚観や奥さんについて語ってくれたのは大変興味深く、ここ数ヶ月結婚についてぐるぐる考えを巡らせていた自分にも響く内容だったので、ここに書き起こしとしてメモさせていただきたい。
朝井:「朝井リョウ結婚式したの?」っていうツイートは私の目にも止まっていて、結果的にしていなくて、でも色んな発見がありました。私の配偶者は私のような人間なんですよ、まず。私と同じレベル、または私よりもしたくないっていう人で、二人で話したんです。何で私たちはこんなにも結婚式をしたくないのかってことを。凄い話したんですけど、自分で必要じゃないと思ったことをするっていうのが苦手な二人なんですよね。結婚式って挙げるってなったら、神父さんであったりとか、ファーストバイトみたいなやつがあったりするじゃないですか。そういうのを私たちに必要かって、一つずつ虱潰しに考えていった結果、私たちに必要なのは、親戚同士で会う場所は必要だから、親族で会ってご飯を食べるっていうことはしようってことになったんです。でもそれ以外で必要のないあらゆることは、私たちにはいらないよねって話になって、しなかったんですよ結婚式。でも色々言葉を交わしていくと、分かっていくことがあって、ファーストバイトとかも何でこんなに嫌なんだろうと思ってたんですけど、あれはファーストバイトの奥にある意味が、男の人が稼いできたお金で女の人が料理を作って男の人に料理を食べさせるっていう意味がその奥にはある訳ですよ。そういうのが凄い嫌だねってなんだんです、二人とも。共働きだし別に私は料理を作ってもらいたいから結婚した訳ではないし。その行為をすることによって、その思想を自分たちも背負ってしまう、背負ってると思われるのも嫌だったし、凄い細かいことを言うと、私は結婚式とか行っていつも思うのが、新郎から挨拶をするとか、もう嫌なんですよ実は。何で男からなんだろうって。平等なのに毎回男からだし、親の扱いも新郎の親から何かあったりとか。そういうのがお互い全部嫌だったので、そういうことはお互いの親にも、もうちょっと柔らかい言葉でですけど伝えて。
このくだり、凄く腑に落ちた。婚活パーティーに行った時、男女がプロフィールカードを交換するのだけど、男性側のカードにだけ「年収」を書く欄があって、女性側のカードにだけ「得意料理」を書く欄があるの、めちゃくちゃ違和感だった。共働きで働くのであれば、女性も年収を開示すれば良いと思うし、家事も平等に分担するのであれば、男性だって得意料理を書く欄があっても良い。デートの時男の人が奢ってくれるかどうかで、気に入ってもらえているかどうかをジャッジする友人にも違和感しかなかった。お互いがお互いの時間を共有するのだから等価交換でいいじゃないかと思いつつ、そういうシステムに上手く身を預けた人の方が優位に立っていることが多く虚しさを感じていたけれど、朝井さんのこの話を聞けて安心できた。
また、こんな話も聞けた。
朝井:夫婦とか関係なく人と人との関係に言えることだと思うんですけど、例えばアイドルに例えたら、AKBで総選挙ってものがあるとして、応援する時に私は“○○のために”“あの子のために”って自分を誰かに預ける、自分の考えとか人生を誰かに預けるってことをした途端に、人間の関係は不健康になると思っていて、それは何でかって言うと、“あなたのためにやってます”って、アイドル側も“ファンのために活動します、歌います”で、ファンは“このアイドルが有名になるために”投票したりとか、CD買っていっぱい握手に行ったりとか、よく聞くんですけど、でもそれって続けていくといつか、“あなたのためにこれだけしたのに”っていう、“のに”が出てくると思うんですよね。“こんなに応援したのに”スキャンダルが出たとか、アイドル側も逆に卒業したらついてきてくれなくなっちゃったりしたら、“こんなに私はファンの人のために色んなこと我慢してやってたのに”って、“のに”が後々くっついてくるなと思ってて。それは夫婦とか親子にも言えるなと思ったんですよね。例えば女性が男性に対して料理を作ってあげたとして、“あなたのために”料理を作ったっていうことになっちゃうと、やがて“私はこんなに家事をしてきたのに”っていうことになっちゃう訳ですよね。典型的なアレですけど、男が家賃を多めに出してる時に、“俺はお前のために働いてお金を稼いできたのに”って、“のに”になっちゃうと思ったから、人に何かをする時に、主語を自分にすることが凄い大切だなと思って。料理を作るんだったら、自分があなたのことを大切に思っている気持ちを表すために料理を作った、ってなると、その後何か裏切られるようなことが例えあったとしても、自分の気持ちを表現するために料理を作った、だから、って順接になるっていうか、そこで気持ちが捩れることが無いのかなと思ってて。子どもとかも凄いお金かけて、“あなたのために色んな習い事させたのに”グレちゃったみたいに、親は子どもを攻めるかもしれないけれど、“私はあなたが色んな世界に触れた方がいいと思ったから、自分の思いを伝えるために色んな習い事をさせた”、でもグレちゃったとしても、それは自分がやりたくてやったことだから、あなたがどんな選択をしてもっていう風に、健康な人間関係が結べるなと思っていて、私のそれを凄い分かってくれる人だったんです。私が言わなくても、配偶者は配偶者で自分の人生の主語は自分であるっていうことは、感覚的に分かってる人だったんですよね。私たちは、お互いの人生を、今の時代をお互いに健康的に生き抜くために手を組んだって感じなんですよ。もちろん大切だし好きで結婚しました、みたいな言葉も当てはまる部分はあるんですけど、というよりも、この世界でお互いに健康的に生きていくために、一番に共闘する仲間を見つけて手を組んだって感じなので、言葉にすると離婚理由みたいなの。二人の人生のために、の後は別れましたが続くじゃん。それぞれの人生を豊かにするために別れました、ってみんな言うんだけど、自分たちの場合は、それぞれの人生を豊かにするために入籍したっていう感じなんですよね。
はぁ~これぞ朝井リョウさん、と唸るしかなかった。奥さんも朝井さんのこの考え方についていける方なので、さぞかし聡明な方だろうと思った。どうしても人は相手に見返りを求めてしまう部分があるけれど、人生の主語を自分に置き換えると健康的な関係性を築けるという話は、自分の人との関係性を見直す良いきっかけになった。また朝井さんが今後執筆する本に新しい奥深さが生まれることが何よりも楽しみだ。「結婚」に限ったことではないけれど、人生の経験値を増やした時に人が新たな感情を手に入れて進化していく様が好きだ。それはもちろん自分も経験して手に入れてみたい進化だし、その進化について色んな人の話を聞いてみたい。
朝井リョウさん、ご結婚おめでとうございます。