名護市長選は、政府・与党が全面支援する前市議の渡具知武豊氏が、3400票余りの差をつけ初当選した。

 新基地建設に反対する翁長雄志知事ら「オール沖縄」勢力が推す稲嶺進氏は3選を果たすことができなかった。

 辺野古の海を切りさくように次々と護岸が造られる中で迎えた選挙である。

 「もう止められない」との諦めムードをつくり、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題を争点から外し、経済振興を前面に押し出すのが渡具知陣営の一貫した戦術だった。

 渡具知氏は選挙期間中、全くといっていいほど辺野古を語っていない。現職の失政が市の閉塞感を招いたとして流れを変えようと訴え、暮らしの向上を求める市民の期待票を掘り起こした。

 勝利の最大の理由は、一にも二にも自民、公明、維新3党が協力体制を築き上げ、徹底した組織選挙を展開したことにある。

 菅義偉官房長官が名護を訪れ名護東道路の工事加速化を表明するなど、政府・与党幹部が入れ代わり立ち代わり応援に入り振興策をアピール。この選挙手法は「県政不況」という言葉を掲げ、稲嶺恵一氏が現職の大田昌秀氏を破った1998年の県知事選とよく似ている。

 注目すべきは期日前投票が2万1660人と過去最多となったことである。有権者の44・4%に及ぶ数字は、企業や団体による働き掛け、締め付けが徹底していたことを物語っている。

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 前回選挙との大きな違いは、自主投票だった公明が、渡具知氏推薦に踏み切ったことだ。渡具知氏が辺野古移設について「国と県の裁判を注視したい」と賛否を明らかにしなかったのは、公明との関係を意識したからだろう。

 両者が交わした政策協定書には「日米地位協定の改定及び海兵隊の県外・国外への移転を求める」ことがはっきりと書かれている。

 安倍政権が強調する「辺野古唯一論」と、選挙公約である「県外・国外移転」は相反するものだ。

 本紙などの出口調査では、辺野古移設反対が64・6%に上った。選挙によって辺野古移設反対の民意が否定されたとはいえない。

 渡具知氏が「県外・国外移転」を公約に掲げて当選した事実は重い。市長就任後もぶれることなく「県外・国外移転」を追求し、地位協定見直しに向け積極的に取り組んでもらいたい。

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 新基地阻止を強く訴えた稲嶺氏だったが、地域活性化や医療など生活に密着した課題への対応が見えにくかったという印象は否めない。

 稲嶺氏が敗れたことは、新基地建設反対運動だけでなく、秋の知事選に大きな影響を与えるのは確実だ。

 翁長知事による埋め立て承認撤回に不透明さが増し、一部で取り沙汰されている県民投票も見通せなくなった。

 翁長知事は今後、公約である新基地阻止をどのように実現していくのか。

 県議会与党とも早急に対応を協議し、新たな方針を打ち出す必要がある。