個人名義での飛ばし節税は蜜の味だが蟻地獄

誰もこの点について突っ込みもいれないし気付きもしなかったのは、新会計基準で飛ばしが厳しく監査されるようになったことと法人税の減税で意味がなくなったからと喜ぶべきか、税務に関して特定分野以外無知な人間しかあの界隈にいないのかと呆れるべきか……
自分が「先に謝罪することは一切ない」と首尾一貫言い続けていた理由について、昔話を交えつつ今回明言する。
先に結論から言うと「相手側が青色申告であればギリギリ節税策扱いで済むが白色申告を続けるためであれば年数と金額によっては脱税と見なされる行為をここ3年近く続けており、その被害を自分自身も昨年度に、それもこちら側の課税額が大幅に増える形で蒙りかけたため、課税を避けるために係争状態を宣言した」となる。

自分はかつてとある一級建築士業免許持ち(但しある日を境に仕事を終生受けなかった)からこう諭されていた。
「節税のやり方の一つに飛ばしというのがある。要は空伝票で発注したり金額だけ水増しして発注して年を跨いでからキックバックor赤字受注で返したり、赤字の会社に仕事を頼んだことにして黒字分を付け替える手法だ。これを取引先に常用する会社からは全力で逃げろ、個人からやられかけたら共倒れ覚悟で全力で潰せ。いいな?」
これは単純かつ効果的な節税手法だが、これをやる会社から発注される仕事は工費不足で手抜き工事になるからそういう会社の作る建物にだけは住むな。
とのおまけ付きで強く諭した本人には、かつて退官時にマンションデベロッパーから強い引き合いがあったのを全力で拒否して事実上の士業廃業を決め込んだところ後日そのデベロッパーが手抜き工事で施工会社ともども計画倒産、入社していたら確実に億単位の賠償金を背負わされるところだった(建築業界で住民が訴えることができる相手が施工会社、販売会社、各種図面に捺印する建築士の二法人一士だけなため)という過去がある。

さて、会社間では効果的な節税手法で「あった(法人税の減税や新会計基準で効果が薄くなった)」飛ばしであるが、これは青色申告を行う個人事業主が事業名目で行う場合でもいまだに使える節税手法となっている。
分かりやすく言えば大赤字を出した事業者に黒字分相当の経費を付け替えてしまえば、相手は最初から赤字前提の申告しかしないので互いにそれなりの節税効果とそれなりのバランスシートをでっち上げることができる効果が生じる。
クロヨンやトーゴーサン(サラリーマンはほぼ9~10割所得額を捕捉できるが個人事業主は5~6割、農家は3~4割しか所得額を捕捉できない、の意味)という言葉には実際の節税手法に関する知識と経験が詰まっている訳だ。
ホールディングス制、という言葉を聞いた人は数多くいると思う。わざわざ資産・負債・株式管理会社と各事業運営会社を分ける会社の経営形態だが、このホールディングス制の利点の一つに「各事業会社間の決算を親会社である管理会社に纏めて、連結決算として赤字と黒字を均す」という節税効果がある。

……さて、自分は「休眠していた屋号を復活させるから合同サークルのコストセンター側として使わないか?ただ、こちらでもトントン位にできる目算はある」と言って企画を持ちかけ、以来一貫して「青色申告を前提に個人事業主として」会計を行ってきた。個人事業主として「屋号に飛ばす」分には構わない、との姿勢を見せていた事となる。
自分が深刻な違和感を覚えたのは10月下旬、衣装の発注を個人名でやっていると言われた時だった。確信に変わったのは会場の予約も個人名でやっていると発覚した撮影会当日だった。

どういうことか。

主催者は「白色申告のままこちらに経費分を私人間贈与という形で利益を飛ばそうとした」というのがこちらの見解、そしてほぼ確実に正答だ。
白色申告、つまり会社員の副業として雑収入申告を行う場合でも飛ばしは使えるか?という問いの答えとしては、「一応使えないこともない」となる。
当初の原稿料契約にない印税の後日追加、個人で趣味として購入した物品や予約して支払った権利の「譲渡」、個人名義で領収書を切ってサークル会計に後付け等、いくつか方法があるにはある。
が、これらは諸刃の剣である。法人と違って個人間で飛ばしをやると、飛ばされた側の課税がえげつない率になるだけでなく、飛ばされた側が怒ると国税にすぐバレるからだ。

まず白色申告の人間から利益を飛ばされた場合、契約書ないしは準ずる文面で支払い金額が明記されていないと「出元不明の雑収入」として扱うことになる。
雑収入の税率は株と同じで普通の所得税の最低税率の二倍、本業の収入に入れようにも書類を作らないことには後付けの収入は雑収入になってしまうため二度手間にも限度がある。
また、個人名領収書の後日編入にも問題がある。これは個人サークル(単独屋号)では効果があるが、ことが合同サークル(複数屋号)となると「合同サークル間の経費・売上分担率調整」に個人名領収書を使うことができず、精算が破綻する恐れがある。
これを防ごうとする少し狡猾な人間がとる手段が「個人名領収書で切ったものを譲渡扱いで押し付ける」となるが、これをやられた人間が後日所得申告時に雑収入欄で地獄を見るのは想像に難くない。

また、飛ばす側も継続的かつ無制限に飛ばせる訳ではない。
売上に対して利益の額が少なく、しかも参加者への「当初定めた」原稿料を込みで計算しても使途不明金が多額となると、流石に税務当局も「白色申告は受け付けない、青色申告で正確に申告しろ」と言い出す。
それが1年だけの突発的なものであれば見逃すかも知れないが、自分の知る限り既に主催者がこの手法を使うこと3年。
既にこの手法のうち印税の後日追加がトラブルの原因の一つとなって主催者との縁を切ったイラストレーターが1人、後日渡しの印税額が不定と通知されかつ越年で支払われて税務申告に問題の生じそうな合同参加者が十数名、無意味な二分割発注で不必要な経費を事実上飛ばされた会社が一社、そして個人名領収書の後付けから譲渡扱いで60万近く飛ばされかけて慌てて係争状態を宣言した自分、と現在進行形で飛ばしの被害者と総額は増え続ける一方である。記憶が正しければ既に7桁は軽く飛ばしている。
昨年には既に「税理士を入れないと」と言っていた主催者であるが、税理士がこの飛ばしまくりなバランスシートを見たら即刻受任解除するか国税当局に通報するのは想像に難くない、とまで言えてしまうほどに凄まじい飛ばしぶりである。

そして、問題は当事者が「飛ばしは節税手法ではあるが場合によっては税法に触れる」ことを誰一人認識していなかったことにある。……いや、自分は手法の名前こそ忘れていたものの、記憶からの嫌悪感で気付いていたが。
商いをやってる人が全員揃って「ああ、それは主催者側が悪い。合同でやってるのに個人名はあり得ない」と断言したのも「飛ばし行為の一端」だと認識していたからだ。
そして、自分を追及してきた人間も全員揃って「主催が利益を個人名義で飛ばそうとしたことに相手方がキレた」という可能性に思い至りすらしなかった。一人に至っては別件の労働争議の時限爆弾として仕込んでいた件を爆発させようとしたので本気で法的措置を検討したほどだが、その者も全く気付いていなかった。

さて、ここまで書けば分かるだろう。自分が係争状態を宣言した上で厳しめのスジであっても商法で処理しようとしていた理由が。
税法上の飛ばし行為を何度遠回し(そんな面倒なことやる暇あったら原稿料をアマ作家にも適正額払え、それで片がつく。等)に忠告しても繰り返し、あまつさえ忠告者にまで利益を飛ばそうとしてきたのだ。
国税当局に自分まで巻き添えを喰らわないようにするには、係争状態の宣言が必要不可欠だった、ということである。
実は過去の記事に幾つか飛ばし行為の存在を示唆する文面が隠れている。「主催側が飛ばし行為をしようとしていた」という前提で経緯を辿れば、恐らく加害者被害者の見立てが180度反転することだろう。

とある参加者はこう言ったそうだ。「参加した人にしか分からないことがある」と。
はっきり言おう。実際には「当日参加した人にも確かに一端は見えていた。が、参加した人ほど分からないことだらけである。むしろ部外者が第三者視点から観察した方が分かることが多い」と。

余談:自営業の親をもつ人は逆の意味でちゃっかりしている。笑い話で済む話だが、過去とある即売会の打ち上げでこんなやりとりがあった。
某氏「ごめん、みんな。今日ここに来るまでとかの何かしらの領収書あったらくれんか?経費にツケたいんよ」
別の参加者「領収書?これでええか?」
某氏「あー、いやこれはあかん。個人名だと通らんわ」
自分「なら交通費の領収書があるで、宛名白紙やから使えるやろ?」
某氏「おっ、これならいけるわ。ほなこれもらうな。埋め合わせは今度でええか?」
自分「ええよ、あんま期待せんで待っとくわ」
……つまり、上記で出てくる某氏が当時「親の自営業にサークルの収入と経費を纏めてツケていた(従業員の別事業扱い)」ので「白紙、ないしはサークル名の領収書があれば経費にツケて水増しできる」ということであった。
そして、丁度遊びに行ったついでに手伝いをしていた自分は往復の高速バス(JRバスグループ)料金の領収書を「マルス様式の宛名欄白紙のままで」持っていたので「これならツケれるだろ」と渡した、といういきさつである。
そのあとあの領収書は恐らく「売り子の交通費」として処理されたと思うが、実際にどう処理されたかは知らないし知る気もない。ただ、こういったやりとりを過去幾度となく行っていたのでサークルの会計要目になる支出を個人名義で行うことに違和感と嫌悪感を抱いた、というのは恐らくある。