やっぱり日本の教育問題は教育制度改革で解決できない
中央公論2月号の特集は、「徹底討論 大学入試改革」ということで、識者の対談を交えて教育問題に果敢に切り込んでいます。識者の顔ぶれはなかなかに豪華なのですが、「やっぱりね」という感想にもなります。
それは「ゆとり」派対「詰め込み」派という旧態依然の対立
ゆとり派(林芳正文科大臣、藤原和博氏)の意見を聞いてみると
・はやすぎた「ゆとり」(前回の改革は機が熟していなかった)
・ハーバード大学での経験(課題図書を大量に読みこんだ上のディベート)
・大学と社会との「共生」(藤原氏の「よのなか科」の実践)
・情報処理力と情報編集力が大事
いっぽう、詰め込み派(竹内洋氏、斉藤孝氏、和田秀樹氏)の意見は
・伝統的な学力の価値は不変
・大学入試は「フェア」が大前提
・コミュニケーションは不得意でもいい
・文庫100冊で教養の底上げを
・今回の大学入試改革は世界の教育トレンドと逆行(世界的には詰め込み型になってきている)
・メンタルヘルスにも悪影響(大学入試まで内申書がかかわると学校生活で疲弊)
です。
学校はそれ以前のことを教育している
大学以前の学校は、この対立とは無縁に、「態度教育」にもっとも重点が置かれています。「態度教育」は学校教育の大前提です。この「態度教育」は議論の俎上にあがらないほど、その前提を教員たちは疑わないのです。とくにディベートのような不定型な授業形態をもちこむ場合、さらに高度な「態度教育」が必要です。それこそ、藤原和博氏のいう「日本の教育は、どんな科目でも『道徳』になってしまう」という言葉にも端的に表れています。これは意外に大きな問題で、社会がそう要請している面もあります。そういう文化の根っこの部分までとらえて、識者たちの議論ができているかというと、疑問をもってしまうのです。
文科省の中の人の頭の中は、「ゆとり」と「詰め込み」で揺れているのかもしれません。
一方、教員の頭の中はというと
このように、①態度教育(しつけ)②詰め込み教育③ゆとり教育④その他 と分類できますが、実際、公立小中学校で、教育の比重は以下のようになっています。
①の態度教育(しつけ)が大半を占めます。②③はその上澄みです。大学入試改革・教育改革は、②③の部分を議論しています。これはこの①の部分が入学前からできている進学校の高校ではよいと思います。それは上位何%の話でありましょうか。
学校は「しつけ」ができなくなってしまった
①の「しつけ」の部分は日本の「国体」とも言えます。学校は、ここ二十年で、家庭から「しつけ」をアウトソースされつづけてきました。しかも、教育のサービス業化も進み、家庭からのクレームにおびえています。教師たちは、家庭から「おまえの指導はおかしい」と言われることがいちばん怖いのです。まさにダブル・バインドです。こういった状況を改善させなくては、「生きる力」も画餅となります。
そもそも、社会でそんな高度な勉強の能力が必要とされるのは、どんな職業でしょうか。全員がグローバル人材・高度人材になるという「夢」を追っては、ほとんどの子どもたちが疲弊してしまいます。そもそも企業はもとめていないでしょうし。企業の中堅の方からは、最近の新入社員は「学力が下がった」とか「教養がない」とかあまり聞いたことがありません。(主観的かもしれませんが)「みょうに打たれ弱い」とか「礼儀がなっていない」とかが圧倒的です。これは②詰め込み教育の課題でも③ゆとり教育の課題でもありません。①態度教育(しつけ)の課題と言えましょう。(高度人材、グローバル人材は除く)
つまり、①態度教育(しつけ)は、家庭から小中学校に押し出されました。ただし、学校のサービス業化で児童生徒にあまり強く言えなくなり、「しつけ」の一部は高校、場合によっては大学に追し出され、そこでも身につかず、企業にまで追し出されてしまったのが現状ではないでしょうか。
「ゆとり」と「詰め込み」は学力上位数%の問題
「徹底討論 大学入試改革」特集の最後は「現役高校教師座談会」です。現役高校教諭の先生方の議論ですが、どの方も進学校に勤務されています。ふつうの学校の実態とは乖離しているのではないでしょうか。座談会の先生がたは「新しい試みで負担が増えるので、不満を持つ先生は多いでしょう」とのんきなことを言っていますが、「新しい試み」を全学校に適応しても、教育効果はないし、混乱するだけでしょう。
「ゆとり」と「詰め込み」のどちらがいいかは、学力上位数%の問題なのです。文科省には、万人のためのほんとうの「生きる力」を提示してほしいものです。
中沢 良平(元小学校教諭)
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