時論公論「後退する世界の民主主義」別府正一郎解説委員[字] 2018.02.02

32月 - による admin - 0 - 未分類

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こんばんは。
欧米諸国で、移民の排斥や既存の政治への反発を声高に叫ぶ政治家が台頭し、伝統的な自由や民主主義の価値観が揺らいでいるとされますが、民主主義の後退や劣化といえるような現象が、欧米にとどまらず、世界各地に及んでいるという調査結果が、国際的な人権団体によってまとまりました。
世界の民主主義は今、どうなっているのか。
調査結果とともに、その影響の広がりについて考えます。
解説のポイントです。
まず世界で民主主義が後退しているという調査結果について見ていきます。
次に、その原因を具体的な国の事例を通して分析します。
最後に、この問題についてどう向き合うべきかを考えます。
各国の民主主義のレベルを評価するという難題には、いくつかの団体や研究所が取り組んでいますが、今夜は、アメリカの首都ワシントンにある人権団体、フリーダムハウスの調査を見ていきます。
この団体は、1941年に設立され、平和的なデモに対する弾圧や政治犯の処遇など、世界各地の人権問題を調べています。
活動の柱が1973年から毎年発表している、世界の自由と題した年次報告書で、190を超える国と地域を対象に、選挙が自由で公正に行われているのか、思想信条の自由が保障されているのか、それに司法が独立して機能しているのかなど、25の項目について専門家が評価し、各国・地域を自由、部分的に自由、自由でないという、3つのカテゴリーに分類してきました。
先月中旬発表された最新の調査結果では、日本や欧米の先進国など、世界の45%の国と地域が、自由に分類されました。
30%が部分的に自由、そして中国やロシア、それにシリアや北朝鮮など、25%が自由でないとされました。
注目を集めているのが、この3つのカテゴリーの割合の変化です。
東西冷戦のころは、これら3つの割合はきっ抗していましたが、冷戦の終結に伴い、東欧の国々で民主化が進んだこともあって、自由の割合が増えました。
反対に、自由でないが減りました。
この傾向は2000年代の半ばまで続き、自由とされる国は、世界の半分近くまで伸びました。
ところが、このころを境に状況が変わります。
自由が減り始めるとともに、自由でないが増えていき、ことしの報告書でも、その傾向が続いていることが鮮明になりました。
それにしても、冷戦の終結後、世界はいずれ自由と民主主義に覆われるとの見通しすら語られていたにもかかわらず、なぜ、ここにきて、後退しているという結果が出てきたのでしょうか。
具体的に例として、まずトルコがあります。
これまで部分的に自由でしたが、今回、自由でないに後退しました。
その理由として、おととしのクーデター未遂以降、非常事態宣言が延長され、多数の兵士や公務員、それにジャーナリストが拘束されていること。
こうした状況の中で去年、国民投票が実施され、国論が二分される中で憲法が改正され、大統領への権限の集中が一層進むことなど、エルドアン大統領の強権化が見られると指摘しています。
トルコは混乱が続く中東にあって、民主化のモデルを自負しています。
こうした新興国のいわば優等生とされた国々での後退が各地で見られた結果、いくつかの国の前進を打ち消す形で、全体で見ると自由が減り、自由でないが増える傾向になっているのです。
しかも問題はこうした分類上の変化にとどまりません。
フリーダムハウスは、3つのカテゴリーでの分類のほかに、各国・地域の状況を100点満点で採点して、それを指数としていますが、分類の上では自由とされる欧米諸国で指数が下がるということが起きているのです。
例えば、アメリカはおととしの90点から、去年は89点に下がったのに続いて、ことしの報告書では、86点とさらに3ポイント下がりました。
トランプ大統領のメディア攻撃や、人種差別を容認するかのような姿勢、さらに大統領就任後もビジネスとの関係を断ち切っていないことなどが理由として指摘されました。
アメリカは民主主義のチャンピオンを公言していますが、実際には、大統領選挙で高額な献金が横行していることや、黒人に対する捜査当局の強圧的な対応など、多くの問題を抱え、もともと日本やヨーロッパの先進国よりは低めの評価でしたが、さらなる落ち込みによっては、チャンピオンだと主張することすら難しくなるかもしれません。
また、ハンガリーとポーランドは、去年からことしにかけてそれぞれ4ポイント下がりました。
理由としては、メディアや市民団体への規制が強まっていることが指摘されました。
冷戦終結後の東欧の民主化の、こちらもいわば優等生とされてきたような国々です。
さらに、最も低い自由でないと分類された国の中でも、状況の一層の悪化が起きています。
カンボジアは、長期政権を続けるフン・セン首相の強権化が目立つ中で、指数は、おととしの32から去年の31、そして、ことしは30点まで下がりました。
その理由として去年、政権批判で知られた有力な英字紙が廃刊に追い込まれたほか、最大野党が解党を命じられ、その党首も国家反逆罪で、逮捕・訴追されました。
ことし7月に総選挙が予定されていますが、それを前に最大野党が消滅してしまった状況です。
内戦終結を受けて、25年前、日本を含む国際社会の支援を受けた選挙を経て、新たに民主化への歩みを始めていたはずだっただけに、懸念が広がっています。
こうした状況について、フリーダムハウスは、世界の自由と民主主義は冷戦終結後、最も深刻な状況にあるとしています。
その原因については、これまで経済的に繁栄してきた欧米で、経済格差の広がりから、市民レベルで自由や民主主義の意義を実感しにくくなっていることがあるのではないかと分析しています。
また、中国の成長モデルに影響を受ける形で、新興国の政治指導者を中心に、強権化の下での安定や経済成長を優先する意識の広がりがあるのではないかと指摘しています。
では、こうした現象に私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。
まずは高いレベルの民主主義を達成した国でも、民主化に向けた歩みを始めた国でも、形骸化の危険をはらんでいることを直視することが必要です。
北アフリカのチュニジアはアラブの春の発端になった国で、今ではアラブ諸国の中で、唯一、自由に分類されている国です。
しかし、ここにきて、地方選挙が延期されたほか、生活苦を背景にしたデモ隊と治安機関の衝突も起きていて、後退が懸念されています。
また、政治の強権化が経済成長と安定をもたらすかも大いに議論があるところです。
南米のベネズエラでは、野党への弾圧が続く中、経済政策の失敗で、豊かな産油国でありながら、子どもたちの間で栄養不良が広がっている状況です。
さらに北朝鮮のような国では、国民が政府に自由に異議申し立てができず、自国民はもちろん、他国にも脅威となっています。
世界人権宣言が採択されて70年。
国際社会は若い民主主義を育てる努力を続けるとともに、日本のような民主国家であっても、後退の危険を抱えているということを肝に銘じ、民主主義の土壌を耕し続けることが、ますます重要になっています。
2018/02/02(金) 23:55〜00:05
NHK総合1・神戸
時論公論「後退する世界の民主主義」別府正一郎解説委員[字]

欧米諸国で移民排斥などの動きが相次ぐ中、民主主義の後退とも言える現象が世界各地に及んでいることが国際人権団体の調査でわかった。その影響と広がりを考える。

詳細情報
番組内容
【出演】NHK解説委員…別府正一郎
出演者
【出演】NHK解説委員…別府正一郎

ジャンル :
ニュース/報道 – 解説
ニュース/報道 – 定時・総合
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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サンプリングレート : 48kHz

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