映画『スリービルボード』感想ネタバレあり/評価
どうも、アバウト男です!
数々の映画賞に輝き、アカデミー賞でも主要6部門7ノミネートされ注目されてる【スリービルボード】。あらすじを読んでも一体どんな話しで、どんな展開を見せるのか全然想像出来ない!そんなミステリアスな作風に釣られて観て来ました。
監督は【ヒットマンズ・レクイエム】【セブン・サイコパス】のマーティン・マクドナー。過去に2作とも観たことあって、その時はあまり上手いなって印象は無かったんだけど。今回はいかに?!途中から若干ネタバレしてます。
あらすじと予告
ミズーリ州の田舎町。7か月ほど前に娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、犯人を逮捕できない警察に苛立ち、警察を批判する3枚の広告看板を設置する。彼女は、警察署長(ウディ・ハレルソン)を尊敬する彼の部下や町の人々に脅されても、決して屈しなかった。やがて事態は思わぬ方へ動き始め……。
予告編:『スリー・ビルボード』日本版予告編 - YouTube
強烈で予測不能な人間ドラマ
先に率直な感想は、
もの凄く面白かった!!!
本作「アクションがカッコイイ!」「どんでん返しにびっくり!」「オチが衝撃的!」とか普段観てる映画の感想で出るような端的な言葉が見つからず、語彙力のない自分にとっては簡単に言語化できない困るタイプの作品でした。
困る!!!
メインとなるミルドレッド・ウィロビー署長・ディクソン3人の登場人物を通して、それぞれの『贖罪と救済』をテーマに『人間のどうしようもなさ』と『どうしようもない状況に陥った人間』の姿を十二分に描いた強烈に人間臭い作品でした。
雰囲気的にはサスペンスかなと思わせておいて中身はザ・人間ドラマ!中を見るまでは分からないってのは映画の内容とも合ってて。観ながら染み染みと人間って面倒くさい生き物だな…と実感させられました。
表面上からはなかなか見えないそれぞれが抱える想いや葛藤・信念・状況・背景。その違いや差による摩擦から生まれる衝突。そこに偏見や決め付けも相まって、感情に身を任せた暴挙がさらに新たな怒りを生み。傷付き傷つけられてようやく相手の気持ちに立たされ、見えて来るモノがある。
とまぁ、色々と混沌としてました!
観ながら思わず「どうすりゃ良いんだよ! どうすりゃ正解なんだ!?」と叫びたくなる程、関係ない立場の自分も、事の渦中にいるように胸を締め付けられ、ずし〜んと心揺さぶられました。
頭空っぽにして観れるアクションやホラー映画も大好きだけど、きっとこういう作品が自分の中に深く残って行くんだろうな。内容は全然違うけど『人間が持つどうしよもなさの本質』を描いてる作品として、当ブログ2016年のベストに挙げた映画【淵に立つ】に近いものを感じました。
とにかく脚本が上手い
これだけは観た人誰もが挙げられる本作の良さだと思うんだけど、人物が否応なく絡み合う脚本が見事でした!
例えば話になるけど、用意した土台の上に登場人物の駒をいくつが配置していって、その駒を動かして物語を進めていく。駒に魅力的な特性やバックボーンを背負わせ、キーとなるアイテムなんかも用意して。
そのいくつかある駒を組み合わせ・接触させる事で起きる化学反応(アクション)によって観客を翻弄し、感情を揺さぶり、時に笑わせ、涙させたりして楽しませる。思わぬ組み合わせや接触させるタイミング・場所によっても起こる化学反応も様々で、その配分やバランスを全て把握しコントロールする。
そういうのが巧みな脚本ほど映画や小説・漫画とかにおける『話の面白さ』ってあると個人的には思ってて、それがこの【スリービルボード】は抜群に上手かった!
作品内で『チェス』というワードが出たけど、観客の数手先を行く計算高さや展開力・描きたい事や伝えたいメッセージを込めつつ、それをまとめ上げる構成力の上手さ。逆に上手過ぎてハナにつくくらい!
こういう話を思い付くのって凄いよな。何かの実話をベースにしてるならまだ分かるけど。こんな話を思い付き、広く言えば『人間という生き物』とか『人生そのもの』なんかも描いてみせる脚本も務めたマクドナー監督の手腕に驚かされました。
ある出来た型に嵌められた『定番的な面白さ』よりも、やっぱり『翻弄させられる予測不能な面白さ』の方が自分としては好きですね。
ここからちょいネタバレ
決め付けの危うさ、贖罪と救済
この作品、思い込みや偏見・先入観などの『決め付け』= 映画的な『刷り込み』から、実はこうでした!って明かされる場面が多いのも印象的でした。無意識にやっちゃうよな…側を見ただけで何か分かった気になって。
冒頭、殺人事件の捜査を怠ってる警察代表として悪者に見えたウディ・ハレルソン演じるウィロビー署長も、蓋を開けてみれば家族想いの良い父親でした。2人の娘を持つ親として、娘をレイプされ焼かれて殺された母ミルドレッドに同情しない訳が無い。癌で余命幾ばくもない中、手掛かりのない殺人事件と遺すことになる家族のの事を思えば彼の葛藤は計り知れない。
サム・ロックウェル演じるディクソンも、態度の悪いステレオタイプなレイシストの白人警官というイメージだったけど、終盤では警察としての素質や正義感のある人物として描かれる。マザコンというよりかは、きっと独り身の母親と一緒に住んであげてる優しい奴なのかもしれない。
そんな彼をウィロビー署長はちゃんと認めていた。ゲイであるディクソンが自分に対し尊敬以上の気持ちがあった事も恐らく知った上で。決め付けが多く描かれる中『見てる人はちゃんと見てる』って場面が入ってたのも良かった!
あと主人公であるミルドレッドも、警察や街の人・TVクルーから見たら奇行に走ったオバさんくらいにしか映ってなかったのだろう。これも突飛な行動だけが際立ったことで生まれた一種の決め付けや偏見で。
ウィロビー署長が自殺した理由、その後に繋がる看板屋さんのレッドに対する暴行事件、3枚の看板が燃やした犯人含めて、決め付けや思い込みを頼りに行動に起こしたり決断することの危うさ。ハナから否定するんじゃなく、相手の立場になって考えてみたり、分かろうとする事の大切さ。怒りに怒りを重ねるのは簡単だけど、赦す事で報われる場合もある。
で、過ちを犯した側だって、犯してしまった以上それに対してどう向き合うか?その後に何が出来るのか?それによって少なからず救われるものもある… と微かな希望も示されていて。
観客も登場人物と同じく『気付かされる』構造になっているのも皮肉で。数多くの人に観てもらって心震わせて欲しいですね。
まとめ
キャストの上質な演技もさる事ながら、三者三様の『親映画』でもあり、重苦しい内容ではありつつも笑える場面があったり、2時間でこれだけのモノが描けるんだなと、映画の凄さや面白さを改めて思い知らされる作品でした。
★★★★★ 星5つ!満点!
この作品と同様【殺人者の記憶法】も脚本が上手くて面白かったけど、あっちは設定の活かし方が上手くて、本作は人物の絡みよる展開が面白いタイプの作品で、また違った面白さを味わえました。