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316 仲間になりたそうにこちらを見ている
「ぐふっ!」
私の華麗な回し蹴りをくらい、吸血っ子が脇腹を押さえてその場に倒れる。
吸血っ子に的確にダメージを与えつつ、それでいて慣性でふっ飛ばさないよう、絶妙にコントロールされたこの匠の回し蹴り。
我ながら惚れ惚れするね。
「り、理不尽」
地面に這いつくばった吸血っ子がなんか言ってるけど、聞こえんなー?
そのまま糸で縛り上げて、ズルズルと引きずっていく。
普通だったらこすれて擦り傷だらけになりそうだけど、なに、君の防御力ならば問題ないはずだ。
存分に地面とキスしまくってくれたまえ。
「白さん! ちょっと待って!」
ズルズルと吸血っ子を引きずっていると、鬼くんが私の肩を掴んで止めさせる。
「ソフィアさんが失言したのはわかるけど、今回の責任は白さんにもある。やりすぎなんじゃないか?」
はあ?
鬼くんが支離滅裂なことを言ってくるので、私はその顔をまじまじと見つめてしまった。
普段は閉じられている十の瞳が、鬼くんの目を見据える。
鬼くんはその私の邪眼の威圧にちょっとひるんだけれど、それに耐えて再び口を開いた。
「説明がなさすぎるんだ。僕らは白さんの少ない言葉をくみ取って行動しているけど、それにも限度がある。僕らの間には報連相が足りないんだ。ソフィアさんが失言してしまったのは、白さんの説明不足が原因なんだ」
ほうれん草?
何それ美味しそう。
じゃなくて。
えーと、つまりなにかい?
鬼くんはもっと私に説明せよと、そう言いたいのかい?
この私に、説明をせよと!
ないわー。
「白さん?」
「ちょっとー!?」
鬼くんを無視して再び歩きだす私に、鬼くんは戸惑ったように、引きずられた吸血っ子は抗議の声を上げた。
「白さん話を聞いてた?」
「そうよそうよ! ちょっとこの扱いは不当だと思うわ!」
ギャーギャー騒ぐ二人を無視。
吸血っ子が拘束から逃れようとビタンビタン跳ねてるけど、それも無視。
そんな程度で私の糸から逃れられると思っているのか?
知らなかったのか?
神からは逃げられない。
吸血っ子を引きずりながら、目的地に向かう。
相変わらず吸血っ子はギャーギャー騒いでいるけれど、鬼くんは途中であきらめたのか静かについてきていた。
黙ってるけど、ついてきてるあたり納得はしてなさそう。
「これは……」
けど、その沈黙も目的地が見えてきた瞬間破られた。
口を開いた鬼くんとは反対に、吸血っ子はそれを見た瞬間口を閉ざした。
まあ、圧倒されるよね。
超巨大なUFOが目の前にあったらさ。
私の目的地、それはこのUFO。
ポティマスが最後の最後にこの星から脱出するために発進させようとした、宇宙船。
呆気に取られている二人を無視し、私はそのままUFOの中に踏み入る。
もちろん、引きずられたままの吸血っ子も一緒だ。
その後を置いていかれまいと鬼くんが慌てて歩みを再開させる。
縛られたままの吸血っ子も鬼くんも、UFOの中を物珍し気に眺めている。
やたらでかいから、中を歩くにも一苦労する距離なんだけど、それでも見ていて飽きないと思う。
なんせ、このUFOは宇宙での長旅も想定されていたわけだから、その旅を成し遂げるための設備が揃っている。
それらが見えるんだから、見学するだけでも楽しいだろう。
まあ、吸血っ子の縛られながら海老ぞりになって見学してる姿は、傍から見たらものすごくシュールだろうけど。
その姿勢にならないと見えないのはわかるけど、淑女がそれはやっちゃいけない姿だと思うんだ。
え?
縛ってるのはどこのどいつだって?
それはそれ、これはこれ。
その見学ツアーも目的地に着けば終わる。
私の目的地、UFOの最深部とも言うべきその場所には、モニターに向かう魔王と、その魔王の護衛のメラがいた。
徹夜組のメラは立ったまま気絶してるんじゃないかって感じになってる。
「おや? いらっしゃい」
魔王がこっちに気づいて挨拶をしてくる。
私たちが転生者と会議してる間に起きて、このUFOに移動してきたらしい。
まあ、だから私もここに来たんだけど。
「ソフィアちゃんはまたなんかやらかしたの?」
「またって何ですかアリエルさん? その言い草じゃ、私がしょっちゅう何かやらかしてるみたいじゃないですか」
え? この娘は何を言ってるの?
自覚がないって怖いわー。
ほら、魔王も苦笑してんじゃん。
「白ちゃんも、あんまソフィアちゃんをいじめちゃダメだよ?」
いじめじゃありませんー。
これは教育的指導ってやつですー。
「で、何をやらかしたの?」
「それはですね」
なぜか魔王は私ではなく鬼くんを見ながら聞き、鬼くんも鬼くんで何の疑問も持たずに魔王の問いに答えていく。
うん。
その対応正解だよ。
正解なんだけど、これはこれで当てにならんって言われてるみたいでイラっとするね。
私だってやればできるんだ!
やろうとしないだけで、やればできるんだ!
ホントだよ?
「あー。そうなんだー」
一通り鬼くんから事情を聴いた魔王は、あちゃー、という顔をして吸血っ子を見た。
「まあ、口を滑らせちゃったソフィアちゃんも悪いけど、ちゃんと説明してなかった白ちゃんのほうが責任は大きいかなー」
異議あり!
私が悪いわけがない!
私は悪くない!
「実際のところどうなの? ホントに地球には帰れないの?」
スッと、魔王が真面目な顔をして聞いてくる。
「ムリ」
私はそれに端的に答えた。
「うん。白ちゃんがムリって言うのならムリなんだろうね。けど、どうしてムリなのか、その理由は? そういう詳しいことを聞いてないから、ソフィアちゃんが口を滑らしちゃうんだよ。情報の大切さは知ってるでしょ? んでもって、どの情報に価値があるのか、それは全てを知ってる白ちゃんしかわからない。与えられた情報の真贋もろくにできないソフィアちゃんの立場も慮ってあげないと」
やんわりと諭すように言ってくる魔王に対して、私は口をへの字にしないようにするので精いっぱいだった。
あんたは私のお母さんか。
あ、お祖母ちゃんでした、すんません。
「白ちゃんは何でもかんでも一人で全部片づけようとするから、他人と協力するってことに関しては杜撰だよね。他人との会話を必要としない。だってする必要がないんだもん。その気になれば全部一人でできちゃうからね。根っからのボッチってわけだ」
ひでえ言い草だけど否定できない。
「まあ、それもしょうがないのかなーとも思うけどね。私だって白ちゃんと出会う前は人のこと言えなかったし。突出した能力を持ってるものの宿命かね」
魔王もステータスだけ見ればこの世界では並ぶものなき最強だったからねえ。
その配下の蜘蛛群団だって、元はといえば魔王の産卵のスキルで増やした、自身の分身たる眷属だし。
「とはいえ、ソフィアちゃんやラースくんは仲間なんだからさ。コミュニケーションが苦手だからって避けてないで、ちゃんと向き合ったほうがいいんじゃない?」
え?
仲間?
うん?
仲間。
うーん。
あ、そうか。
吸血っ子や鬼くんって、仲間だったのか。
そこに気づくとは、さては魔王お前天才だな?
あれ?
なんかよくわからんが混乱してきたぞ?
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