2018-02-03

ガンダム攻殻機動隊が同じに見えるらしい彼氏の話

お付き合いをしている人がいる。

相手は5つ年上の男性。ちなみに私の性別は女だ。

私はおそらく世間一般で言うオタクというやつで、創作物創造物の類が好きだ。

ゲームアニメ映画演劇絵画模型音楽。私にいろいろな感情を教えてくれたそれらのなかでも、ことさら本が好きだと思う。

飽きっぽく節操の無い性格のためか、活字なら小説から詩集新書専門書、漫画なら少年少女青年成年、雑誌写真集攻略本に設定集、映画舞台パンフレット等、およそ統一性の無い本たちが、広くはないワンルームの隅に鎮座している。縦に横に雑多に、しかし私のなかでは理路整然と。

最近遊びに来た友人に、積みすぎると床が抜けると脅された。賃貸でそれはまずかろうと、恐る恐る電子書籍に手を伸ばしている最中だ。


さて、冒頭に出てきた彼の話だが、おそらく少なくとも、漫画アニメオタクではない。ハリウッド攻殻機動隊を視聴するにあたって概要説明した折、第一声が「それはガンダムとは違うの?」だった男だ。

興味の無い人間にとって、電脳化・義体化とモビルスーツによる宇宙戦争は同じに思えてしまうらしい。お前話聞いてなかっただろ。

ガンダムとはちょっと違うかなー」「あれ、前見たガンダムと同じ監督って言ってなかった?」「ガンダムと同じ監督?何見たっけ?」「見たじゃんあのアニメの、警察のやつ」

それはイングラムだ。ガンダムじゃない。



ある日のこと、きっと遊馬とカイの区別もつかないであろう彼奴から突然「3月のライオンって知ってる?」とラインが来た。

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3月のライオン』(さんがつのライオン)は、羽海野チカによる日本漫画作品将棋を題材としており、棋士先崎学が監修を務める。(Wikipediaより)

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知っている。

漫画単行本を既巻全巻持っている。アニメも見た。実写映画も見た。

好きな物語だ。

正直すごく嬉しかった。自分の好きなものに興味を持ってもらえると一気に親近感が沸くオタクの生態よろしく、結構、いやかなりテンションがあがってしまった。チョロいもんである

はい相手小泉花陽ちゃんと三村かな子ちゃんの区別もつかない甲斐性なし野郎だ。ここは慎重にフラット対応すべしと自分に言い聞かせつつ話を聞いてみると、どうやら彼の友人がアニメを見てハマったらしく、自分も気になった、ということらしい。

漫画を所有していることを伝えると、貸してほしいとの返信。もちろん了承の旨を伝え、既巻13冊をすべて手渡した。重くなるが、スピンオフの灼熱の時代紙袋に詰めた。


3ヶ月ほど経った頃だったかデートをした日、そういえば漫画全部読んだよ、と彼が言った。晩ごはんを食べようと入った居酒屋メニューを見ていたときだった。

もちろん私はすぐさま感想を聞いた。そうなんだ、どうだった?と、期待を込めて聞いた。

「うーん、まあ現実にはあんなのあり得ないよね」

彼は笑ってそう言った。


びっくりした。ショックだった。

面白くなかったのだろうか。そう聞けば、面白かったという。続きも読みたいという。実写映画漫画も見てみたいという。

けれど、一番に口をついて出た感想が「現実にはあり得ない」だった。

そこで初めて思い知った。

世の中には、現実というフィルターを通して物語を読んでいる人が、あるいはそう読むことしかできない人がいる。少なからず今、目の前にいるのだと。

私自身は、幼い頃から随分本に触れてきたと思う。特にフィクション物語を好んで読んできた。読むたび私は空想にふけてきた。

こんな魔法が使えたら、こんなドキドキするような恋愛が出来たら、こんな力を持って世界を救うヒーローになれたら。

それらは、現実との比較であって混同ではない。

そりゃそうだ。私は本を読むとき、その物語という未知の世界の扉を開けて、体ひとつで飛び込んでいるようなものだ。

本を読んでいるとき現実は扉の向こう側にある。現実は戻ってくる場所なのだ

みんなそうなのだと思っていた。それが当たり前なのだと思っていた。

でも、そうではなかった。


私は何にショックを受けたのだろう

彼に自分が好きな世界否定されたように感じたからか。自分好きな物語にケチをつけられたように感じたからか。あるいは、単に同調してもらえないことに傷ついたのか。

おそらく全部あてはまる。けれど核心ではない気がする。

いまだによく整理できていないが、私はあのとき直感的に、嫌だと感じたのだと思う。

きっとこの人と私では、心の奥底のほうで、物語を共有することができないと、そう感じたのだと思う。

立ち位置が違う。視点が違う。同じものを見ているはずなのに、見えているものが違っている。

考えれば考えるほど当然だ。彼と私は他人で、好みも違えば趣味も違う。育ってきた環境も、考え方も違うだろうし、感じ方も違うだろう。

けれど私は、「物語」に関しては、その差異が許せなかった。直感的に、嫌だと感じるほどに。

これがいわゆる価値観の違いってやつなのか、とも思った。

これを理由に離れてしまペアは多いと聞く。価値観が違うのは当然だと以前は不思議に思っていたのだが、今はなんとなくそ気持ちがわかるような気がする。

自分のなかの大切な、染み付いてしまってどうしようもない根っこの部分を、きっとこのひとには理解してもらえない。それがわかってしまった。

ただそれだけなのに、その瞬間、彼が異質なものに思えてしまった。

ガンダム攻殻機動隊が同じに見えるらしい彼と私は、何かが決定的に違っている。

以来私の心は、彼の前では、私の大切なものをそっと奥に、彼の手が絶対に届かないところにしまいこむことにしたらしい。

一緒に映画を見たいと思わなくなった。見ても感想を言いたいと思わなくなった。本を貸したいと思わなくなった。本屋には着いてこないでほしいとすら思うようになった。

文字にするとただのメンヘラじゃねーかとも思う。

けれどそう感じてしまったので、しょうがいかとも思う。

理性のコントロールが効かない部分の、なんとまあ厄介なことか。辟易する。

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