筆者がお店に立ち寄ると、取材を通じて知った首都圏のアイヌの人たちとよく遭遇します。宇佐さんの5歳の娘も出迎えてくれます。
宇佐さんは言います。
「仰々しく入りづらいところにしたくなくて、食べたり飲んだりしながら交流してもらいたいんです。
この間、酔っ払っているおじいさんなんですけど、私が店の玄関にいたら、こっち見てにこにこしているんです。『お父さん、ウタリ?』と聞いたら、にこにこして、ずっと私の手を握ってしゃべってるの。酔っ払っているから半分何言ってるかわからないんだけど。
『お父さん、今度、ご飯食べに来てね』って言ったら。『うん』って言って、よたよたしながらどこかに帰っていった。そういうつながりを生みたくて、頑張っているんです」
アイヌだけでなく、アイヌの文化に興味がある人、何らかのきっかけでつながりを持った人、北海道に住んでいたことがあって、懐かしくて訪れる人――ハルコロには色々な人が集まります。一人でふらっと立ち寄り、相席させてもらうことが多い筆者も、ハルコロでずいぶん知り合いが増えました。
「最近は」と宇佐さん。「マンガの『ゴールデンカムイ』が人気だったりして、その中に出てくる料理を食べるオフ会を若い人がやったり、作者の野田サトルさんのサインもお店に飾ってあります」
『ゴールデンカムイ』という言葉が出た瞬間、私の後ろに座っていた女子学生2人が「おっ」と小さくつぶやきました。
その2人に授業が終わった後、「好きなの?」と聞くと、「私たちの間では、お昼を食べる時とかに『ヒンナヒンナ(食事に感謝するアイヌの言葉)』って言うのが流行ってます」という答え。2人はそのあと、宇佐さんに「ハルコロにはどんなメニューがあるんですか?」と色々尋ねていました。
『ゴールデンカムイ』は明治の北海道を舞台に、元軍人がアイヌの少女と一緒に繰り広げる冒険活劇マンガで、大ヒット中。今年4月にはアニメの放送も始まります。
確かにハルコロでも、ここ最近、若者のグループを見かけることが増えました。皆さん、神に供える「イナウ(木幣)」や、アイヌの楽器「トンコリ」などを珍しそうにみています。宇佐さんが、リクエストに応えてアイヌの楽器「ムックリ(口琴)」の響きを聞かせることもあります。
少しずつ、少しずつ、アイヌの文化への関心が広がっていることを実感します。
気軽にアイヌの文化に触れることができる場といえば、東京・中野で1994年から毎年開かれている「チャランケ祭」。アイヌ民族と沖縄出身者が始めた祭で、11月上旬の土日に開かれます。
ある時、アイヌと沖縄の男性が中野で出会い、意気投合しました。「アイヌ語では『とことん話し合うこと』を『チャランケ』と言うんだ」「おお、そうか、そういえば沖縄では『ちゃーらんけー』というと『逃げんなよ』という意味があるな」「そりゃ面白い」というやりとりがあったとかなかったとか。
「チャランケ祭」は場所の確保に苦労したこともありましたが、2017年も11月4・5日に中野駅近くの「四季の森公園」で開催されました。
初日は、土地の神に「お祭をここで開かせていただきます。見守ってください」とあいさつするために祈るアイヌの儀式「カムイノミ」で始まります。そのあと、沖縄、アイヌ、また様々な文化、民族の歌や踊りが続きます。2日目は、沖縄の伝統の儀式「旗揚げ」で終わります。大きな旗を太鼓や鐘、ほら貝の音と共に担ぎ上げて、世界平和を祈るのです。
最近では東京でも盛んになっている、太鼓を叩きながら踊る沖縄の舞踊「エイサー」のグループや、授業・行事で沖縄やアイヌの踊りを取り入れている保育園や幼稚園、小学校の子供たちの参加もあってにぎやかになりました。
もちろん、沖縄料理やアイヌ料理の屋台、民芸品などの屋台も出ます。宇佐さんもハルコロの屋台を出店し、歌や踊りで舞台にも毎年立っています。