連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第18週「女興行師てん」第98回 1月29日(月)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:本木一博

98話はこんな話
藤吉(松坂桃李)が亡くなって半年後、風太(濱田岳)とトキ(徳永えり)に赤ちゃんが生まれた。

「反魂香」はフラグか
生前親しかった人たちが、次々、藤吉の仏壇に線香をあげにやって来る。
亀井(内場勝則)、岩さん(岡大介)、リリコ(広瀬アリス)、万城目夫妻(藤井隆、枝元萌)、キースとアサリ(大野拓朗、前野朋哉)、栞(高橋一生)。

中で、亀井(内場勝則)が印象的だった。
てん(葵わかな)が、藤吉からもらった小鳥の根付を大事にもっているのを見て、「反魂香」という落語では、お香を焚くと死者が幽霊になって現れるから、小鳥の鈴を鳴らせば藤吉が現れるかもしれないと慰める。

「反魂香」は、上方落語では「高尾」で、団吾と団真のモデルになった桂春団治、その三代目が得意という縁もあるにもかかわらず、なぜ亀井は「高尾」のタイトルを出さないのかと思ったが、「わろてんか」の時代は、東京で「反魂香」として広がっていたようだ。その後、三代目春団治が得意とするわけですね。ドラマと史実がごっちゃになってきますが、それはさておき、朝ドラでは幽霊が出るのはよくあること。近年だと「べっぴんさん」(16年)や「とと姉ちゃん」(16年)、「あさが来た」(15年)などに出てきた。

亡くなった夫が出て来てインパクトがあったのは「あぐり」(97年)。野村萬斎が演じた夫が当時、大人気だったが、モデルになった人物が妻を残して死んでしまうことが事前にわかっていたため、ドラマの夫は死なせないでという嘆願がたくさん寄せられたそうだ。そのため幽霊で再登場させたのかもしれない。
ということで、過去の朝ドラのオマージュをちょいちょい取り入れている「わろてんか」だからこそ、藤吉が鈴の音で召喚されることを期待してみようではないか。

とはいえ、栞が「ぼくはあなたを支えていきます」
藤吉に見守ってほしいところだが、藤吉は生前、栞に手回しよく、北村笑店と、栞の会社と業務提携を結び、
てんが困らないようにしてあった。そういうところはよく出来た経営者。

栞にとって、藤吉は「はじめての親友」で、「そんなものくそくらえと思ってたが 藤吉と出会ってはじめてひとを信じようと思った」のだと言う。そんな藤吉と約束したから、「ぼくはあなたを支えていきます」「おてんさんがこれからたくさん笑っていけるように」と宣言する栞。目にはうっすら涙を浮かべて。
わりと唐突に、歯の浮くような台詞をまとめて語らされている高橋一生ではあるが、全力で、ここで最適であろうアクトを選択する。

松坂桃李の演じる藤吉が、一部の視聴者から、語尾が揺れることを指摘されていた。心にもないことを言うとき、語尾に笑いを入れて誤魔化す経験は誰もがあるだろう。松坂の藤吉はそんな感じだった。松坂は正直なのだと思う。
高橋が正直ではないというわけではなく、俳優としての育ち方の差異であろう。子役出身で、脇役時代も長く、舞台にも多く出演してきた高橋は、ここはこういう世界観だから、と割り切って、努めきることを知っているように感じる。
対して、主役育ちで、アンチ様式的な芝居にも多く出ている松坂は、戦隊ヒーローとかガッチャマンとか霧隠才蔵とか様式美を求められるものもやっていたにもかかわらず、そこに染まりきらないところが魅力の、ユニークな俳優である。世界に少し背を向けて、語尾を曖昧にする彼の薄ら笑いは、悪役のとき強烈に輝く。

おトキがツヤッツヤ
藤吉が亡くなって半年後、おトキが出産。
家からズッコケながら飛び出してくる風太、長屋の人たちも盛大にズッコケる。
ズッコケは「わろてんか」の1話でもやっていた。
ここからまた心機一転はじまりまっせという気合であろうか。

生まれた子は女の子。藤吉とてんは、男でも女でもいいように「飛鳥」という名を考えていた。
男の子で、藤吉の生まれ変わりみたいにしなかったことにはホッとした。

おトキのお顔がつやっつやで、それを見ているてんの肌は乾いている。てんがいつまでも幼く見えるという意見もあるが、こうして見ると、徐々に老けていっているのがわかる。老け役をやるときに気をつける点のひとつとされる、目の開け方にも気を配っているようだ。
おトキはてんと年齢は近いがちょっと上だと思うが、年齢が逆転してしまっているような・・・。

今日の、わろ点
リリコの「あんたを見てると悪口しか思いつかん」という台詞。
「わろてんか」を見て悪口(意見)ばっかり言ってる一部の視聴者の代弁のようだ。
てんは、リリコに負けずに「私も」と返す。なかなかたくましい。
泣いても笑ってもあと2ヶ月。
これから最終回まで、どんなふうになっていくのか。なんだかんだ言いながら、毎朝見てしまうのである。
(木俣冬)
イラスト/まつもとりえこ