▲亙重郎プロデューサー(写真右)、鈴木誠ディレクター(写真左)。
原作者自らの手で練り上げられた、ゲームならではのシナリオ・世界観
――まずは『バーチャロン』シリーズと『とある魔術の禁書目録』(以下『禁書』)のコラボがスタートした経緯から振り返ってもらえますか?
亙 『バーチャロン』で新しい何かを伴った展開ができるといいよね、と考えていた時期があり、ちょうどそのころ『電撃文庫 FIGHTING CLIMAX』のアーケード版のお手伝いをしていた縁がきっかけでした。
電撃文庫さんの各IPの特徴を勉強させていただき、『禁書』はスピンオフでロボットに乗って大立ち回りを演じたりするなど、懐の広い自由な面白いIPだなと感じまして。『バーチャロン』で何かやるんであったら『禁書』さんに頼んでみるのはアリかなと。
そこで相談したら、二つ返事で「やりましょう」となりまして、最初は小説から始まり、それがなんとかゲームまでつながった……という感じです。
――コラボ前の段階で原作者の鎌池さんは『バーチャロン』はプレイされていた?
亙 じつは鎌池さんは『バーチャロン』に限らず、ロボットアニメ、ゲームといった方面(の知識)はあまりお持ちでないようでした。ただすごく勉強熱心な方で、『バーチャロン』の世界観をきっちり把握してくださって、小説の方でも『バーチャロン』側にかなり踏み込んだ記述もしていただきました。
鈴木 小説側の人は「久々に爽快な『禁書』が読めた」と言ってくださる一方で、バーチャロン側の人間は「これバーチャロンじゃん。『禁書』の人たちはいいのこれ!?」と戸惑っちゃうぐらいで。
亙 『バーチャロン』の世界を取り込んだ物語として楽しめてしまう、そこはやっぱり鎌池さんの力量だと思います。仮に最初は全然知らなくても、才能がある人が書けばちゃんとしたものになるんだな、ということを見せつけられました。感動しましたね。
鈴木 こちらへの質問も最後の方は「ゲーム中のこの時期に起きたこの事件の被害の規模、人数は?」みたいな、きわどい質問が多く来てましたよね。『バーチャロン』の世界を深く知ったうえで物語を書きたいという強い想いを感じました。
――『とある』シリーズのどのキャラクターが登場し、どのバーチャロイド(機体)に乗るかは、小説版の段階で鎌池先生が決めたのでしょうか?
亙 鎌池先生が決めたのもありますし、こちらから「このキャラクターはこの機体が合うんじゃないですかね?」と提案したものもあります。
たとえば美琴は最初はグリス・ボック、ミサイルがメインウェポンの機体に鎌池先生は乗せるつもりだったみたいですが、美琴さんはパブリックイメージとして、ライデンの方が合ってるんじゃないですか? と私のほうから提案させてもらって、ライデンに落ち着きました。
▲各機体に搭載されている必殺技的な攻撃、”ブーストウェポン”は搭乗するキャラクターの能力をイメージしたものになっている。御坂美琴の場合は威力、弾速に優れたレールガンを発射する
――公式サイトで公開されているPV内で、上条当麻が「覚えているのは俺たちだけ……」みたいなセリフを言っていますが、あれは小説版の話と認識していいのでしょうか? 今回のゲーム版のお話は、小説版から世界がループしている?
亙 当麻が言っているのは小説での話で間違いないです。でもループしているんじゃなくて、(小説版で)世界がいちど組み替えられたというか……。くり返される世界というよりは書き替えられていく世界と思っていただければ、あまりイメージから外れないと思います。
――ストーリー面のボリュームは原作の小説とはいかないまでも、けっこう読み応えのある感じでしょうか?
鈴木 それなりのボリュームがありますし、テキストを読むというよりはキャラクターはフルボイスでしゃべりますので、会話劇として成立しています。
亙 今回は鎌池さんがシナリオのプロットをけっこう凝ったものにしていまして、いろんな時系列でいろんなキャラクターがその都度主人公になって、いろんな事件に遭遇していく形です。
一見すると話があちこち飛んで、バラバラの話に思える進行なんですけど、通してプレイしていくとこの話はこことここの間に入るんだなというのがわかってくる、パズル的な楽しさもあります。単に読み進めていくだけではない、ゲームというメディアに合った面白さを鎌池さんが作り出してくれたんだと感謝しています。
――『とある』シリーズのお話が読みたいというモチベーションでゲームを買っても、十分満足できる質と量がある?
亙 そうですね。ひとつ、ポイントとしては旧約や新約という『禁書目録』のメインストリームがこれまで何十巻も出ていますけど、その話の中でこのキャラとこのキャラは絶対同じ場所、同じ時間にはいない、みたいな組み合わせがありますよね。
ところが今回のゲームでは組み替えが起こったパラレルワールドなので、そういった「ありえない」組み合わせがしれっと成立していたりしています。その辺は鎌池さんのさじ加減でかなり面白く構成されていると思います。
今までのバーチャロンとは異なる楽しさと驚きを提供したい
――今回トランジションというアクションが追加されていたり、勝敗を決めるのがポイント制に変わっていたりしますが、これらを導入した狙いは?
亙 いままでの『バーチャロン』とは違うものにしようというのは最初から考えていました。これまでの『バーチャロン』も、新作が出るたびにゲームスタイルが新しく変わっていく、そういうものだったのでしたし。そこで今回はシームレスなノンストップバトルを楽しんでもらいたいというのをテーマにして、そのために入れたのがトランジションです。
クルマでいうとニュートラルシフトをイメージしてもらうといいかもしれないですね、トランジションからダッシュであったりジャンプ、攻撃へとシフトチェンジしていく、状況に応じて切り替えて戦いを楽しんでほしいなと。まずはそこ(トランジション)に行動を集約し、そこから臨機応変に分岐させるというマトリックスに構成し直しまして、結果、遊びかたや楽しみかたがこう変わるんだ、というところを感じていただければありがたいです。
――公式サイトのポイント制の説明を読むと「今回は1発当てて逃げ回って勝つのは難しいですよ」っていうメッセージが暗に込められている気がするのですが?
亙 過去作、とくに『電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム』あたりは機体の運動性能と弾の性能の間で、相対的に前者が勝っているバランスになっていました。開始直後に1発当てたら、あとは移動し続ければ勝ち、そういう面があったんです。
ただ、そういう風に勝ちだけを希求するスタイルに遊びが集約されてしまうと、最終的には枯れてしまうという危惧を抱きつつ、ブレイクスルー可能なソリューションを模索していました。
今回はトランジションを軸として多彩なアクションの選択肢を用意し、起伏の激しいゲームの中でポイントを取ったり取られたりという流れを作る、それをユーザーに楽しんでもらうという部分に気をつけました。ポイントシステムやヒットクロックは、そういう思考の果てに生まれたアイデアだと思っていただければ。
――なるほど。”トランジションを軸にした多彩なアクション”の具体的例を教えてください。
亙 ダッシュは直線ですけど、トランジションは相手の位置を見ながら円弧を描く軌道でドリフトするようなイメージです。ダッシュと違うのは、相手を見据えながら次の行動に移る時間を稼げるところですね。
たとえば相手のライデンがこちらの移動を予測して撃つレーザーの偏差射撃に対して、撃たせてから切り返す、その直後に前ダッシュで突っ込んでいく……なんていう動きがシームレスに行なえます。
そういう動きの流れをイメージして、戦いをクリエイトしていく楽しさが、トランジションという手段にある、と捉えていただければ、いろいろ遊びようはあると思います。すでに体験版で動画を上げている方が、近接攻撃からダッシュを(トランジションで)キャンセル、そこからまた近接攻撃みたいな、相手の回りをグルグル回りながら攻撃する、かなり強烈な連続攻撃をされていたりもします。これもアリだなと。単発のアクションではなく、爽快感のある流れを自分なりに組み立てていけるのが今回のウリのひとつです。
▲本作のアクションの核になるという”トランジション”
――ダッシュ→トランジション→ダッシュみたいな、トランジションをキャンセルで挟むアクションに回数だったりの制限はあるのでしょうか?
鈴木 ないです。やろうと思えば永遠にできます。トランジションはジャンプ中や、空中にいるときもできますので、かなり立体的に動けますね。
亙 いろんなコマンド技があるのではなく、自分で動きをイメージして作っていって、自分の当てたい弾、決めの一撃が成立するような流れを作っていく、そういうゲームになるんじゃないかなと思います。
――自分みたいに昔ちょっと『バーチャロン』をやってましたというプレイヤーだと、ダッシュをジャンプでキャンセルするのをやって、「バーチャロンっぽい!」と言うところで満足していました。
亙 今回のゲームだとジャンプキャンセルは不利になってしまうことが多いかもしれません。その場で止まっているあいだ、相手はトランジションで動き回っていつでもアタックできる状況なので。昔の流儀でやろうとするとけっこう戸惑う人がかなりいると思います。
――お話を聞いていると、懐かしさで勝負するのではない、思った以上に”攻めてる”ゲームだと思いました。
亙 そうですね、無謀ともいうんですけど(笑)。
鈴木 東京ゲームショウに出展したものと体験版でもトランジションの仕様はかなり変わっていて、トランジションからつながる攻撃、アクションはけっこう取ったりつけたりして現在もいろいろ試しています。
『禁書』ファンでも安心して遊べる難度に
――ゲームモードの質問に移りたいのですが、今回はミッションのボリュームがかなりあるようで、その中からエクスプロージョン・コードとボスミッションについて教えてください。
亙 エクスプロージョン・コードは、球のような物体、コードを身につけてゴールに飛びこめば得点という、ラグビーのようなスポーツゲームっぽいノリのミッションです。
単純に倒したり削り合ったりするゲームではない遊ぶ方もあっていいんじゃないかと思い、恐る恐る入れてみたという感じですね。
ボスバトルは、CPU戦ではそういうメリハリがあったほうがいいというのがあって。巨大な敵をみんなで倒そうよという遊びです。
――過去の『バーチャロン』でも、巨大ボス、ヤガランデなんかは印象に残っています。
亙 『電脳戦機バーチャロン フォース』のときも、ヤガランデが複数出てくるミッションは好評だったので、その辺を踏襲して、あるといいなと思って入れています。
――ちなみにヤガランデが登場することは……
亙 今回は鎌池さんが用意した中ボス、巨大なタイプの敵がいるので、その席は空いていないんですよ。ヤガランデ君の居場所がない。お話の整合性が取れなくなるので。
――CPU戦の難易度はどんなものでしょう? たとえば機体をチューンアップして性能を上げられるアーケードモードなんかは、過去作を遊んでいたプレイヤーでもチューンナップを使わないとクリアーできないような難易度の戦いも存在する?
亙 いやあ、それはわかりません。我々もプレイヤーのスキルの上限がわからないので。
鈴木 一回、これは絶対にクリアー不可能、みたいな難易度のCPUレベルも作ってみたんですけど、それは姑息になりすぎてて、ちょっと違うなと。
亙 あとは対戦じゃないゲームモードって、『とある』シリーズから入ってきたユーザーも遊ぶ可能性が高いものなので、仮に高難度にして「クリアできるか? やってみろ」系のミッションばかりにすると、どん引きされちゃうと思うんですよ。
鈴木 そこは社内でいろいろ調整を確認していて、別の部署の人にもプレイしてもらったりしているんですけど、その中で質問というか「この難易度で『バーチャロン』に慣れていない『禁書』のファンがクリアーできると思っているんですか!?」みたいな、お叱りのレポートもいただいていて。
――(笑)
鈴木 その辺はやっぱり、初心者の人でも『バーチャロン』が好きになってもらえるような難易度にしています。
亙 体験版は旧作からの歴戦の戦士、みたいな人たちにとって、かつて自分の使っていた機体がどうなっているのかが一番気になるところだと思ったので、今回実装予定の全キャラ出して「いかがですか?」としたほうがフェアだなと。
鈴木 とはいえまだ最終的な部分、人対人の対戦はまだ見せていないので、そこを楽しみしていただければなと。
▲体験版ではチュートリアルと、本作に登場する全13機体を操作してCPUと戦うことができる
亙 体験版で出ている意見の大半は開発の段階でもわかっていたことなので、順次対応は進めていくという状況です。こう言ってしまうと、もっと危ないテクニックやバグを探し出してやる!と思う人もいるかもしれませんが(笑)。
――一定ダメージを受けるとダウンする仕様なので、絶対抜けられないハメみたいなものは生まれなさそうな気はします。
鈴木 その点はロケテストじゃないんですけど、開発スタッフだけでなくプレイ専門のチームがいてクオリティを確認する体制を取りました。
亙 皆さん、かなりの凄腕ぞろいで、30分もプレイしないうちに「はい、ハメ技発見!」と危ないテクニックを見つけて説明してくれました。ただ、指の動きが速すぎてトレースできない(笑)。モニターのキーログを見て「ああ、確かに理論上はできるわ」となったりすることも多かった。プレイ専門のチームが入った最初の1ヶ月は大変でしたね。そういうのが出るわ出るわで (笑)。
――時代的に『電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム』や『電脳戦機バーチャロン フォース』の対戦って動画があまり残っていないので、トップレベルのプレイヤーが戦ったらどうなるのかは気になります。
鈴木 バシバシ動画を上げてもらいたいですね。そういうのもあって録画禁止にはしませんので。
――1対1と2対2で対戦の内容はかなり違ってきますか?
亙 1対1の方がストイックにはなりますね。2対2はちょっとパーティーゲーム感が上がるというか。今回は2対2の対戦であっても『電脳戦機バーチャロン フォース』のようにテンポは落としていないので。
鈴木 今回はもちろん1on1の新しいバーチャロンを見せるというのと同時に、このハイスピードの2on2ってなに? っていうのも大きなテーマです。
――最近のゲームっぽく、発売後のアップデートやダウンロードコンテンツも用意されている感じでしょうか
亙 まあそのあたりは、いまどきのタイトルだしなと。逃れられないと思っております。
鈴木 そういう中から面白いものが出てくる、出すために我々も右往左往している感じです。ゲームを買っていただいた方はその辺も期待しつつ、オンライン対戦で存分に戦っていただいて、待っていただければなと。
――では最後に読者に向けて、メッセージをよろしくお願いします。
鈴木 『禁書』のアニメに出てこなかったキャラクターが登場していたりですとか、音声収録やその他の面でも鎌池さんにはかなりご協力いただいているので、『禁書』の物語としてもかなり魅力的にできていると思います。
(バーチャロイドに)乗らないほうが強いよ!と思われてるファンの人もいるかと思うのですが、じつはその疑問は鎌池さんもわかっていて、その理由づけも含めてストーリーのしかけになっているので、ぜひぜひお話も楽しんでいただければと思っております。
亙 15年ぶりの新作ということで、『バーチャロン』側の人には本当にお待たせしてしまいましたという感じです。『禁書』側の人には久しぶりに『禁書』のゲームが出ます。変わった形ですけど、鎌池さんと作り込んでいるので『禁書』としての味わいは損なわれていません。絶対に楽しめると思います。
アクションとして、物語として、小説とは違った形で『禁書』でもあり『バーチャロン』でもありという、そういう体験ができる物になっていますので、ぜひ触っていただければと。
『電脳戦機バーチャロン×とある魔術の禁書目録インデックス とある魔術の電脳戦機』公式サイト
©SEGA CHARACTER DESIGN:KATOKI HAJIME
©2017 鎌池和馬
キャラクターデザイン・原作イラスト/はいむらきよたか
Licensed by KADOKAWA CORPORATION ASCII MEDIA WORKS
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