歯切れが悪いのは仕様です。
2018-02-02
■[学問]「日琉語族」を考える場合「琉球語」は複数ある—「琉球諸語」の話
はじめに
先日「アルタイ語族」についての記事で下記のように書いたのですが(現在は修正済み),
日本語と系統関係がはっきりしているのは琉球語のみ(琉球語を独立した言語と考えない場合は「孤立した言語」扱い)
その後「琉球語」で少し検索をしてみたところ,どうも「琉球語」を単独の言語のように捉えている人がそこそこいるような印象があり,まずいかなと思って上記の記事の該当箇所を「琉球諸語」に書き直しました。
というわけで,せっかくなのでこの記事では簡単に「琉球諸語」,つまり複数の言語からなる琉球の言語グループについてごくごく簡単に紹介してみようと思います。
トマ・ペラール氏の分類
Wikipediaの「琉球語」の記事はかなり充実していますし,文献もいろいろ引かれていて良いですね。
ただ,見る前からなんとなく予感はしていたのですがノートは荒れています…
私がさいきんの日琉語族や日琉祖語に関する研究・話題で信頼している研究者の一人としてトマ・ペラール (Thomas Pellard)氏がいます。
その著作から琉球諸語の分類を紹介します。
琉球諸語の系統分類に関する近年の研究によってUNESCOの言う「国頭語」が歴史・系統的に一つの分岐群ではないことが明らかになっている(文献情報省略)。すなわち上の分類(dlit注:UNESCOの分類)で国頭語に含まれていた南奄美諸方言が奄美語に,北沖縄諸方言が沖縄語に属するのである。
一方,八重山諸島の中に相互理解を欠く方言が存在することも報告されており,おそらく「八重山諸語」を認めるべきである。筆者はとりあえず奄美語・沖縄語・宮古語・八重山語・与那国語という5つの琉球語を認める立場をとっている。八丈語も認めるべきであるが,その系統的な位置はまだ明らかにされていない。
(ペラール・トマ (2013)「日本列島の言語の多様性—琉球諸語を中心に」『琉球列島の言語と文化 その記録と継承』, p.83,強調はdlit)
掲載されている書籍はこちらです。
- 作者: 田窪行則
- 出版社/メーカー: くろしお出版
- 発売日: 2013/11/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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このように分類にはいくつか説がありますが,「琉球語」を日本語とは独立した言語として考える場合,複数の言語からなる「琉球諸語」として考えるのが標準的な見解と言って良いと思います。で,日本語と合わせて「日琉語族」になるわけですね。
もう少し補足で引用を。
方言と言語の区別は簡単な問題ではなく,政治や歴史の背景が必ず深く関わってくる。特に日本の場合,日本は一文化・一民族・一言語の国だという考え方がいまだに根強く,多様性そのものが否定されることもある。
(中略)
琉球諸語は基礎語彙を80〜85%共有している一方,日本語とは70%ほどしか共有していない(文献情報省略)。琉球諸語と日本語とのこの距離はロシア語・ポーランド語・ブルガリア語・セルビアクロアチア語等を服務スラヴ語族内の多様性に近い。また,ドイツ語とオランダ語との距離やスペイン語とポルトガル語との距離よりも大きい。
(ペラール・トマ (2013)「日本列島の言語の多様性—琉球諸語を中心に」『琉球列島の言語と文化 その記録と継承』, p.83,強調はdlit)
この前後にも重要なことが書いてありますので,興味のある方はぜひ。人類学・考古学の研究との関連についても簡潔に触れられています。
また,日本語と琉球諸語の分岐等より詳しい話について興味のある方は,より新しい下記の本に掲載されている同氏の論文が参考になるでしょう。
- 作者: 田窪行則,ジョンホイットマン,平子達也
- 出版社/メーカー: くろしお出版
- 発売日: 2016/04/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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従来の様々な節にも積極的に言及していて,レビュー論文としても有用なものだと思います。琉球語と気になる人の多いであろういわゆるP音(「母(はは)は昔パパだった」というアレ)についてもけっこう詳しく書いています。
ただ,こちらの本はかなり専門的なので言語学や日本語学に詳しくない方が読むのはしんどいかもしれません。
また,氏はAcademia.edu等でも積極的に書いたものを公開してますので,フォローしているといろいろ読めます。
おわりに
琉球諸語は今研究がどんどん進んでいるので,これからいろいろ面白い進展があると思います。動詞の活用とかものすごくおもしろいんですよ(突然なんだと思われるでしょうが一応私は活用研究が専門なので)。楽しみですね。
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