憲法改正論議が盛り上がってきた。安倍晋三首相は1月30日、自分が提案した9条改正案について、国会で「いままでの政府解釈と同じ」と答弁した。立憲民主党は昨年末、憲法改正に関する考え方を発表している。何が問題なのか。
憲法改正は9条だけでなく緊急事態条項の新設、教育無償化、選挙制度、解散権の制約など幅広い論点が提起されている。なかでも焦点は9条の扱いだ。安倍首相は昨年5月、9条1項と2項は残して、新たに自衛隊を明文化する案を提案した。
これを受けて自民党は昨年末、改正の方向性を(1)9条1項と2項を残して自衛隊を明記する案と(2)9条2項を削除し、自衛隊の目的・性格をより明確化する2つの案に整理した(https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/136448_1.pdf)。
(1)は安倍提案であり、(2)は国防軍創設を掲げた従来の自民党改正案を受け継ぐ石破茂衆院議員らの主張に沿った内容だ。まず、肝心の憲法9条1項と2項を確認しよう。
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。(戦争の放棄)
2 前項の目的を達するため、陸海空その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。(戦力の不保持と交戦権の否認)
突き詰めて言えば、自民党の議論は2項を維持するか否かが焦点だ。
2項削除を求める論者は、戦力不保持と交戦権を否定したまま自衛隊を明記すれば「自衛隊は戦力でないことになる」「交戦権を否定するなら自衛隊は戦えない」と主張する。つまり「2項と自衛隊が矛盾する」という話だ。現行の矛盾を放置する案とも批判する。
これに対して、2項維持派は「自衛隊は合憲」と主張してきた歴代政府の考え方をそのまま踏襲している、という。実際、安倍首相は30日の衆院予算委員会で「2項を残す私の提案はいままでの政府の解釈と同じ」と答弁した。
首相は同じ答弁の前段で「9条2項を変えることになれば、全面的な集団的自衛権行使を認めることも可能になる」と述べた。どういうことか。
政府は集団的自衛権に基づく武力行使について、安全保障法制で「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」「他に手段がない」「必要最小限にとどめる」という3つの制約を課した。「だから限定的であり、全面的な集団的自衛権行使ではない」と説明してきた。
その大本は、9条2項で戦力不保持と交戦権を否認しており「日本は専守防衛に徹するからだ」という理由だった。もしも2項を削除して自衛隊を明記すれば、集団的自衛権行使に制約がなくなって「全面的行使が可能になりかねない」というのが首相の説明である。
ここは、これからも議論になるだろう。