◆青葉のキセキ−次代を歩む人たちへ− 第2部 傷を抱えて 優楓 寄り添う心(下)

(資料写真)スマートフォン

 「受験勉強を頑張りなさい」。2016年秋。当時中学3年だった佐久間かざり(15)は受話器の向こう側で発せられた的外れな一言に脱力した。「いじめられてる人に頑張れって言うなんて」。いじめ相談ダイヤルの実態を調べようと、当時高校3年の島尻優楓(ゆか)(19)と共に全国60以上の相談機関に電話をかけていた。

 大半の窓口が、孤独や不安に襲われやすい深夜は時間外。かざりが学校にいる日中しか相談を受けつけていなかった。

 「24時間対応」とうたう窓口も、深夜に何度ダイヤルしても通話中。つながっても警察の電話番号を読み上げる録音が流れ、メモしてかけ直すと電話をとった警察官は番号を案内されていたことを知らなかった。

 ただでさえ会員制交流サイト(SNS)に慣れ親しんだ10代に電話相談のハードルは高い。「すがる思いで電話してこんな対応ならもっとつらくなるだけ」

 学校や家族に頼れない10代が、「力になりたい」と思ういじめ経験者ら相談員にすぐつながるスマートフォンアプリを−。いじめ相談の実態を目の当たりにし、かざりと優楓は一緒に立ち上がる決意をした。

 ただ資金や技術、人脈もない2人は全てが手探り。まずインターネット上で全国のいじめ経験者にアンケートを募った。NHKの教育番組でも紹介され、活動に賛同する全国のいじめ経験者との交流もできた。

 アプリはいじめにあった当事者に「カルテ」を記入してもらう仕組み。埋もれがちな「いじめの証拠」を残せる上、何度もつらい話をせずに済む。

 カルテを基に似たような経験をした相談員がリストアップされ、当事者が「相談したい」と思った時すぐチャットか電話で話せる。相談員が仕事などで手が離せなければ、先に「あなたの味方だよ」など文字が入ったイラストを送る。「悩みを打ち明けたい」と感じてから相談員につながるまでのブランクをなくしたいからだ。

 賛同したエンジニアの協力で年内に試作品ができる見込み。「正直言えば社会に向けて何かを発言するのは怖い。いじめに向き合うのも皮膚をはぎ取って何度も傷をえぐるような作業」。優楓は言葉を選びながら、でも、と続ける。「私が経験を話すことで一人でも多く、いじめの悩みを打ち明けやすくなるような環境ができればいい」

 心の傷は癒えても、消えることはない。アプリ開発は過去の苦しい記憶から自分を救うためでもある。「いつか、いじめた彼女たちと笑い合える日が来るといい」。そう願っている。=敬称略(社会部・篠原知恵)

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