あなコン/類書との比較表評判やウェブでの情報だけだと「似てるんじゃないか?」「どう違うのか?」とよく質問を受けるので、 こちらに簡単ですが勝手に比較表を作ってみました。選ぶ際の参考にして下さい。
結論から言いますと、これら3冊はまったく別の本だと思って間違いありません。 同じ素材を使いながら、 フレンチ、中華、和食と別物ができ上がっているようなものと考えてください (どれが中華やフレンチなのかは別として)。 というわけで、迷った場合には3冊全てを立ち読みした上で判断するか、 3冊とも買ってしまうのがいいと思われます。 なお、この2冊の他に拙著の比較対象に含めるべき書籍がありましたらご連絡下さい。「痛快!コンピュータ学」あたりでしょうか。
上の表は客観的データですが、 ここからは私の主観の混じった評価となります。上記の表と区別してお読み下さい。 「プログラムはなぜ動くのか」 †さすがベストセラーだけあり、各項目がそつなく説明されています。 プログラマ向けのため、他の2冊にはない論理演算やアセンブリ言語、スタックやキュー、 2分木などのデータ構造、さらには疑似乱数を使ったゲームプログラミングまで話題はかなり豊富です (それが逆に、ちょっと詰め込み気味という印象を与えているのかもしれません)。 その一方で、私の目からは不十分と思える点もいくつかあります。 せっかくハフマン符号によるデータ圧縮の話をしながら、 可逆圧縮の場合にどこまでデータが押し込めるかの限界を示す情報量やエントロピーについて何も触れていません。 ビットやバイトの定義も通り一遍です。 メモリとディスクの関係についての5章では、 できればその上にも下にも階層構造が広がっていることも説明した方が理解がより深まると思います。 また、コラム「あなたなら、どんなふうに説明しますか?」についても、 私ならまた別の説明をするだろうというのが大半です (まあ、私が比喩を使い過ぎなのかもしれませんが)。 そして何よりも、英語のタイトルが示すようにこの本は"How Program Works"、 つまり「プログラムがどのようにして動くか」について書かれた本であり、 決して「なぜ」動くのかを説明しているわけではない点には注意が必要です。 もし「なぜ動くのか?」と問われたら、 私は「そんなの、動くように作ってあるからだ」という1行の答えしか返せません(それが正解だと思います)。 おそらく、著者の矢沢氏もそれを承知していて、 英語タイトルだけは中身をより正確に反映したものにしたのでしょう。 「コンピュータのきもち」 †まさに山形氏にしか書けない内容が満載です。 拙著に比べて、コンピュータについてのかなり具体的な話題が多く、 コンピュータの進化の各時代での雰囲気やイメージを掴みやすくなっています。 上の表からもわかるように、縦書きで説明用イラストは索引はありません(写真はそこそこあります)。 読み進めて調子が出るころに終わってしまい、ちょっとボリューム不足なところが残念です。 目次を見ると、拙著と似た項目がずいぶんありますし、 対象とする読者は2冊ともコンピュータの初心者ですが、 実際に読んでみると、重なっているのはキーワードだけで内容は完全に別物です(別の著者なので当たり前ですが)。 これら2冊のスタンスの違いは、まとめの章やあとがきにある言葉に集約されています。 山形氏によると 「コンピュータは、あなたに自由をもたらすための道具なのだ」
であり、私は 「コンピュータとは、人類やあなたの知性を映す鏡である」
と思っています。 自由のための道具か、知性を映す鏡か。あなたはどちらだと思いますか。 さて、山形氏自身もおっしゃっているように、 「コンピュータのきもち」で根本的な一部の話題を「避けてネグった」点は、 ちょっともったいないと感じます。 もう少し分量の多い本で、ぜひ山形氏なりのコンピュータ理解について披露していただきたいところです。 拙著「あなたはコンピュータを理解していますか?」 †原理、根本という観点から最も深いところを果敢に攻めていると思えるのは、やっぱり本書です。 雑誌での連載や著者の知名度という武器を持っていなかった本書では、 純粋に内容の充実度とボリュームだけで勝負せざるを得ませんでした。 その成果はお読みいただいた皆さんの判断にまかせますが、 筆者としての正直な気持ちとして、これで1780円は間違いなくお買得であると思います。 拙著では本文はもちろん、参考図書についてもかなりの力を注ぎました。 単に本のタイトルの羅列ではなくて、私がその本を読んでどう感じたか、 どういう人にお薦めなのか、取り上げた21冊全てにかなり長めのコメントがつけてあります。 拙著は私が「面白い」と思う事柄だけについて書いたので、 それを私が読めば当然「面白い」と感じます。 つまり、手前味噌なのは承知で書きますが、この3冊の中で私にとって一番「面白い」のは拙著なのです。 矢沢さん、山形さん、どうもすみません。 うーむ、こんなので選ぶ際の参考になるでしょうか。 |