こんにちは。私は相続を生業としている弁護士や税理士等の専門家で組織された協会、相続終活専門士協会の代表理事を務める江幡吉昭と申します。本連載では、我々が幾多の相続案件の中で経験した事例を何回かに渡ってご紹介したいと思っています。
伝えたいことはただ一つ。どんな仲が良い「家族」でも相続争いに巻き込まれると「争族(あらそうぞく)」になってしまうということです。そこに財産の多寡は関係なく、揉めるものは揉めるのです。そうならないために何が必要なのでしょうか?具体的な事例を基に、考えてみたいと思います。
今回は遺留分に配慮しない母の遺言をきっかけに、兄(長男)と妹(長女)が争う族に発展してしまったケースです。
●登場人物(年齢は相続発生時、被相続人とは亡くなった人)
- 被相続人 母(88歳、埼玉県在住)
- 相続人 長男(63歳、埼玉県在住)
- 相続人 長女(60歳、埼玉県在住)
●遺産 自宅4000万円、アパート2棟(合計1億円)、現預金3000万円、ほか土地を複数保有
今回の争う族は、遺言が引き金になって揉め事が起きてしまったケースです。
亡くなった母は、埼玉のある地域の地主に嫁ぎました。夫の死亡時にアパートを2棟と駐車場などの不動産を複数引き継ぎました。一般的に遺言を準備しているのは10%前後と言われていますが、今回のお母様は子ども(兄=長男、妹=長女)のためにきちんと遺言を準備していました。しかし遺産争いは、相続発生後に遺言書を開いてから起きました。
遺言は公正証書遺言でした。遺言には、長男には現預金500万円程度を相続させるのみで、主だった財産のアパートや現預金、そして自宅もすべて長女に遺すという内容でした。しかも遺言執行者には長女が指定されていました。遺言執行者とは、遺言の内容を実行するために必要なすべての作業(相続財産目録の作成や不動産の名義変更、そして銀行などでの預金解約手続きなど)をする権限が与えられています。
財産がたくさんあるにもかかわらず長男に相続させる部分は少なく、遺留分(相続人に法律上確保された最低限度の財産)を明らかに侵害するような内容でした。当然のことながら、長男は驚き、怒ります。遺言の付言事項にはとくにその理由が書かれていませんでした。長女は「お兄ちゃん(長男)がお母さんに散々、迷惑をかけてきたから」と言い出す始末です。
長男はいわゆる放蕩息子でした。若いときはきちんと学校に行かず、遊び呆けており、成人して職を転々としていたそうです。その後、長男は突然、居酒屋をフランチャイジーとして経営を始めました。しかし、その居酒屋で問題が起き、フランチャイザー(加盟本部)に対して違約金が発生するような形で居酒屋業を廃業するはめとなりました。
その時の違約金もすべて母が面倒をみたという経緯もあり、長男には生前に十分にお金を使ったでしょうということで、母は妹(長女)の方に多くの財産を譲ったのではないかと長女は考えていました。
理由を書こうと念書を取ろうと、揉める時は揉める。専門家に相談しても、揉める時は揉める。それでも専門家に相談というなら、それだけの納得できる理由を書くべき。今の内容では、高額の依頼料分が損になるので専門家には相談しない方がマシという印象しかない。
コメントが荒れるのは高い関心のためであり、その関心に応えずむしろ混乱させているからでは。(2018/02/01 18:18)