BBCの女性たちに「遠回しの脅し」 賃金平等めぐる質問で
BBCで働く女性たちが賃金平等の話題を取り上げようとすると、「遠回しに脅され」ていたことが明らかになった。BBCの女性スタッフ組織が30日、英下院委員会に報告書を提出した。
31日に開かれる下院デジタル・文化・メディア・スポーツ(DCMS)委員会の公聴会に先立ち、150人以上の女性が証拠となる報告書をまとめた。
これとは別に、監査法人PwC(プライスウォーターハウスクーパース)がキャスターや特派員、テレビ出演者の給料や多様性の評価を実施した。
BBCメディア担当編集長、アモル・ラジャン記者によると、BBCはニュースキャスターの給料に対して、32万ポンド(約4900万円)の上限設定を提案している。
BBCが一部の出演者に払っている高額報酬が昨年夏に公表されて以来、組織内の賃金格差が問題になっている。
今回の変更で影響を受ける人はごくわずかだが、テレビ出演者の給料の大きな見直しの一部となる。
ラジャン編集長によると、32万ポンドの上限案はまだ完全には合意も署名もされておらず、フルタイムで働くテレビ出演スタッフにしか適用されない。変更の対象はキャスターや編集者、特派員で、回答まで猶予期間が与えられるという。
テレビに出演する従業員が、娯楽番組への出演などBBC関連の他の仕事で給料を得られるかどうかは不明だ。
今月半ばには、BBCの著名男性キャスター6人(ニッキー・キャンベル、ヒュー・エドワーズ、ジョン・ソープル、ジェレミー・バイン、ニック・ロビンソン、ジョン・ハンフリーズ各氏)が給料の減額に同意した。
DCMS委員会のデイミアン・コリンズ委員長がBBCラジオ4の番組「トゥデイ」に出演し、32万ポンドの上限では自分の懸念は完全には解消されないと話した。
コリンズ委員長は、「この変更で実際に影響を受けるのは、比較的少数だ」と語った。
「他のBBC海外担当編集長と同額の給与を得ていないという、キャリー・グレイシーの苦情を思えば、新しい賃金の上限設定は問題に対応していない」
コリンズ委員長は、ニュース以外の娯楽やスポーツ番組の出演者たちの賃金格差についても取り上げた。
議員は「大勢があれを見て、『どうしてギャリー・リネカーが、クレア・ボールディングの何倍もの給料をもらっているんだ』と言うだろう」と話した。
リネカー氏はサッカーの元イングランド代表主将で、BBCのスポーツ・キャスターなどを務めている。ボールディング氏は英国で人気のBBCスポーツ・キャスター。
「ボールディング氏も、BBCで色々な番組に出て、スポーツを幅広く取り上げて、(リネカー氏と)同じ価値のある仕事をしているいと、大勢が言うだろう。だからこそ、もっと幅広い見直しが必要だ」と、委員長は指摘した。
「不信任」
全英ジャーナリスト組合(NUJ)と、BBCの女性記者やプロデューサーを代表する団体「BBC Women」は、下院委員会の調査に先立ち、BBCの賃金平等に対するこれまでの取り組みを批判した。
外部監査にもとづく給与改定について、自分たちへの聞き取りもなく、自分たちが除外された感じているため、内容を信頼しないという。
「幅広い男女差別のが風潮があり、昇進において散見される。特に女性が育児休暇を取った後、これが顕著になると考えている」と、「BBC Women」は指摘した。
「BBCの上司たちは支援してくれるものの、一部には批判に追い詰められて強く反発する空気もまだある。女性が賃金平等の話題を取り上げると、遠回しに脅されることもある」とも述べている。
同グループは、委員会に提出した報告書に複数人の証言を含めた。BBCスコットランドの元健康担当特派員、エレノア・ブラッドフォード氏の証言もその一つだ。
ブラッドフォード氏は、自分が「たびたび全国放送に出演し、特ダネ報道を繰り返していたにもかかわらず、BBCスコットランドで最も給料の低い特派員の1人だった」と述べている。
また、何度も昇給を求めた末に5000ポンド(約77万円)引き上げてもらったが、過去にさかのぼった支払いはなく、全く同じ仕事をしている男性同僚たちと比べて、約1万ポンド(約150万円)給料が低いままだったという。
ブラッドフォード氏はその後、BBCを退社した。
ブラッドフォード氏はBBCラジオ4の同番組に対し、賃金格差を「無意識の偏見」だと感じた一方で、在職中の最後の数年で「状況を変えようとする努力」がされていたとも話した。
「変化を大いに期待するが、変化のペースが遅すぎるので、この問題には光を当てる必要がある」
「BBC Women」が議会に提出した報告書ではこのほか、13人が匿名で証言している。
その一部の事例は次の通り――。
- テレビのニュースキャスターは「隣席の男性は自分と全く同じ仕事していたのに、給与が何万ポンドも多かった。今は同じ日給だと言われているが、透明性はない」と話す
- 取材記者は、番組制作にフルタイムで関わる自分の給与が、同じ番組に関わる男性同僚の約半分の額だったと知った
- 専属とフリーランスの期間合わせて30年近くBBCに勤めているスポーツキャスターは、主力ラジオ番組の出演料500ポンド(約7万7000円)が、男性司会者の半分以下だったと知った
- 地方ニュースのキャスターは、男性同僚の給与が自分への提示額の3割増しだと知り、5%昇給を獲得した
- 主要美術番組を担当する受賞歴のあるキャスターは、男性同僚の給与が番組1本につき5割増しだっと知った。「格差是正を頼むと直接の上司は、『BBCに給与の平等はない』と答えた。問題を取り上げた私は、『強引で図々しい』とも言われた。私は引き下がらず、過去にさかのぼって男性同僚と同じ給与を得るようになった」という。
「女性を助ける」
BBC広報は、「議会の特別委員会で、事実全てと正しい情報に基づいた議論がされるのを期待している。BBCは賃金の平等に尽力しており、平等法に従っていないという主張は受け入れないし、性別や人種によって不利な契約を提示することはない」と話した。
「私たちは女性がキャリアを前進させ、性別による賃金格差を女性が埋めることで解消するため、意欲的な目標を設定した。さらに、目標達成に必要な行動に取り組んでいる」
「私たちはすでに従業員給与について真の透明性を実現するため、計画を策定し、実施している。放送出演者の賃金について管理方法を一変させ、将来に向けて明確で透明性のある公平なシステムが持てるよう、提案を本日発表する」
広報担当は、「現時点では給与水準について議論するつもりはない」と付け加えた。
下院DCMS委員会のコリンズ委員長によると、「BBC Women」と全英ジャーナリスト組合(NUJ)が提出した抗議の中には、
の抗議には「人種に基づく違法な賃金格差、産休後に職場復帰する女性への差別、非常勤や柔軟な勤務時間を求める従業員への差別」などが含まれるという。
昨年10月に発表された報告では、BBCで働く男性は平均して女性より9.3%多くの収入を得ているという。これは放送出演者を含む従業員全員を対象にしており、管理職は男性の方が多いことが理由として挙げられた。
英国全体の平均格差は18%で、それと比べると、「他のどの組織よりも良い状態だ」とBBCのトニー・ホール会長は当時話していた。
(英語記事 BBC women face 'veiled threats' over equal pay queries)