衆院選挙が終わり、勝利した自民党は「教育無償化」に向けた具体案の作成に着手し始めた。だが、無償化は本当に効果の高い政策なのか。費用対効果で教育予算を選別する視点が欠かせない。
(日経ビジネス2017年11月6日号より転載)
慶応義塾大学総合政策学部准教授
1975年生まれ。慶応義塾大学卒業。コロンビア大学で博士号を取得(Ph.D.)。日本銀行や世界銀行で実務経験がある。2013年から現職。専門は教育経済学。
10月22日に投開票した衆議院選挙では、多くの政党が教育無償化を公約の目玉に掲げ、選挙戦に臨んだ。
自由民主党は消費増税の使途見直しの具体案として、3歳から5歳までの子供を対象に幼稚園・保育園の費用無償化を打ち出した。高等教育の無償化、大学教育の無償化に言及した政党もあった。選挙結果は自民・公明の与党が3分の2以上の議席を獲得。公約に掲げた幼児教育無償化に向けた政策は、年内にも具体案が示される予定だ。
国が公教育にどれだけお金を使っているかを示す指標がある。GDP(国内総生産)に占める公財政教育支出の割合を国別に比べてみると、経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の平均は5.6%だ(2011年)。これに対し、日本は3.8%と平均を大きく下回り、先進国の中では最低水準である。
各党が選挙で教育無償化を打ち出したのは、子育て世代の受けを狙ったものであろう。だが、日本は世界と比べて、国が教育にお金をかけていない。国の代わりに、家庭が負担の多くを担っている。こうした現実を踏まえれば、教育に予算をつけるという機運が高まりつつあることは喜ばしいことだ。
問題は、その方法が「費用の無償化」で本当に良いのかということだ。言うまでもなく、日本の財政は非常に厳しい状態にある。限られた財源を教育に振り向けるからには、費用対効果が最も高い方法を模索しなければならない。
どのような対象に、いくら投資すれば「学力が高くなる」「良い仕事に就ける」といった教育効果、いわゆるリターンを最大化できるのか。それを知るには、教育に経済学視点を取り入れる必要がある。
幼児教育の充実がベスト
実際、米国では00年ごろから「効果なきものに予算なし」と、教育に科学的根拠を求める動きが広まった。国民の教育水準の底上げを目指すに当たり、効果を数値や因果関係で表せる教育方法にお金をかけようとしたのだ。
これを受けて、統計学的手法で教育の効果を測ろうとする研究が注目されるようになった。その一つに「どの年齢の子供に投資すれば最も収益率が高まるか」というものがあった。
日本では、多くの家庭が幼稚園や小学校など、年齢の低い時にお金をためて、高校や大学進学に必要な塾の費用や学費に充てている。年齢が上がってから教育費をかけた方が「良い大学に入る」「良い仕事に就く」可能性が高まる、という考え方が普及している。
しかし、科学的な実験の結果は、日本人の考えと正反対の結論を示している。最も収益効果が高いのは、子供が小学校に入学する前の就学前教育、いわゆる幼児教育だったのだ。
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