富士フイルムホールディングス(HD)は31日、米事務機大手のゼロックスを買収すると発表した。富士フイルムHDがゼロックス株の50.1%を取得する。同時に共同出資会社の富士ゼロックスをゼロックスが完全子会社化する。買収により、富士フイルムHDグループは世界最大の事務機メーカーとなる。先進国市場が成熟するなか、開発や調達などを一体運営し、アジア新興国などの世界展開を加速させる。
同日都内で記者会見した富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は、「開発・生産から物流まで世界規模で相乗効果を生み出せる」と買収の意義を強調した。米国で電話会見したゼロックスのジェフ・ジェイコブソンCEOは「富士ゼロックスとは長い付き合いがあり、コストを大幅削減する自信がある」と述べた。
富士フイルムHDが75%を出資する富士ゼロをゼロックスが完全子会社化したうえで、富士フイルムHDがゼロックスの第三者割当増資に応じ50.1%を出資する。今秋にも買収を完了する。買収後の売上高は約3兆3000億円となる。事務機部門の売上高も米HP(ヒューレット・パッカード)を抜いて世界最大のメーカーとなる。
ゼロックスはニューヨーク証券取引所の上場を維持し、社名を「富士ゼロックス」に変更する。取締役12人のうち7人を富士フイルムHDが指名し、古森氏が会長に就任する。CEOはジェイコブソン氏が続投する。
両社の事務機事業は現在、富士フイルムHD傘下の富士ゼロがインドを除くアジア太平洋、米ゼロックスが欧米を中心に事業展開するなど担当地域を明確に分けている。このため両社とも事業拡大の制約があった。
日米ゼロックスを実質的に統合することで、ばらばらだった製品開発や販売戦略を統一。成長する新興国市場を共同開拓する。研究開発から販売・物流まで一体運営することで資産効率を高め、コスト削減を進める。富士ゼロは20年3月期までに国内外で1万人の人員を削減する。
研究開発などの事業面では、富士フイルムHDが持つ画像処理などの先端技術と、ゼロックスが得意とする人工知能(AI)やネットワーク技術を融合。複合機を中心に顧客企業の業務を効率化するサービスなどを共同で開発する。一連のコスト削減と新規ビジネスなどの売上増により、21年3月期に年間12億ドル(約1300億円)の利益押し上げ効果を見込む。
先進国の事務機需要が落ち込むなかで日米ゼロックスとも業績の低下傾向が続く。米ゼロックスの現在の時価総額は9千億円程度と、直近のピークだった14年秋から5割弱減少した。筆頭株主で米著名投資家のカール・アイカーン氏らから、CEOの解任や富士フイルムとの合弁事業の見直しなど抜本的な経営改革を迫られていた。こうした株主の圧力も今回の買収を促したとみられる。
ゼロックスは資本構成の変更に伴い、自社の株主に25億ドルの特別配当を実施する。
アイカーン氏など「物言う株主」らの要求に対し、経営体制の見直しに加えて配当政策でも応える構えだ。
古森氏は「今回の合併は利点があるのでゼロックスの株価も上がる。納得してくれるのではないか」と指摘する。現在1割程度のゼロックス株を持つアイカーン氏は、統合新会社でも数%前後の少数株主として残る見通しだ。ゼロックスをのみ込む形の富士フイルムにとって、今後は米国市場での株主対策も課題となりそうだ。
ゼロックスは1906年創業の老舗。欧米市場を主力にしており、2017年12月期の売上高は約103億ドル、約3万7000人の従業員を抱える。世界でもいち早く印刷機器の製造販売を手がけ、なお高いブランド力を持つ名門企業だが、北米を中心にペーパーレス化の逆風に直面している。
富士ゼロックスは1962年に設立され、富士フイルムHDが75%、ゼロックスが25%をそれぞれ出資している。