真顔日記

上田啓太のブログ

ネコと仲良くするさまざまな方法

f:id:premier_amour:20180131181920j:plain

月に一度、杉松の家に行っている。そして5匹のネコたちと再会する。ネコたちは私のことを完全に忘れてはいない。しかし住んでいた時の態度とも微妙にちがう。少しだけよそよそしくなっている。その態度にショックを受ける。

何度か帰るうちに分かってきた。ネコは私のことを「○○してくれる人」として認識している。だから久々に登場したときは反応がうすい。しかし住んでいた当時によくしていたことを試してみると、一気に思い出してくれる。これが、たまにしか会わないネコと関係を維持するためのテクニックなのである。

具体的な方法がネコごとにちがうのも面白い。たとえば、セツシと菊千代という二匹のネコは棒をふって遊ぶと思い出してくれる。なんとなく小学生男子といった風情だ。ネズミのオモチャを投げてやることも効果的だ。うれしそうに走っていき、くわえて持ってきてくれる。「オモチャで遊んでくれる人」として私を認識しているんだろう。

f:id:premier_amour:20180131181935j:plain

影千代というネコは簡単である。何もしなくても勝手に股ぐらに顔をうずめて寝る。久しぶりだろうが何だろうが関係ない。私が玄関をあけて居間にすわると同時に股に飛び込んでくる。これはあまりいないタイプのネコである。警戒心がまったくない。ジョンレノンのイマジンを胎教で聴き続けたかのような性格。

以前、ガス屋のおっさんや水道修理のおっさんが家にきたときも、他のネコは警戒してあちこちに隠れていたのに、影千代だけがおっさんの股ぐらにめがけて突進していた。影千代との関係に「維持」という意識は不要だ。股間さえあれば寄ってくる。

もっとも、満足すると勝手に去っていく。このあたりのマイペースぶりは非常にネコらしい。あくまでも股ぐら目当ての関係なのだ。人間でいえば会うなりに股ぐらをもとめてくる男のようなもので、これはシンプルに最悪だろう。

去っていった影千代にこちらから近づき、手でさわろうとしたときのムスッとした顔はすさまじい。「なんか用かよ?」という態度をされる。背を向けてゴロンと眠る影千代を見つめながら、「ねえ、私たち、どういう関係なのかな」とつぶやきたくなる。股のにおいを嗅がせるだけの関係なんて、友達に説明できないよ。

f:id:premier_amour:20180131181948j:plain

ミケシというネコは警戒心が強く、ひさしぶりに会った私を疑わしそうな顔で見つめてくる。しかし、尻尾の付け根を指でトントンすると思い出してくれる。他人行儀だったのが、途端にフニャーと甘えてくるのだ。これはメスネコの特性らしく、オスはべつによろこばないそうだ。通称「尻トン」と呼ばれる。

同じくメスである初音も、尻をトントンしてやる必要がある。ただ、こちらはミケシよりややこしく、しばらく追いかけっこをしてやらないといけない。いきなり尻をトントンすると、ささっと逃げていくのだ。嫌がっているわけではない。すこし離れたところに逃げてから、こちらをくるっと振り返る。「来ないの?」ということである。

なので、まずはさんざん室内を追いかけまわし、「僕は本当に君の尻をトントンしたいんだ」と納得させてやる必要がある。誰の尻でもいいんじゃない、そんな軽薄な男だと思ってほしくない、君なんだ、君の尻だからトントンしたいんだ、と態度で示さねばならない。さらに、人間が本気で追いかけるとすぐに追いついてしまうため、小走りで初音との距離を調整しつつ、同時に必死感も演出せねばならない。

これを続けていると、最終的に、初音は押入れの奥にかくれる。私も追いかけて押入れに入る。そして暗がりのなか、他のネコたちからは見えないところで、こっそりと尻をトントンしてやる。この段階でようやく頭をこすりつけて甘えてくる。毎回、これをやる必要がある。ものすごく大変な女である。このネコにはaikoを聴く権利がある。

f:id:premier_amour:20180131182000j:plain

このあいだ世話をしに帰ったとき、ミケシの尻をトントンしていて、ふっと視線を感じた。背後を見ると、初音がじーっとこちらを見つめていた。あれは非常にaiko的な状況だった。あたし(初音)はあなた(飼い主)を見ているが、あなた(飼い主)はあの子(ミケシ)を見ている。ネコの世界にもaikoはいるのだ。

もっとも、初音は自分が構ってもらえないと様々な方法で不満をアピールするんだが、そこにaiko感はない。飼い主の布団でいきなり放尿したりする。aikoリスナーを代表して言わせてもらうと、こんな行動はaiko的世界に登録されておりません。

ある意味かしこいとも言えるが、初音は飼い主のいやがることを的確に把握しているため、嫌がらせのクオリティが非常に高い。眠っていた時、枕から10センチのところにゲボを吐かれたこともある。「次は顔だ」と言われた気がした。冷徹な殺し屋のやりかたじゃないか。

台所のシンクにうんこされたこともある。食事と排泄という、人間ができるだけ切り離しておきたい二つを的確に結びつけてくるのだ。こう考えると、やはりネコはネコ、人間は人間という気もしますね。いくらなんでも、彼氏に構ってほしくてシンクにうんこする女いないでしょ。