海外にいけるとしたら、どこがいいですか?
年末年始はどこにもいかなかったライターの玉置です。
今回は国内(新大久保)で、ちょっとした海外旅行気分を味わってきた話です。
新大久保のイスラム横丁でお買い物
先日、『付箋レシピ』という付箋一枚にシンプルなレシピを書いた本の著者でもあり、料理ブログ「ツジメシ」の中の人のツジムラさんが、新大久保駅周辺にスパイスの買い出しに行くというので、友人と一緒に便乗させていただきました。
▲新大久保駅前は、日本人の方が少ないかもというくらい外国人が多かったです。
新大久保には今までに何度か来たことがあり、数年前に起きた韓流ブームの影響で韓国系のお店がズラッと並ぶ街という印象だったのですが、最近は韓国だけではなく、アジア各国の店が集まるスーパー多国籍街になっているようです。
本日のお目当てはカレー用のスパイスということで、向かったのは駅から大通りを渡った先にある「イスラム横丁」と呼ばれる通りです。何語かすらわからない看板や、何屋なのかまったく不明の店が並ぶ、緊張感あふれる街並みにびっくりしました。山手線の沿線でこんな体験ができるんですね。
▲イスラム横丁で振り返っているのがツジムラさん。
▲このあたりは客も店員も外国人という店がほとんどですが、日本人も歓迎というスタイルが多いようです。その辺は肌感覚で判断しましょう。
日本人が明らかにマイノリティとなるこの通りで、慣れた感じで味が想像できないスパイスや謎多き食材を買っていくツジムラさん。私もこういう店でサクッと買い物できる知識と度胸が欲しいところです。横で見ていて、何を作ろうとしているのかすらわかりません。
お店を数軒回って買い物が終わったところで、じゃあ次は軽く飯でもという話になったのですが、せっかくツジムラさんが一緒なので、ちょっと変わった店に連れて行ってくださいよとリクエストしたところ、これが予想以上にエクスペリエンスな体験となったのです。体験&体験ですよ。
一人では絶対に辿りつかないネパール料理レストラン
新大久保駅のすぐ脇にある、なぜか楽器屋さんが並んだ通りを迷いなく進むツジムラさんについていくと、あるマンションの前で足が止まりました。
え?ここ?
▲ええと、マンションですか。
ピコーン、ピコーン。心の危険信号が鳴り出しました。本当に大丈夫でしょうか。
通り沿いに出ている看板を見てみると、どうやら「ベットガット」というネパールレストランがマンションの中にあるようです。よくあるカレーがメインの店とは違い、どうみてもネパール人向けの本格的なお店のようですが、一応日本語での表記もあるので入っても大丈夫なのでしょう。
▲一人だったら絶対に入らない店だな。
▲「本当に入るんですか?」と、ツジムラさんに確認する同行の友人。
「大丈夫、大丈夫」と、チェーン居酒屋にでも入るかのごとくマンションの奥へと進んだツジムラさんについていくと、まず食材を売っている店がありました。
もし私が看板をみてフラっと入ったとしても、あれ間違えたかなと、ここでUターンしていたことでしょう。レストランがあるのはさらに先なのです。
「食事、大丈夫ですか?」と慣れた調子でお店の方に声をかけ、スタスタと進んでいきます。本当にこの先にレストランがあるの?っていう店の作りに心臓がバクバク。もう完全に外国旅行気分です。しかもディープなやつだこれ。
▲ネパール料理に使用するであろう食材が売られていました。
キョロキョロオドオドしながら進んでいくと、ようやく厨房が見えてきました。どうやら本当にレストランがあるようです。
おねえさんが肉まんみたいなのを包んでいるということは、こうみえて実は点心が名物の中華料理店なのでしょうか。いやそんな訳はないですね。
▲あの小さな肉まんみたいなのはネパール名物のモモという料理かな。
そんなこんなでようやくレストランへとたどり着きました。ちなみにこうして文章にすると長い道のりですが、もちろん移動距離はほんのちょっとです。心理的に一歩一歩が長いんですよ。
こんな奥まった場所にお客さんは来るのかなと失礼ながら思ったのですが、意外にもテーブルはほぼ満席。ただし全部外国人のようです。うっかりワープしちゃった感がすごい。
▲過度にネパールっぽさを出していない感じが、逆に本場の食堂っぽく感じる。
味が想像できないネパール料理を堪能する
席についてメニューを確認すると、ちゃんと日本語の表記があってホッとします。ツジムラさんの話だと、ちょっと前なら日本語表記の一切ないようなネパール料理店もいくつかあり、そういう店にうっすらした口コミだけを頼りにして訪れるのが楽しかったのだとか。なんだか武者修行みたいな食事ですね。
▲ドリンクはインド&ネパールのビール以外は普通。
ドリンクメニューを確認して、せっかくなのでとネパールビールを注文。「FOR EXPORT ONLY」と書かれているので、ネパール国内で飲まれているビールではなく輸出専用みたいです。軽い口当たりで好みの味。
なんだか日本国内の外国人が経営する店というよりも、ヒマラヤにある外国人歓迎のレストランに迷い込んだ雰囲気。冷えたビールは窓の外にある(ように思える)ヒマラヤ山脈を流れる冷たい水を感じさせてくれます。そう思った方がおいしいですから。
▲この山はエベレストなのかな。
▲ヒマラヤの清澄な水を感じましょう。
さて続いては食べ物ですが、まるっきりピンとこない料理名にときめきます。この味が想像できない感じ、心細さこそがご馳走なのです。
とはいっても料理の写真があるし、簡単な説明も日本語で載っているので、困ることはありません。店員さんも日本語が通じます。
注意点としては、「フライ」というのは揚げ物ではなく炒め物で、「セクワ」は串焼き、「サデコ」はスパイシーなマリネだそうです。ついでに覚えるなら、この店にはないですが「チョイラ」は焼肉的なもの、「ジョル」はスープだとか。
細かいところは食べながら覚えるとして、値段は庶民的な居酒屋価格なので、どんどん注文していきましょうか。
▲一人ならお得なセットがオススメですかね。
▲全体的に茶色い料理に好感が持てます。
まず注文したのは「スクティサデコ」。スクティとは干した羊肉のこと。干し肉と生野菜のマリネなんて日本ではまず食べない調理法ですが、辛くはないけれどしっかりとスパイシーな味付けが、舌の記憶になくて新鮮です。
ゲームや小説の世界で、冒険に出た勇者が仲間たちと食堂で食べていそうな味といえばピンとくるでしょうか。きませんね。
▲スクティサデコ=羊の干し肉のマリネ。
続いては「ブータン」。ネパール料理なのにブータンとはどういうことかと注文したのですが、どうやら羊の内臓を炒めた料理のようです。
羊とスパイス、間違いのない組み合わせです。ジンギスカンなどで食べるラム肉(仔羊肉)とは違い、ちょっとクセのあるマトン(大人の羊肉)なのがいいですね。スパイスに詳しくなると、こういう料理の理解度が格段にアップして、味の組立やアプローチを楽しめるんだろな。帰りにスパイスを買おうかな。
▲部位が謎だけどうまいブータン。
西原理恵子さんの漫画で、ネパール旅行中に息子さんがハマっていたのを読み、私の中で憧れの味となっていた「モモ」は、スープモモ、フライモモ、ベジタブルモモ、スチームモモと、ネパール流早口言葉みたいに4種類がラインナップ。
あえて王道であろうスチームモモを外して、スープモモにしてみたところ、水餃子的なものかと思いきや、とろみのあるスープにゴロンとモモが入れられたカレーうどん的な料理が出てきました。このモモを一口でほおばって噛むと、スパイスの効いた肉の味がグワっときます。もちろんうまい!
▲スープモモ。
▲うまいのでアップにしましょう。
まったく味が想像できなかった「パニプリ」というのも頼んでみたのですが、パリッとした食べられる器にイモやら野菜やらが入った不思議な食べ物でした。検索したらほそいあやさんの書いた記事がでてきたので、詳しくはそちらでどうぞ。
▲パニプリ。おやつ的なものなのかな。
ビールを何杯か飲んで、ツマミも食べて、そろそろ胃袋はいい感じに膨れてきたのですが、ここで締めはご飯ものでしょうということで、このタイミングで定食を頼むことになりました。炭水化物、欲しいよね。
この店では日本人向けにネパールセットと書かれていますが、ネパール料理の定食といえば、ダル(豆汁)とバート(飯)のセットである「ダルバート」のことです。
▲「やっぱりダルバードも食べないと」とツジムラさん。意外と健啖家なんですね。
▲おかずたっぷりのセットもあるけれど、Bセットで十分かな。
メニューの写真だと大きさがピンとこなかったのですが、650円のBセットだけで大人一人前の食事としてのボリュームがありました。わぉ。
ファミレスとかにあるライスとサラダとスープのセットみたいなものではなく、ダルバードと呼ばれるネパールの定食ですね。しかもインディカ米のライスはおかわり自由。このお店、全体的にメニューの写真よりも量が多い気がします。
「アチャール」は漬け物的なもので、「サグ」は青菜、「タルカリ」はおかず、といった意味のようです。
▲ダルカレー=豆カレー(左中央)、マトンカレー(左下)、タルカリ=野菜のおかず(左上)。ライスのプレートは、アル・コ・アチャール(ジャガイモのアチャール)、ゴルペラ・コ・アチャール(トマトのアチャール)、豆などのタルカリ、生野菜、サグ。
こんなに食べられないよーと思いつつも、白いご飯は別腹なのでもちろん完食。ツジムラさんはおかわりもしていました。
とても安いし、美味しいし、程よい緊張感が味わえるし、ここは最高の店じゃないですか。新大久保でのお買い物と合わせて、海外旅行気分をばっちり味わうことができました。
気に入ったので、また来ました
ベットガットでネパール料理を堪能してからしばらく経つと、なんだか無性にあの味が恋しくなってきました。舌がまだ覚えているうちにもう一度食べたい。
そこで別の友人を誘って、早くも再訪問させていただきました。まだ食べたい料理がたくさんあったんですよ。
▲また俺のネパールにやってきました。
もう2回目なので入店までは慣れたものです。「大丈夫、大丈夫」とツジムラさんのマネをしながら友人を案内したりして。
それでは食べた料理をバババっと紹介させていただきましょう。
▲ビールと一緒に出てきたアチャール。生のニンジンや茹でたジャガイモなどが、辛酸っぱく味付けされた漬け物。どこか日本の料理と通じるものを感じます。
▲声に出して呼びたい料理名、ワイワイサデコ。
▲300円なのでちょっとかと思ったら、けっこうな量でした。ワイワイと数人で食べるのがいいでしょう。
▲砕いた乾麺に、ひよこ豆、タマネギ、パクチーなどを混ぜたネパール版ラーメンサラダかな。タレの味が独特でビールに合う。
▲今度は王道のスチームモモを注文。具はしっかりとスパイシーだけど、中央のソースは意外にもまろやかな味。この組み合わせがうまいのよ。
▲生ビールが350円と安い。
▲どうせならクセが強そうなものを頼もうと、マトンボイルドを注文。
▲沖縄そばの三枚肉のように皮付きで出てきたマトン。こりゃ臭いかなと思いきや、スパイスをうまく使って茹でているのか全然平気。モツみたいな歯ごたえでクセになる味。
▲産毛が残っている脂たっぷりのマトンだけど、うまいんですよ。こういう料理を心からうまいと思えるのが嬉しい。見た目ほど辛くない唐辛子が合う。
▲ライスじゃなくてチャイで締めました。
ということで、新大久保のベットガットは素晴らしかったです。ちなみに2回目に訪れた時は、隣のテーブルに常連だという日本人のお客さんがいたのですが、「この店で日本人を初めて見ましたけど、どうやってこの店を知ったんですか?」と聞かれたくらいに穴場のようです。
この街なら、うまく探せばこういう店でいろんな国の料理で味わえるんでしょうね。あと数か国は旅気分を味わってみたいところです。
▲「宣伝よろしくね!」だそうです。
紹介したお店
ベットガット
住所:東京都新宿区百人町1-11-31 新大久保ビル1F 食材店のカンティプール奥
TEL:03-5937-1790
プロフィール
玉置標本
趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺作りが趣味。