民泊禁止の掲示(都内マンション) 「3月14日までに管理規約を改正しないと、民泊を禁止できなくなる」。マンション管理士の渕ノ上弘和氏は警鐘を鳴らす。残る日数はあと42日しかない。
「当マンションは、民泊は一切禁止です!」
最近、都内の高級マンションではこういった張り紙や掲示が目立つようになりました。マンションの入り口では警備員やコンシェルジュが、マンションに入ってくる人が本当に居住者かどうか、目を光らせています。
専門ホテルではなく、一般の家に宿泊するいわゆる「民泊」は、Airbnb(エアビーアンドビー)に代表される宿泊サイトの台頭や、外国人旅行客の急増で大きく注目されています。ところがこれまで日本では、民泊に関する明確な法律が存在していませんでした。そこで、民泊が旅客業法に抵触するのかしないのかといった議論を経て、2017年6月にようやく「住宅宿泊事業法」が制定されました。事業者(住民)が所管の自治体窓口へ届け出れば、分譲マンションなどの「住宅」においても民泊が認められることになったのです。
しかし、法改正前のグレーゾーンの段階で民泊が始まった分譲マンションでは、旅行者がゴミ出しのルールを守らない、部屋内だけでなくマンションの入口やラウンジ、共用廊下などで大声で話す、スーツケースで廊下などを破損させてしまうといった様々な問題が頻発しました。こうした問題から、「民泊禁止」を掲げる管理組合が増えているのです。
一方で「住宅宿泊事業法」が制定され、国としては民泊を認める方向にかじを切りました。この結果、民泊に反対するマンション管理組合は、この法律に対応すべく情報集めに奔走している状況です。
外国人観光客の増加に伴い民泊の需要は高まっている■民泊NGなら3月14日までに規約を改定
住宅宿泊事業法は、一言でいえば「民泊は基本的にOK。民泊を禁止する場合は管理規約に明記すべし」という法律です。つまり、管理規約に明確に「民泊禁止」の旨を盛り込んでおかないと、「民泊事業を手掛けてみたい」と考えている住民を止めることはできなくなるのです。
しかも、民泊禁止を管理規約に盛り込むまでの時間的な猶予は、あと1カ月ほどしかありません。住宅宿泊事業法は18年6月15日に施行される予定ですが、自治体への届け出は18年3月15日からスタートします。つまり、民泊を禁止したいなら、3月14日までにマンションの管理規約を改定しなければいけません。改定せずそのままにしておくと、居住者の民泊事業を黙認したことになります。一度民泊を認めてしまうと後から禁止するのは極めて難しいため、早め早めに手を打たなければなりません。
では、どのように管理規定を改定すれば民泊を防げるのでしょうか。やや専門的な内容になりますが、民泊の届け出は受け付けの際に「管理規約違反の不存在の確認」が要求される予定となっています。つまり「そのマンションで民泊事業を営むことが管理規約違反ではない」ならば民泊はOKとなってしまうのです。
民泊を禁止するには管理規約の改定が必要だ(写真はイメージ) 大半のマンションでは、管理規約に「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」旨の規定が定められています。「『他の用途に使用してはならない』なら、民泊もNGになるのでは」と思われる方も多いのではないでしょうか。
ですが、内閣府地方創生推進事務局の通知(府地事第1165号 平成29年10月26日)によると、これだけでは民泊禁止の規定としては不十分なのです。民泊を禁止する場合は、明確に禁止する旨を管理規約に盛り込むよう求められています。
同通知では、(1)規約で容認する場合(2)規約で規制する場合(3)使用細則(管理規約よりも下位の規定)に委ねる場合の規定例が示されています。民泊を禁止する場合は、下記を参考に管理規約を改定すればよいでしょう。
【内閣府地方創生推進事務局による規定例】
(2)特区民泊及び住宅宿泊事業の禁止を明示する場合の規定例
第○条 区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
2 区分所有者は、その専有部分を住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用してはならない。
3 区分所有者は、その専有部分を国家戦略特別区域法第13条第1項の特定認定を受けて行う国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に使用してはならない。
■間に合わなければ議事録を残す
前述したように、民泊を禁止するには18年3月14日までに管理規約の変更を完了することが必要条件となりますが、管理規約の変更には、原則として管理組合総会における「組合員総数の4分の3以上」および「議決権総数の4分の3以上」の賛成が必要です(区分所有法第31条)。住民総会の開催準備などを考えると、現実には「もう間に合わない」というケースも出てきそうです。
どうしても3月14日までの規約承認手続完了が難しい場合は、次善策として、管理組合が民泊を禁止する方針である旨(民泊禁止規約への変更手続に向けて動いている旨)の意思表示を議事録などの「確証」として残す方法があります。つまり、「民泊は禁止する」という方針は既に固まっていることを証拠として残しておくのです。これを住民にも周知した上で、可能な限り速やかに規約を改定すれば、仮に住民が民泊事業の届け出を行ったとしても差し止められる可能性が高まります。
なお、民泊は住宅宿泊事業法の関連法令で「全国民泊」と「特区民泊」の2つに分類されています。内閣府地方創生推進事務局は前述の通知で、いずれの民泊についても認めるか否かの判断を規約に明記することとしています。
1.住宅宿泊事業法第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業
全国を対象に、年間180日を営業日数上限とする全国民泊
2.国家戦略特別区域法第13条第1項の特定認定を受けて行う国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業
国家戦略特区として定められた区域を対象に営業日数の上限がない特区民泊
※現在の「特区」…新潟市、東京都大田区、千葉市若葉区・緑区、大阪府の一部、大阪市、北九州市
つまり民泊を禁止する場合は、「全国民泊」、「特区民泊」のいずれについても、管理組合としての判断を規約に明記する必要があります。前述の禁止規定例の項目2と3は、それぞれ全国民泊と特区民泊を禁止するものです。
外国人観光客の増加に伴い、大きな注目を集めるようになった民泊。ですが住民の合意なき民泊は、予測できないトラブルの元凶となりかねません。ひいては民泊がマンションの価値を毀損する可能性も懸念されます。民泊禁止を確実なものにするには、早めの規約改定に加えて、違反に対する監視体制や管理会社との協力体制の確立なども必要になってくるでしょう。
渕ノ上弘和 マンション管理士・管理業務主任者。大手不動産管理会社で大規模分譲マンションの管理・運営、マンション全体の資産価値向上施策を実施する。その後、中古マンションの売買を専門に扱うハウスマートに入社。ITを活用した中古マンション仲介サービス「カウル」(https://kawlu.com/)の運営などを手掛ける。マンションの資産価値を高く保つ「コンドミニアム・アセットマネジメント」を提唱している。 (マネー研究所 川崎慎介)
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