2018-01-31
■[憲法][国会審議][記事] 首相「9条2項維持」 衆院予算委 改憲案で目標明言 - 東京新聞(2018年1月31日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201801/CK2018013102000152.html
安倍晋三首相は三十日の衆院予算委員会で、戦力不保持と交戦権の否認を定めた憲法九条二項を維持したまま、自衛隊を書き込む改憲を目指す考えを明言した。「二項を変えるということになれば、書き込み方で全面的な集団的自衛権の行使容認が可能になる」と答弁した。
安倍政権は一五年に成立させた安全保障関連法で、歴代内閣が違憲としてきた集団的自衛権の行使を容認。全面的な容認ではなく、日本の存立が脅かされ、国民の生命や幸福追求権が根底から覆される明白な危険がある場合など「武力行使の新三要件」を満たす場合に限定したとしている。
首相はこれを踏まえ、二項を維持した上での改憲なら、集団的自衛権行使は限定的に容認されるとの政府解釈は変わらず、安保法が定める新三要件が適用されるとも説明した。
自民党内では、二項を維持して自衛隊を明記する案と、二項を削除する案が議論されているが、首相は二項維持の方が公明党や世論の理解を得やすいと判断している。自民党は三月二十五日の党大会までに、首相の考えに沿って党の改憲案をまとめる方針。 (篠ケ瀬祐司)
■[記事] 9歳、10歳児に不妊手術 旧優生保護法の宮城県資料 - 東京新聞(2018年1月31日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201801/CK2018013102000153.html
旧優生保護法(一九四八~九六年)下で障害などを理由に不妊手術を施されたとして宮城県に個人名記載の資料が残る八百五十九人のうち、最年少は女児が九歳、男児が十歳だったことが三十日、同県への取材で分かった。十一歳の児童も多く、半数以上は未成年。優生思想に基づき妊娠の可能性が低い児童に身体的負担を強いる非人道的措置が浮き彫りになり、実態把握など国の対応も問われそうだ。
三十日には十五歳で強制不妊手術を施されたとして、宮城県の六十代女性が国に損害賠償を求める初の訴訟を起こした。弁護団には他にも相談が寄せられているといい、謝罪や補償を国に求める動きが広がるか注目される。
宮城県によると、資料は六三~八六年度の「優生手術台帳」。旧法に従って手術を受けた八百五十九人(男性三百二十人、女性五百三十五人、性別・年齢非公表四人)の氏名や、手術の申請理由となる疾患名などが記載されている。
女性の最年少は六三年度と七四年度にそれぞれ手術を受けた九歳の二人。男性の最年少は六五年度と六七年度に手術を受けた十歳の四人。いずれも疾患名は「遺伝性精神薄弱」とされていた。ほとんどの年度で十一歳の男女が手術を受けていたとされる。
男性の未成年は百九十一人(59・6%)で、女性は二百五十七人(48・0%)。全体では52%に上る。最高齢は男性が五十一歳、女性は四十六歳だった。
手術の申請理由は、「遺伝性精神薄弱」が全体の八割超となる七百四十五人で最多。「精神分裂病」三十九人、「遺伝性精神薄弱+てんかん」二十六人、「てんかん」十五人と続いた。「遺伝性難聴」など身体障害のある十四人も手術を受けていた。年度別では、六五年度の百二十七人、六六年度の百八人をピークに減少傾向となり、七九年度や八一年度は一人だった。
<旧優生保護法> 「不良な子孫の出生防止」を掲げて1948年施行。知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に本人の同意がなくても不妊手術を認めた。ハンセン病患者も同意に基づき手術された。53年の国の通知はやむを得ない場合、身体拘束や麻酔薬の使用、だました上での手術も容認。日弁連によると、96年の「母体保護法」への改定までに障害者らへの不妊手術は約2万5000人に行われた。同様の法律により不妊手術が行われたスウェーデンやドイツでは、国が被害者に正式に謝罪・補償している。
■[記事] 不妊手術の対象選んだ精神科医「まずいことに手貸した」 - 朝日新聞(2018年1月31日)
https://digital.asahi.com/articles/ASL1V63BFL1VPTFC011.html
http://archive.today/2018.01.31-004656/https://www.asahi.com/articles/ASL1V63BFL1VPTFC011.html
かつての優生保護法のもと、障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の女性が30日、国に賠償を求めて提訴した。不妊手術の対象者を選んだ経験がある精神科医の岡田靖雄さん(86)=東京都=は、精神疾患と遺伝を関連づける優生保護法の問題点に後から気づいた。「自分はまずいことに手を貸した」。国は実態を調査し、手術を強いられた人に償うべきだと話す。
1960年代初め、岡田さんは都内の精神科病院で開放病棟を担当していた。毎年決まった時期、不妊手術の対象者を挙げるよう医局の黒板に通知があった。ある年、知的障害の女性患者1人の名を書いた。恐らく30代。院内で男性患者と性交しているのを目撃され、妊娠を防ぐ必要があると判断した。
申請書類を自分が記入したのか、手術について女性にどう伝えたか、覚えていない。院内の外科医が執刀した手術に助手として立ち会った。「ごく当たり前のことをしただけだった」。当時、日本の医学界では精神疾患の原因は遺伝が大きいとする考えが強く、子どもを持つのは避けるべきだと思われていたという。
数年後、精神医療の歴史を学ぶうち法の問題点に気づき、精神疾患に関する著書で指摘した。賛同する医師はほぼいなかった。院内で議論された記憶もない。今回の裁判を通じ「精神科医や様々な立場の人たちが優生保護法の問題をどう考えていたのか、知りたい」と話す。
法に異議を唱えた数少ない精神科医の一人が、精神病理学者の野田正彰さん(73)=京都市。勤め先の病院などで、不妊手術を強いられた患者や精神疾患がある人の家族に出会い、遺伝を理由に結婚などで差別される実情を知った。
73年、雑誌に「優生保護法は、国が精神病への偏見をまず率先してつくり出している」と寄稿した。「医師も偏見をつくる源となったことを反省しなければならない」と野田さんはいう。(田中陽子)
■[社説] 不妊手術強制で国を提訴 尊厳めぐる重い問いかけ - 毎日新聞(2018年1月31日)
https://mainichi.jp/articles/20180131/ddm/005/070/169000c
http://archive.today/2018.01.31-004532/https://mainichi.jp/articles/20180131/ddm/005/070/169000c
人間としての尊厳を根本から問う重い問題提起だ。
旧優生保護法の下で不妊手術を強制された宮城県の女性がきのう、国を相手に損害賠償を求める初の訴訟を仙台地裁に起こした。
旧優生保護法は、戦後の食糧不足の中、「不良な子孫の出生防止」と、「母性の生命健康の保護」を目的として1948年に制定された。
障害を遺伝させない目的から、精神障害者やハンセン病患者らが強制的な不妊手術の対象となった。法に基づき手術を受けた人は、全国で約2万5000人とみられている。
憲法13条は、個人の尊重や幸福追求権、14条は法の下の平等を定める。旧優生保護法は、そうした憲法の規定に反するとの訴えだ。
法律自体が、障害者への差別や偏見を助長していたのは間違いない。
政府は、旧優生保護法が障害者差別に当たることを認め、96年に障害者への不妊手術の項目を削除し、母体保護法に改定した。
2004年、当時の坂口力厚生労働相は参院厚生労働委員会で、優生手術の実態調査や救済制度の導入について問われ、「そうした事実を今後どうしていくか私たちも考えていきたい」と述べた。だが、政府は今に至るまで、具体的な対応を取っておらず、国会も動いていない。
この問題については、国連の女性差別撤廃委員会などが、被害者への補償や救済を求めて勧告しているが、政府は「優生手術は当時、適法だった」として退けてきた。
障害を持った当事者は、声を上げられずに社会で孤立しているのではないか。そう原告弁護団は見ている。時間が経過し、被害が闇に埋もれてしまう恐れがある。
こうした差別的な現実は、原告弁護団などの活動を通じて一端が明らかになった。本紙の調査でも、9歳の女児が対象になったり、未成年者が半数を超えたりした事実が判明した。政府は、過去の優生手術の全容を調べたうえで開示すべきだ。
現在の人権感覚に照らせば、明らかに差別的な法律である。それがなぜ半世紀近くも維持されてきたのか。その歴史に社会全体で向き合わなければならない。
■[社説] (新出生前診断)当たり前の検査を懸念 - 沖縄タイムズ(2018年1月31日)
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/202904
https://megalodon.jp/2018-0131-0942-10/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/202904
「命の決断」に向き合い、支える体制はできているのか。
妊婦の血液を採取し胎児の染色体の病気を調べる新出生前診断について、日本産科婦人科学会は一般診療として実施施設を拡大する方針を固めた。受診できる年齢や対象となる病気の要件緩和も検討している。
2013年に始まった新出生前診断は、臨床研究として大学病院など限られた医療施設で実施されてきた経緯がある。手軽さを理由に広がると「命の選別」につながりかねないことから、学会は結果の説明や妊婦の相談に応じる遺伝カウンセリング体制を重視してきたのだ。
対象も35歳以上の高齢妊娠や過去に染色体異常の赤ちゃんを妊娠したことのある人に限定。判定は胎児の先天性疾患のうちダウン症など3種類の染色体異常にとどめてきた。
本格実施に向けた議論は、高齢出産の増加によるニーズの高まり、認定を受けないクリニックの問題が相次いだことなどを背景としている。
無認定施設で、遺伝カウンセリングを行わず、年齢制限も取っ払い、性別判定の実施を宣伝したりするケースがあったという。
無認定クリニックに対し厳正に対処するのは当然だが、認定施設を増やし一般診療化すれば、検査の流れが一気に加速するのではないか。「受けることが当たり前」という雰囲気が生まれないとも限らない。
慎重な議論を求めたい。
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各地の病院でつくる研究チームによると、開始から4年間で検査を受けた妊婦は4万4645人。染色体異常の疑いがある陽性と判定され、おなかに針を刺す羊水検査に進んで異常が確定したのは605人だった。うち94%に当たる567人が人工妊娠中絶を選択している。
結果として「命の選別」につながったという批判は強い。
しかし検査を受ける受けない、産む産まないは、妊婦と家族が悩み抜いた末の結論である。責任を負わない第三者が口をはさむべきではない。
ただ「障がいのある子どもを育てる自信がない」という漠然とした不安が意思決定に影響を与えたとしたら、問題は医療や福祉、教育分野の支援体制にもある。
カウンセリングで病気の知識だけでなく、生まれた後の生活や支援などの情報がどの程度届けられたのか、課題を一度整理する必要がある。
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日本ダウン症協会のホームページにダウン症の子どもを授かった家族に向けてと題し、「発達の道筋はほぼ同じですが、全体的にゆっくり発達します」「子育ても特別でなく、少しゆっくり」などのアドバイスが並ぶ。
障がいがあっても大きく成長する可能性を秘めていて、同じような体験をした人の声を聞くことは重要だ。
一人一人の決断は重く、この問題に明快な答えはない。だからこそ産む決断を後押しできる「共生社会」をつくる努力を重ねなければならない。
■[国会審議][社説]「森友」論戦 かわす政権、募る不信 - 朝日新聞(2018年1月31日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13337930.html
http://archive.today/2018.01.31-004412/https://www.asahi.com/articles/DA3S13337930.html
森友学園への国有地売却問題をめぐる、衆院予算委員会での政府答弁である。
象徴的なのは、財務省が「廃棄した」と繰り返した交渉関連記録が実在していたことだ。同省が否定してきた事前の価格交渉も、当事者間のやりとりが音声データに記録されていた。
過去の一連の答弁は虚偽といわれても仕方あるまい。予算委で野党が、答弁を担当した佐川宣寿(のぶひさ)国税庁長官(前理財局長)の更迭を求めたのは当然だ。
驚いたのは、麻生財務相が佐川氏を「適材適所」とかばったことだ。長官就任後に全く記者会見をしていないことも「所管の行政以外に関心が高まっていたことから、実施をしないと決めた、と聞いた」と容認した。
森友問題を問われたくない。それが会見拒否の理由だと認めたに等しい。納税者に向き合う姿勢が決定的に欠けている。
国会を欺くような答弁を重ねても、当の佐川氏も、上司の麻生氏も、そして首相も、誰ひとり非を認めず、謝罪せず、責任をとらない。安倍内閣の国会軽視、言論軽視は理解できない。
予算委では、会計検査院の調査に対し、財務省が近畿財務局の検討内容を記した文書を提出したのが検査報告の前日だったことも、新たに分かった。
麻生氏は「検査の過程で気づく状態に至らなかった」と述べたが、結果として法律に基づく検査に文書の内容が反映されなかったことになる。検査院と国会は、事実関係を検証し、責任の所在を明らかにすべきだ。
首相の妻昭恵氏と問題との関係も、改めて取り上げられた。
学園の籠池泰典前理事長が国との協議で「棟上げに首相夫人が来る」と述べ、学園側が値下げを求めていたことが、音声データでこのほど判明した。
昭恵氏が棟上げに出る予定だったのは事実か。野党議員が首相にただしたのは、欠くべからざる質問だろう。だが、首相は「突然、聞かれても答えようがない」とかわした。
首相はこれまで「(昭恵氏については)私がすべて知る立場だ」と、昭恵氏に対する国会招致要求を拒んできた。あの発言は何だったのか。
時間が経てば、いつか国民は問題を忘れるだろう。官僚が用意した答弁を読み上げる首相や麻生氏の姿からは、そんな思いを感じざるを得ない。
■[コラム](大弦小弦)米音楽界最高の栄誉とされる第60回グラミー賞で… - 沖縄タイムズ(2018年1月31日)
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/202905
https://megalodon.jp/2018-0131-0940-52/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/202905
米音楽界最高の栄誉とされる第60回グラミー賞で、多くのミュージシャンたちが身に着けた白いバラ。「希望や平和、同情、抵抗」の意味が込められた。セクハラ被害者の支援や抗議の意思を示したものだ
▼映画界やスポーツ、政界など世界的に相次いでいるセクハラの告発。被害者支援のキャンペーンに連動する動きは広まり、白バラもそのひとつ
▼プロデューサーから受けたセクハラ被害を訴えている歌手のケシャさんは、自身の苦難を乗り越えた経験を歌ったとされる曲を多くのミュージシャンと披露した。あふれる感情が伝わるパフォーマンスが胸に響いた
▼自殺防止を呼び掛ける曲を披露したラッパーのロジックさんはさまざまな差別を訴え、「声を上げるのを怖がらないで」とスピーチ。共演者が着た「君は一人じゃない」のロゴ入りTシャツのメッセージも共感を呼んだ
▼大事なことは華やかな舞台に立つ人たちが訴えることでも有名人が言うからでもない。キーワードは連帯だろう。セクハラや性暴力に声を上げにくい現状がいまだにある。被害者を孤立させてはいけないという連帯は不可欠だ
▼おかしいことを真正面からおかしいと訴えることができる環境をつくるためにも、アーティストらが発するメッセージは心強い。白いバラに込められた思いを共有したい。(赤嶺由紀子)
■[記事] 教諭が9歳児童の鎖骨折る 宿題忘れ立腹、警察が捜査へ - 朝日新聞(2018年1月31日)
https://www.asahi.com/articles/ASL1Z5V5CL1ZTIPE021.html
http://archive.today/2018.01.31-004222/https://www.asahi.com/articles/ASL1Z5V5CL1ZTIPE021.html
福岡市西区の市立小学校で昨年12月、3年生の男子児童(9)が担任の男性教諭から暴行を受け、鎖骨が折れる重傷を負っていたことが市教育委員会などへの取材でわかった。被害の申告を受けた福岡県警は、傷害容疑で捜査を始めた。
市教委や関係者によると、昨年12月19日午前の休み時間中、男児が宿題を忘れたことに教諭が立腹。「できないなら帰れ」などと怒鳴り、男児の胸ぐらをつかんで壁に押しつけ、手のひらで肩をたたいた。
教諭は痛みで泣いている男児の顔を洗わせ、その日の授業を最後まで受けさせた。男児は合間に保健室に行き、保冷剤で冷やす処置を受けた。帰宅後に母親が病院へ連れて行き、骨折が判明。3カ月の重傷と診断された。
■[特集] りゅうちぇるも共感 「いじめ」という地獄 1000人の痛みに耳を傾ける大学生 - 沖縄タイムズ(2018年1月31日)
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/202813
https://megalodon.jp/2018-0131-0939-27/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/202813
◆青葉のキセキ-次代を歩む人たちへ-(10)第2部 傷を抱えて 優楓 寄り添う心(上)
「沖縄の大人に言いたいこと」
「沖縄に住む大人たちに聞いてほしいことがあります」-。こんな一文で始まるブログが昨年11月、インターネット上に現れた。
筆者は石垣島出身で「ゆか」と名乗る19歳。「すごくすごく大好きな地元だけど、私はずっとこの島で違和感を抱いて過ごしていました」。いじめやリストカット、貧困、親の暴力。同世代を取り巻く環境を明かし「なんで気づかないの??と苦しくて大人たちへの怒りでいっぱいで叫びたくなった」とつづる。
「どれだけ沖縄の海が美しくても、そこに住む子どもの心や体は対照的に荒んで助けを求めています」
記事は瞬く間に拡散。ブログ開設わずか1週間で6万アクセスを超えた。県出身タレントのりゅうちぇる(22)も「僕も立ち上がらないと」と共感を寄せ、石垣市議会では市に筆者と会うよう迫る意見も出た。
「心をえぐられるような作業」
ブログを開設したのは慶応大1年の島尻優楓(ゆか)(19)。昨年春に生まれ育った石垣島から上京したばかりだ。
「ナイフで切られ、トイレットペーパーを口に入れられた」「○○菌って呼ばれた」。優楓のスマートフォンには、10代のいじめ被害者からの長文が絶えず届く。顔見知りもいればネットでつながった人もいる。
「言いづらいことを話してくれてありがとう」「気持ちよく分かります」「相談できる人はいた?」。画面上の無機質な文字の行間ににじむ心の機微に神経を集中させ、一人一人に具体的な経緯を尋ねていく。
「心をえぐられるような作業」と優楓は表現する。自身もまた小中学校時代にいじめを受けた。他人であっても細部を聞くのは、自ら心の傷のかさぶたをはがすのと同じ。「苦しいですよ。追い込まれて自殺する夢もめっちゃ見る」。一時は大学の保健室で寝込む日々が続き、カウンセリングも受けた。
それでも「気持ちが分かる当事者こそ立ち上がらないといけない」と自分を奮い立たせる。目指すのは、10代がいつ、どこにいてもいじめの悩みを相談でき、心のよりどころにできるアプリの開発だ。
志を共有するのは読谷高1年の佐久間かざり(15)。いじめで同世代が自殺したニュースを見て、何度も心を痛めた。一人でも多くの経験をアプリに反映したいと、2人は1年間で県内外千人以上のいじめ被害者の話に耳を傾け、寄り添ってきた。
優楓は誓う。
「私自身つらかったし、友達も助けられなかった。せめて現状を変えていける大人になりたい」
「もしかしていじめられてる?」
学級委員長を任されるような優等生で、そこそこスポーツもできる読書好きな少女だった。「当時のことはよく思い出せないし、思い出したくない。包丁で心をぐさぐさ刺し続ける感じになる」。いじめられた記憶が今も、島尻優楓(19)の心を縛る。
最初に「もしかしていじめられてる?」と感じたのは小学校4、5年生のころだ。ある日突然、何をするにも一緒だったグループの数人に無視された。さらにクラスメートの前でばかにされ、わざとぶつかられ、プリントをしわくちゃにされた。教師に見えないよう毎日繰り返される「ちょっとした嫌がらせ」。殴る蹴るではなく、心への暴力だった。両親を悲しませたくないと、家では普段通り振る舞った。
「彼女たちは嫌がらせしながら、楽しそうに笑ってた。今もその顔は忘れられない」。いつしか誰かがこそこそ笑い合うのを見るだけで、悪口を言われていると感じるようになった。
小6の夏。小1から大切に扱ってきた読書カードが何者かにぐちゃぐちゃにされる事件があった。さまざまな世界に出会える読書が好きで、毎年「多読賞」を取るのが自慢だった優楓には「何よりつらい思い出」。次第に人と関わることが怖くなった。「私の何が悪かったのか。いじめられる理由を考えても分からなくて苦しかった」
「何があっても味方だから」
中学校に入学し、一時はやんだいじめ。だが、1年の夏に再び始まった。
通りすがりに「死ね」などと暴言を吐かれ、学年中に根も葉もないうわさを流された。「正直もう思い出せない。記憶の中から消えちゃった」。学校に居場所がなければ生きる意味がないように思え、どうしたら楽に死ねるか、シミュレーションもした。「当時を思い出すと、憎しみや悲しみでぐちゃぐちゃになる」
学校側の対応で、優楓の心は一層ささくれ立つ。いじめを相談した教師には「証拠がない」と取り合ってもらえなかった。
耐えられなくなって両親に打ち明けた。「どんなことがあっても優楓の味方だから」。その言葉が支えになった。「私が死んだって、いじめた子たちは罪悪感なんて持たない。悔しくて、今は何もできないけどとりあえず耐えるって思えた」。いじめの原因が分からないまま、自分を責め続けてきた優楓にとって「あなたは悪くないよ」と言ってくれる存在は大きかった。その体験が、いじめ相談のアプリ開発を思い付いた原点だ。
「いじめの証拠がないと言われるなら、記録するしかない」。自分を守る苦肉の策として、制服にICレコーダーを忍ばせ、学校に通うようになった。=敬称略(社会部・篠原知恵)
<優楓 寄り添う心(中)に続く>
◇ ◇
■[記事] 名画の灯、掲げ続け ミニシアターの草分け 岩波ホール50周年 - 東京新聞(2018年1月28日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2018012802000192.html
全国のミニシアターの草分けとなった岩波ホール(東京・神田神保町)が来月九日で開館五十周年を迎える。隠れた名画を発掘してファンを魅了し、映画文化の灯を守り続けてきた。同三日からは記念上映の第一弾「花咲くころ」を公開。支配人の岩波律子さん(67)は「今年も他では見られない映画をそろえた。映画は心の栄養になるということを若い人にも伝えていきたい」と意気込む。 (猪飼なつみ)
ホールの入り口付近には、これまで上映した二百四十五作品のチラシがすべて張り出されている。場内は二百二十の赤い座席が並び、七角形の天井が歴史を感じさせる。
ホールは、律子さんの父親で、岩波書店元会長の雄二郎さん(一九一九~二〇〇七年)が私財を投じて、一九六八年に多目的ホールとして開館。「いいことなら何をやってもいい」という方針で、義妹の高野悦子さん(二九~二〇一三年)に総支配人を任せた。
映画に特化するようになったのは一九七四年二月。外国映画の輸入と日本映画の海外普及に尽力した川喜多かしこさん(〇八~九三年)が、インドの名匠サタジット・レイ監督の「大樹のうた」を上映する劇場を探していて、高野さんと意気投合。二人で名画を上映する運動「エキプ・ド・シネマ」(フランス語で「映画の仲間」の意味)を立ち上げた。
この運動は「日本では上映されることのない第三世界の名作を紹介」「欧米の映画でも大手が取り上げない名作の上映」などを目標に掲げ、数々のヒットも生み出す。テーマごとの特集上映などを除いて、これまで公開された作品は五十五カ国・地域に及ぶ。
律子さんは「迷ったとき、いつもこの目標に照らして考える」と話す。今も、なるべく社員十人全員が作品を見て話し合い、動員を見込めるかどうかよりも「この作品が良かった」という純粋な感覚を大切にしているという。
高野さんについては「情熱的でおしゃべりで、ほかの人がやらないような難題に獅子奮迅する人だった」と振り返る。そして、今も高野さんの存在を感じている。「女性の視点で描かれているものや、戦争や暴力に反対する作品は、高野が喜ぶだろうなと思いながら選んでいる」
記念上映第一弾の「花咲くころ」もそうした視点で選ばれた。一九九一年にソ連から独立したジョージア(旧グルジア)の首都トビリシを舞台に、暴力の不毛さや内戦後の混沌(こんとん)、未来への希望が描かれている。
七五年から同ホールに勤め、企画と宣伝を担当する原田健秀さん(63)は「ネットの発達やグローバル化で映画のつくりが均一になっている今、映画の世界の多様性を示したい」と話す。「単館にとって厳しい時代だが、これまで通りに続けることが時代への抗議。これからも信念を持って作品を選んでいきたい」
<花咲くころ> 監督はジモン・グロスとナナ・エクフティミシュヴィリの夫婦。ベルリン国際映画祭国際アートシアター連盟賞受賞のほか、世界の映画祭で高く評価された。1時間42分。
◆マイノリティー支える存在
ミニシアターがブームになったのは一九八〇年代。映画産業に詳しい城西国際大の掛尾良夫教授は「岩波ホールの成功が、芸術性の高い作品の上映がビジネスになりうることを示した」と説明する。
しかし、九〇年代になると複数のスクリーンを持つシネマコンプレックスが普及。日本映画製作者連盟によると、全国の映画館のスクリーン数は年々増加しているが、増えているのは五スクリーン以上を持つ映画館のもの。四スクリーン以下の映画館に限ると、二〇〇〇年の千四百一スクリーンから昨年は四百二十九まで減っている。
最近ではインターネットでの動画配信も普及し、スマートフォンやタブレットで映画を見る習慣も広がりつつある。全国で歴史のあるミニシアターの閉館も相次いでいる。
全国のミニシアターなどでつくる「コミュニティシネマセンター」代表理事で、大分市の映画館「大分シネマ5」代表の田井肇さん(62)は「多くのミニシアターが岩波ホールのようにありたいと思って始まった。今も果敢に挑戦し、孤高の存在ともいえる岩波ホールに引っ張られている映画館は多い」とたたえる。
「商業的に成功する映画だけが残っていくのは、マイノリティーや個性のある人がどんどん居場所を失う社会と同じ。岩波ホールが在り続けることは、他の映画館にとってだけでなく、人知れず日本にとっての安心感にもつながっている」と話した。
■[コラム] <金口木舌>二つの顔 - 琉球新報(2018年1月31日)
https://ryukyushimpo.jp/column/entry-656398.html
http://archive.today/2018.01.31-004049/https://ryukyushimpo.jp/column/entry-656398.html
27日付本紙1面にため息を漏らした人もいよう。松本文明内閣府副大臣の辞任、米高官の発言を報じる記事とともに野中広務氏の訃報が載った。県民を軽んじる言動がばっこする中で沖縄に縁を持つ政治家が逝った
▼豪腕政治家に会ったのは10年前であった。日本兵に妹を殺されたというタクシー運転手の話からインタビューが始まった。初めて沖縄を訪れた1962年の体験を野中氏は晩年まで語り続けた
▼野中氏の評伝の多くが「二つの顔」を論じた。弱者への温かい目線と政敵への厳しい態度である。沖縄に対しても二つの顔で臨んだ。沖縄戦犠牲や米統治に対する償いの心と普天間問題で見せた強硬姿勢だ
▼米軍用地特措法改正案の審議における「大政翼賛会」発言は野中氏の沖縄観、歴史観を象徴する。沖縄戦の史実を歪めた教科書問題、政府主催の「主権回復の日」では舌鋒鋭く政府を批判した
▼海上ヘリ基地の是非を問う名護市民投票では負けた賛成派の健闘をたたえ「大きな勝利宣言だ」と断言した。ヘリ基地を拒んだ大田昌秀知事にも容赦しなかった。普天間問題の混乱の始まりに野中氏がいたことを記憶にとどめたい
▼評価は分かれるが、政界引退から15年を経ても沖縄に関する発言が注目された。存命なら「何人が死んだんだ」というやじを放った元副大臣に怒り、政権党の体たらくを嘆いたであろう。
■[コラム](余録)若き日の芥川龍之介が耳にした奇談を書きとめた… - 毎日新聞(2018年1月31日)
https://mainichi.jp/articles/20180131/ddm/001/070/196000c
http://archive.today/2018.01.31-003853/https://mainichi.jp/articles/20180131/ddm/001/070/196000c
若き日の芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)が耳にした奇談を書きとめた「椒図志異(しょうずしい)」に「影の病」という話がある。ある人が自分の部屋で机に伏している自分の姿を見た。よく顔を見ようと近寄ると、それはすぐ走り去って消えた。
そう、影の病とは自分の姿を自分で見るドッペルゲンガーのことである。芥川は自死にいたる晩年、自分の身に起こったドッペルゲンガーについて語り、小説「歯車」では自分の分身があちこちで知人らに目撃される話を書いている。
何とも不吉なドッペルゲンガーである。ならばソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で自分のアカウントやプロフィルが勝手にコピーされて有名人のフォロワーになり、自動的に「いいね」を送っていたらどうだろう。
英BBCのウェブサイトによれば、米国で他人の身元を盗み、SNSユーザーに大量の偽フォロワーを販売したとされる会社への捜査が始まるという。偽フォロワーを買っていたのは俳優や起業家、政治評論家らの著名人たちだった。
当の企業は違法行為を否定したが、今や恐るべきはSNSのフォロワー数が持つ影響力である。偽フォロワーを金で買えるなら支払いは惜しまぬという向きが多いのは間違いない。ドッペルゲンガーで「世論」は作れるという次第だ。
実際、米国のケースではリベラル派も右派も世論の支持を装うのに偽フォロワーを利用していた。いやはや当人の知らぬ間に分身がせっせと影響力のペテンに奉仕させられるネット社会の「影の病」である。
■[原発][記事] 送電網、空きあり 大手「満杯」 実は利用率2割 - 東京新聞(2018年1月31日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201801/CK2018013102000154.html
発電所からの電気を流す基幹送電線の利用率が大手電力10社で1~2割にとどまっていることが、京都大の安田陽特任教授(電力工学)の分析で分かった。再生可能エネルギーを手掛ける事業者が、大手電力から送電線に空きがなく「満杯」として、高額な送電線の増強費用を求められるなどで、事業をあきらめる事態が相次いでいるが、実際の送電線には空きが十分あることを示した。 (伊藤弘喜)
大手各社の基幹送電線計三百九十九路線について、一年間に送電線に流せる電気の最大量に対し、実際に流れた量を「利用率」として分析した。流れた電力量などは電力業界でつくる「電力広域的運営推進機関」のデータ(二〇一六年九月~一七年八月)を使った。
それによると、全国の基幹送電線の平均の利用率は19・4%。東京電力が27%で最も高く、最も低いのは東北電の12%だった。
一方で、各社が電気を流す余裕がまったくない「空き容量ゼロ」と公表した路線は全路線の34・8%にあたる百三十九路線だった。特に、東北電は七割近くの路線を「空きゼロ」と公表し、中部電も六割に上っていた。
再生可能エネルギーに限らず新たに発電事業を始める際、送電線を所有する大手電力会社に頼まなければならない。しかし、「空きがない」ことなどを理由に送電線の高額な増強費用を求められる事例が全国で発生。新興の再生可能エネ事業者には負担が重く、事業を断念する例も出ている。
だが、「空きゼロ」の送電線が多いにもかかわらず、実際の利用率が低いことは、送電線の運用によっては再生エネ導入の余地が大きいことを示している。
電力各社は「契約している発電設備の分は稼働していなくても空けておく必要がある」と話しており、「空きゼロ」が多い背景には運転停止中の原発向けまで、送電線を空けている事情も大きいとみられる。また、各社は全ての発電設備が最大出力した場合という極めてまれなケースを想定してきた。
安田氏は「送電線の利用実態に合わせるとともに、欧米で一般化している天候などに応じ送電線を柔軟に運用する手法を使えばもっと再生エネを受け入れられるはずだ」と指摘している。
<基幹送電線> 送電線の中でも特に太く、高圧で大量の電力を送れる電線。東京電力など大手電力会社が所有し管理。発電所や、各大手電力が所管する地域ごとの送電網同士も結ぶ。基幹送電線に流れる高圧で大量の電力は、支流の電線に入り、最終的に細い電線を通って家庭など消費者に届く。血管に例えると大動脈で、消費者に届く電線は毛細血管に当たる。