「命の決断」に向き合い、支える体制はできているのか。
妊婦の血液を採取し胎児の染色体の病気を調べる新出生前診断について、日本産科婦人科学会は一般診療として実施施設を拡大する方針を固めた。受診できる年齢や対象となる病気の要件緩和も検討している。
2013年に始まった新出生前診断は、臨床研究として大学病院など限られた医療施設で実施されてきた経緯がある。手軽さを理由に広がると「命の選別」につながりかねないことから、学会は結果の説明や妊婦の相談に応じる遺伝カウンセリング体制を重視してきたのだ。
対象も35歳以上の高齢妊娠や過去に染色体異常の赤ちゃんを妊娠したことのある人に限定。判定は胎児の先天性疾患のうちダウン症など3種類の染色体異常にとどめてきた。
本格実施に向けた議論は、高齢出産の増加によるニーズの高まり、認定を受けないクリニックの問題が相次いだことなどを背景としている。
無認定施設で、遺伝カウンセリングを行わず、年齢制限も取っ払い、性別判定の実施を宣伝したりするケースがあったという。
無認定クリニックに対し厳正に対処するのは当然だが、認定施設を増やし一般診療化すれば、検査の流れが一気に加速するのではないか。「受けることが当たり前」という雰囲気が生まれないとも限らない。
慎重な議論を求めたい。
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各地の病院でつくる研究チームによると、開始から4年間で検査を受けた妊婦は4万4645人。染色体異常の疑いがある陽性と判定され、おなかに針を刺す羊水検査に進んで異常が確定したのは605人だった。うち94%に当たる567人が人工妊娠中絶を選択している。
結果として「命の選別」につながったという批判は強い。
しかし検査を受ける受けない、産む産まないは、妊婦と家族が悩み抜いた末の結論である。責任を負わない第三者が口をはさむべきではない。
ただ「障がいのある子どもを育てる自信がない」という漠然とした不安が意思決定に影響を与えたとしたら、問題は医療や福祉、教育分野の支援体制にもある。
カウンセリングで病気の知識だけでなく、生まれた後の生活や支援などの情報がどの程度届けられたのか、課題を一度整理する必要がある。
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日本ダウン症協会のホームページにダウン症の子どもを授かった家族に向けてと題し、「発達の道筋はほぼ同じですが、全体的にゆっくり発達します」「子育ても特別でなく、少しゆっくり」などのアドバイスが並ぶ。
障がいがあっても大きく成長する可能性を秘めていて、同じような体験をした人の声を聞くことは重要だ。
一人一人の決断は重く、この問題に明快な答えはない。だからこそ産む決断を後押しできる「共生社会」をつくる努力を重ねなければならない。