オウム真理教の教祖の麻原彰晃の三女である松本麗華氏が、東京拘置所で父親と会えないという趣旨の記事を公開した。
この記事のコメントに本当に的はずれなものが羅列されてたので一応指摘しようと思う。と言っても本質的には既に上記のリンクで言われていることを繰り返すことになるのだが、そうでもしないとわからない人が多そうだからだ。
この場で松本氏が主張していることは
- 麻原彰晃は拘置所内で少なくとも2004年から昏迷状態にある
- それによって松本姉妹が面会を事実上拒否されている
- 十分な法の支配(Rule of Law)の施行がされていない
ということだ。本当に何も難しいことを言っていない。そして松本氏が言うことを100%信じれば、それは日本の民主主義にとって大変危険なことであることも意味している。
少なくともいつの段階から昏迷状態になっているのかはわからないので1に関しては多少の誤差があるだろうが、少なくとも報道されている糞尿だらけの部屋に隔離状態にされているというのが本当だったら誰だって拘禁反応を起こすのではないか。
そしてもしもそれが意図的に行われていたとしたら。そして治療を放棄して死刑判決を出していたとしたら。
松本氏の記事にも書かれているが、適正手続の保障を憲法が定めている。
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない
もしも死刑判決が出た時点で確実に昏迷状態でなかったとしたら、それは違憲であり公判手続停止することができるはずなのに、平然と同じ状況が続いている。
松本氏が言うことを鵜呑みにすると、司法(裁判所)と行政(拘置所)がグルになって麻原彰晃という「厄介児」を蔑ろにしているということになる。
僕は法学を学んだことがないので憲法をろくに理解しているわけではないが、憲法31条は日本の民主主義を守るために絶対に必要な原材料だと思う。
法の支配をちゃんと施行しないというのはどういうことかというと、裁判所が憲法を紙くずと見ているということだ。守るためにある法律が取るに取らないものになり、国家権力のためだけに市民が存在するようなディストピアになる。
だから松本氏が言う状況が本当ならとても深刻で、麻原彰晃の回復に向けて努力しなければいけないのだ。
松本氏が言うように、同じような事件が再び起こらないようにするためにも、法律が我々を守る必要がある。そのためには麻原氏はまず意思疎通が出来る状況まで回復しなければいけない。
よって気が狂ったオウム援護派の娘が「パパに会いたい」とメソメソ泣いている、みたいな見方は完全に間違っているとわかる。そもそも論点が違うし、松本氏は非常に理性的でファクトベースで物事を語る方だと僕は認識している。
ここまでまっとうなことを言っているのに、この記事に対する反応の9割が見当違いなネガキャンだった。
「お前の父親はやばい犯罪を犯したんだ!だから今でも生きてることを感謝しろ!」というコメントがたくさんあったが、こいつらは自分で自分の首を絞めていることに気づいていないのか?
これで昏迷状態にある死刑囚を死刑台にかけたら、それは国家権力が憲法や法律を好き勝手に解釈したり無視したりして市民に悪影響を与えるような社会を良しとすることになる。本当にそれでいいのか?
そして松本氏が言うように、あのような事件を起こさないためには麻原彰晃がどのような動機でどのようにサリン事件のようなテロ事件を起こしたのかを知る必要がある(まあ、松本氏はあの事件の関与についてはごにょごにょ濁しているが)。
お前は被害者の気持ちをわかってない!みたいなコメントもあるが、本当に論理が破綻しているなあと思う。確かにオウムの起こした犯罪行為は到底許されるべきではないし、あのような悲しみしか生まない事件はこれ以上起きないでほしいと切実に願う。
ただ、それとこれは全く別の問題だ。被害者感情ばかり優先されるような社会になっては法律や憲法が何を守っているのかがわからなくなる。
麻原もオウムもテロリストなので一刻も早く死刑にすべきだみたいなコメントがあるが、一度落ち着いてほしい。確かに安全保障面で短期的なメリットがあるかもしれないけど、長期的に見て国家権力が憲法を蔑ろにすることのほうが全然怖い。それはある意味、国家が巨大なテロリストになって市民の生活を脅かすということだ。そんなこと誰も望んでいないと思う。
もしも松本氏に建設的に反論したかったら論点になるのは
だ。
が、1に関してははっきり言って知りようがない。松本氏を含む関係者は麻原の精神状態についてちぐはぐな事を言っているが、経験談なのでソースとしては不十分すぎる。ただ麻原が詐病だと主張する精神科も実際いるため疑惑は完全に晴れない。
2に関して僕は心理学も法学もわからないので頭がいい人におまかせします。と言うのも、法的・心理学的に「昏迷状態」と「心神喪失」が科学の言葉としてどう違うのかよくわからないからだ。ただわかるのは、もしも適応されないとされたら松本氏の論ずるところの過半数が破綻するだろうということ。昏迷状態でも裁判は起こせるし、昏迷状態の死刑囚に死刑執行しても問題がない。司法と行政が国家権力を乱用しているという話も完全にナンセンスになる。
少なくとも1か2のどちらか、もしくは両方で松本氏をデバンク出来るとしたらそれは大いに構わない。ただ今現在でどこにも証拠がないため、松本氏に対するヘイトコメントには全く共感できない。
この記事からわかることというのは、日本の民主主義が破壊されてる可能性があるということだ。1か2に対する具体的な反論が出ない限り、ここが重要な争点になる。
法の支配がどれだけ重要なのかを示すビデオがある。日本語字幕もあるのでぜひ見てほしい。アフガニスタンで働く国際弁護士が話すとある少女の話。法の支配が弱いと6歳の女の子が借金返済のために嫁ぐこともよしとされる。
このビデオで報道の自由についても触れられているが、まさしく以前書いたエドワード・スノーデンの話と一致する。クリス・ヘッジス氏の報道の自由に関する発言に注目。また、ジェフェリー・ストーン氏の法の支配への拘りもアフガニスタンの女の子や松本麗華氏の例を見れば納得がいくだろう。
法の支配が弱まると知る権利が侵害される可能性がある、といったポイントは僕がこれからブログで議論していきたい。