解説者1年生・昌さん"大胆予想"の真意とは⁉
セカンドキャリアも3年目を迎え、不安だらけだった解説業も徐々に板についてきたようだ。最近では解説ブースで、野球の魅力を伝える面白さを噛みしめている。まだまだひよっことはいえ、周りを見る余裕が出てきたのかもしれない。
放送席から見るナゴヤドーム。引退して解説者になり見える景色は180度変わった。写真はぼくの相棒“ジャイ”こと山﨑武司とのダブル解説時の一コマ。
解説者は奥深いところに潜む勝負の綾を、限られた時間の中でわかりやすく視聴者に伝えなければならない。これは決して簡単ではないが、腕の見せどころでもある。
例えば2016年10月、ぼくは日本ハムファイターズと広島カープの日本シリーズを取材する機会に恵まれた。
伸び盛りの若いチーム同士が激突したシリーズは第5戦を終えて、ファイターズの3勝2敗。10年ぶりの日本一に王手をかけた。ここで焦点となったのが、第6戦の先発投手である。エースの大谷翔平を立てるのか、それとも別の投手で行くのか。
他局のスポーツニュースを見ると、ほとんどの解説者が大谷を予想していた。王手をかけた以上、もっとも信頼できる大谷で一気に決めに行くはずだ、というのが大方の論調だった。
だがその夜、日本テレビの報道番組「NEWS ZERO」に出演したぼくは次のように明言した。
栗山監督への”単独取材”で確信した《大谷の二段構え》
あえて逆張りをしたわけではない。シリーズ全試合を現場取材する中で、ぼくはしばしばファイターズの栗山英樹監督と立ち話をしていた。大勢の記者がいる囲み取材をチェックするのはもちろんのこと、練習後にひとりで引き上げてくるところで声をかけ、わずかな時間でも1対1で聞きたいことをぶつけていたのだ。
ちょっとしたやり取りを重ねる中で、ぼくには栗山監督の思考が次第に見えてくるようになった。そこで出した結論が《大谷の二段構え》というものだ。
第1戦に先発した大谷は、その後も打者として出場しているから疲れが溜まっているはずだ。だから第6戦の先発は回避して、休養十分の第7戦の先発に回すだろう。ただ第6戦が勝ちパターンになれば、ロングリリーフ、もしくは抑えもありうる——。
果たして、ぼくの見立ては当たっていた。ファイターズは大谷をベンチに温存し、先発に増井浩俊を送り出したのだ。結果的にファイターズはこの試合を制し、10年ぶり3度目の日本一に輝いた。
大好きな野球に携わり続けるためにできること
もちろん、これをもって「ぼくの予想すごいでしょ」と自慢したいわけではない。当たり外れは結果論。それよりもぼくが伝えたいのは、結果を推測する過程の面白さだ。
シリーズや試合の流れ、チームと選手個々の状況、そうしたいくつもの要素を考えて、ひとつの結論を出す。この考える作業の面白さを、みなさんと分かち合いたいのだ。
野球で生計を立てているぼくとしては、自分の解説を通じて、ひとりでも多くの人が野球を好きになってほしいという思いがある。野球ファンが減ってしまったら、ぼくも大好きな野球に携わることができなくなってしまうからだ。
そう考えたときに視聴者のみなさんに訴えられるのは、野球を考えることの面白さだと思う。
投手と打者の1対1の対決が繰り返される野球には、いくつもの分岐点がある。そして投球間、イニング間には間合いがある。こういう間合いを生かして、推理小説を読むような気分で視聴者と一緒にゲームを考えていきたいのだ。
「次はどんな球種で勝負しますか?」
「ピッチャーの代えどきでしょうか?」
「ここはバントで送りますか?」
試合では実況のアナウンサーから、次々と意見を求められる。そうしたとき、ぼくは自分なりの答えを出して、限られた時間の中で視聴者に伝わる形で理由を述べることを心がけている。
「昌さん、外しちゃったなあ」でも構いません
「投手は代えると思います、なぜなら……」
解説者が先を読んだコメントをすることで、視聴者は「どうなるんだ?」と、より試合に惹きつけられると思うからだ。それが当たれば当たり、外れたら「なるほど、こういう考えもあるのか」と感想戦をすればいいだけのこと。
「ああ、昌さん外しちゃったなあ」
そう思っていただいても構いません。その方が、見ている人もゲームを楽しんでいることになると思うから。
「ぼくはこう思います。なぜなら……」
いつもはっきりとわかりやすく。そういう解説を続けていきたい。
※本記事は、書籍『笑顔の習慣34 〜仕事と趣味と僕と野球〜』(内外出版社刊)の内容を一部抜粋、編集して掲載しています。