VRで誰もが「自分ごと化」して受け取れる報道へ
報道にVR技術が利用されるようになると何が変わるのか
海外のニュースメディアとVR
海外でも、数年前からニューヨーク・タイムズやCNNなどの大手メディアは報道に360°動画やVRを取り入れ始めている。
例えば、以下はニューヨーク・タイムズが公開している米大統領選当時、2016年に行なわれたドナルド・トランプ氏の集会の様子を収めた360度動画だ。こちらはPCで視聴できる。
360 VR: Donald Trump Rally | Election 2016 | The New York Times
ニューヨーク・タイムズは2015年10月に米Googleとの提携を発表し、VRコンテンツ提供プロジェクト「NYT VR」を立ち上げた。同名の無料アプリもiOS、Android向けに提供しており、100万回以上ダウンロードされた人気アプリとなっている。
さらに前述のプロジェクト立ち上げ発表の際は、ニューヨークタイムズの購読者向けにGoogleの簡易HMD「Google Cardboard」を100万世帯以上へ無償配布するキャンペーンも行なっている。VRと報道の相性の良さや、可能性を非常に重視していることがよく分かる。
VRが持つ強みと言えば、没入感。従来の平面的な報道から得られる情報だけでは、どうしても「自分ごと化」し辛い部分も大きいが、VRを上手く使えばあたかも自分がその場に立っているかのような臨場感を味わうことも可能だ。
とはいえ、何でもかんでもVR報道にすれば良いというものではない。過剰な臨場感が加わった結果、視聴者の心身を害する報道になってしまうこともあるだろう。ガイドラインは別途設けるべきだとは思うが、今はとにかく試してみないと分からない段階だ。
特に日本の報道に関して言えば、VRが持ち込まれているのはまだまだ一部のエンターテインメント系のニュースに偏っている。日本では海外ほどVRが普及していない点や、関連企業の多くが2020年の東京オリンピックに焦点を絞っている点を踏まえての状況でもあるのだろうが、それでは遅い。
ニューヨーク・タイムズが「The Daily 360」プロジェクトと称して2016年末からこの1年間、毎日360度動画を撮影、配信することにより実践から知見を蓄積していったことを踏まえると、日本はこの分野において遅れていると言わざるを得ない。
それというのも、前述したようなVRで撮影するべき物とそうでない物の線引きなどは、実際に動画を配信してみないと分からないだろう。HMDの普及と、動画作成による撮影や配信技術の向上は同時並行であるべきではないだろうか。コンテンツが少なければ、HMDの普及も望めない。
これまで難しかったニュースの「自分ごと化」、つまり「他者への共感」が誰にでも容易に行なえるようになれば、誰もが今よりもっと他者を思いやれるようになるかもしれない。なかなか普及が進まない国内VR事情についやきもきしてしまうのは、そんな期待もあるからだ。
まずは日本でも限られた分野のニュースだけではなく、より日常的な報道にVRが用いられるようになる日を楽しみに待ちたい。